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第107回 24時間換気システムの普及で求められるベアリング技術

提供:パナソニック提供:パナソニック 2003年7月1日に国土交通省によりシックハウス対策に係る建築基準法が改正されたことで、住宅には原則として常時作動する機械換気設備の設置が義務づけられるようになっているが、近年ファンモータおよびベアリングに対して24時間作動に伴う静音化や省電力化などの要求が強まってきている。

 改正建築基準法(令第20条の8)では、内装の仕上げなどにホルムアルデヒド発散建築材料を使用しない場合であっても、家具などからもホルムアルデヒドが発散されるため、居室を有する全ての建築物に機械換気設備の設置が原則義務付けられており、この機械換気設備は原則として24時間作動で居室の空気を強制的に新鮮な外気と交換することを目的として設置される。給気と排気の両方をファンで行う「第一種機械換気方式」や排気のみをファンで機械的に行い、その結果生じる内外の気圧差を利用して給気口から給気することで換気を行う「第三種機械換気方式」などがあるが、いずれにしてもファンが常時回転しているため、建築物への換気設備の導入が進む中で、ファンモータ用軸受には居住空間における静音化と省電力化が求められてきていた。

 こうした要求に対したとえばパナソニックの24時間換気システムの一つである天井埋め込み型換気扇を見ると、20 dB 未満の低騒音で消費電力を最大で3~5割低減するブラシレスDCモータを採用している(平成20年度省エネ大賞資源エネルギー庁長官賞受賞)。

提供:NTN提供:NTN これらファンモータにおける静音化のニーズに対しNTNでは先ごろ、信頼性、静粛性に優れ、転がり軸受との互換性がある「動圧軸受ユニット」を開発した。現在、家庭用換気設備向けにサンプル提出を進めており、2011年度中の市場投入を目指す計画だ。

 NTNではすでに、焼結含油軸受の内径面に動圧溝を形成した動圧ベアファイト(焼結金属製動圧軸受)が2001年以降からHDD向けにスピンドルモータ・ファンモータなどで採用され、実績を残している。動圧軸受は軸と軸受が油膜を介して非接触で回転するため、静粛性に優れているものの、転がり軸受とは寸法や使用条件が異なることから、これまで転がり軸受から動圧軸受への置き換えには制約があった。一方で、改正建築基準法による全建築物への24時間換気システムの設置義務付けで家庭用換気扇の需要も増えているが、リビングルーム、寝室などにも取り付けられることから、特に静粛性に対する要求が高くなってきている。

 そこでNTNでは、この動圧軸受の静粛性という特徴を生かしつつ市場ニーズに応えるため、小型換気扇など、軸受荷重が比較的小さく荷重変動が少ない用途向けに、転がり軸受と同寸法で互換性のある動圧軸受ユニットを開発した。動圧ベアファイトを軸受部に採用し、優れた静粛性に加えて転がり軸受同等のトルクを維持したほか、ハウジングとの組み合わせでユニット化したシンプルな設計としている。

 一方、静粛性を阻害する要因として、フィルタが捕獲した埃などがファンモータ、さらには軸受内部などにはいることで、異音を発生させるという問題があった。

提供:日本精工提供:日本精工 これに対し日本精工(NSK)では、室内換気システム、分煙機用ファン、天井埋込型換気扇向けなど需要が増えている室内換気システムの軸受として、低トルク化による省エネ化や塵埃環境での防塵性能向上による静音化に貢献する「低トルク高防塵シール付き深溝玉軸受」を開発、サンプル出荷を開始した。NSKでは本製品の売上として2013年度に1億円の売上を目指す。

 室内換気システムは24時間稼動するため、軸受には低トルク化による省エネ性能が求められる一方、室内換気システムは夜間に寝室で稼動しており、異音の発生原因となる塵埃の軸受内部への侵入を防止するため、軸受には高防塵性能も求められる。

 NSKではこれらにニーズに対し、様々な使用環境に合わせ2種類のシール付き軸受を開発した。

①接触タイプ
 低トルク化のため、解析技術によりシールリップ剛性を最適化しシール接触圧力を標準品に対し約3割低減。シール接触による高防塵性能を損なわずに従来比で約3割摩擦損失を低減することでモータ消費電力を低減している。

②非接触タイプ
 防塵性能向上のため、シールと内輪の非接触シール部を延長、径方向すき間だけでなく、軸方向すき間も極小化するため、ゴムシールを採用。非接触シールによる低トルク性能を損なわずに防塵性を向上、静音性能を約2倍向上している。

提供:ジェイテクト提供:ジェイテクト さらにジェイテクトでは先ごろ、24時間運転でのファンモータ用軸受の電食による音響寿命を含めた長寿命化を図るべく、「長寿命電食防止軸受」を開発している。電食とは、軸受の損傷形態の一つで、モータ回転時に軸受の内外輪間に電位差が発生し、内外輪転走面と転動体の間で、グリースの油膜を介して電流が流れることにより、軸受内部が損傷し、音響寿命に至る現象。

 開発品では転動体にセラミックスを使用することにより内外輪転走面と転動体の間に電流が流れることを防止、グリースの長寿命化と電食防止を実現したほか、耐熱温度140℃の高温対応のゴム材質を用いたシールのリップ形状を最適化し、ゴムシールと内輪の接触を極軽接触とし、低トルク化を実現した。さらに、エステル油+エーテル油の基油にリチウム石けん増ちょう剤を配合した長寿命グリースを開発した。これにより雰囲気温60℃でのファンモータ寿命100,00時間以上の長寿命化を達成している。

 すでにエアコンやHDDなど電機分野で鍛えられてきたわが国の軸受の静音化技術、省エネ技術は世界に誇る技術の一つだ。建築物での24時間換気システムの導入が進む中、静音化や省電力化を追求するファンモータ用軸受の開発はますます進みそうだ。