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第64回 風力発電機用軸受のビジネスが活発化

NTN宝達清水製作所(提供:NTN)NTN宝達清水製作所(提供:NTN) 風力発電機の市場が世界的に拡大基調にあるなか、軸受各社では風力発電機向け事業を強化する動きが活発化してきている。

 風力発電機用主軸軸受で世界シェア3位のNTNは10月26日、風力発電機向けなど超大形軸受を製造する子会社、NTN宝達志水製作所(石川県宝達志水町)を稼働した。発電機のブレード(主翼)とロータの回転を支える主軸軸受の直径は1~3mにも及ぶ。新工場設立により、これら超大形軸受の旋削、熱処理、研磨、組み立てまでの全工程を一貫生産できる体制を構築、既存の桑名工場(三重県桑名市)と合わせて、超大形軸受の生産能力が倍増するという。

提供:三菱重工業提供:三菱重工業 風力発電機はブレード、タワー(支柱)、ナセル(発電を起す本体)からなる。ブレードで風を受けてロータを介して主軸が回転、その10~30min‐1の回転速度を増速機により発電可能な1,200~1,800min‐1という回転速度まで増やし、発電機により発電する(誘導発電機)。回転トルクを増速機に伝える主軸の軸受、増速機を構成するキャリア、遊星ギヤ、低速軸、中間軸、高速軸の各軸受、発電機用軸受がそれぞれ活躍している。

 ロータ主軸用軸受では常に変化する風によって荷重、モーメントや回転速度が大きく変動する。特に突風の際の過負荷による変形量や隙間管理が重要で、ブレードやギヤボックスの振動によってフレッティングコロージョンが発生する危険がある。このため軸受選定とすき間およびはめ合いの適正化と適正なグリース選定が重要となる。軸受鋼としては通常、焼入れ性の良いSUJ3やSUJ5などが使用されている。サイズが大きいため熱処理歪みの小さいことが求められることもある。

提供:日本精工提供:日本精工 風力発電機の増速機は高所に設置されメンテナンスが難しいことから、増速機用軸受には高い信頼性と長期の寿命保証が求められるほか、発電効率の向上を目的とした風力発電機の高出力化•大型化が進められており、負荷能力の高い軸受のニーズが高まっている。荷重負荷能力の高い軸受として、増速機用軸受には従来から総ころ円筒ころ軸受が使用されているが、総ころ円筒ころ軸受は転動体同士が回転中に直接接触することで高速回転の場合は焼付きや摩耗が発生し、それが高速回転実現化の障害になっていた。特に増速機用軸受では歯車群と高粘性の潤滑油が共通化されるため、歯車の摩耗粉など異物混入の潤滑条件になりやすく、異物混入潤滑環境下での長寿命化対策が求められていた。これに対し増速機用軸受でシェアの高い日本精工では、転動体材料に浸炭窒化熱処理技術を採用することにより、耐焼付き性と耐摩耗性を向上しつつ、転動体の端面形状の最適化によりアキシアル荷重負荷能力を飛躍的に向上、総ころ円筒ころ軸受で許容回転速度は約2.5倍(同社従来品比)へと向上している。

セラミック玉絶縁軸受(提供:ジェイテクト)セラミック玉絶縁軸受(提供:ジェイテクト) 発電機用軸受は特に日本で多い落雷や、帯電による軸受内部の電流通過によるスパーク現象(電触)の防止対策のため、寿命が長く信頼性の高い軸受鋼や肌焼鋼をベースにセラミックスの絶縁被膜処理を施した軸受やセラミックス製の転動体を使用した軸受など)が用いられている。

 こうした軸受の材料・表面改質での技術開発が進められているほか、風力発電機用軸受世界シェアトップのSKFや2位のシェフラーでは状態監視(メンテナンス)技術などメンテナンス技術、潤滑技術、ハウジングデザインも含めた事業展開を進めている。

 風力発電機は発電コストが最も安い再生可能エネルギーとして導入が進み、2008年に世界で前年度比41%増の3132万KW分が設置、2013年にはその3倍の発電能力が見込まれている。すでに欧州でメンテナンス需要が高まってきているほか、設置場所などの問題から普及の遅れている国内においても、小型ではゼファーやループウイング、大型では三菱重工や日本製鋼所グループなど日本勢の奮闘で、発電能力も徐々に増えてきている。特に模索が始まった洋上発電においては、軸受の海水による耐食性向上、メンテナンス期間の延長など、要求性能は厳しさを増す。風力発電機の普及拡大を支える軸受の材料、表面改質、ユニット化、メンテナンスを含めたトータル面での技術のさらなる進化に期待したい。