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第158回 海底シールド工事の信頼性向上に向け岡山・海底トンネル事故の真相究明を!

岡山県倉敷市の海底トンネル事故現場岡山県倉敷市の海底トンネル事故現場 2月7日、岡山県倉敷市の鹿島建設施工の海底シールド工事で、海底トンネルの工事現場を襲った出水事故によって、作業員5人が行方不明となり、内1人が死体で発見された。同シールド工事は、水島港の海底約800mを結ぶ第二パイプライン防護設備で、JX日鉱日石エネルギーの2つの工場をつなぐ配管を格納する目的で施工していた。2010年10月からB工場側から縦坑(深さ約34m)の掘削を開始、2011年11月からは横坑(トンネル)の掘削をシールド工法で開始し約160mまで掘進したところで、トンネル内に水が流入、水は一気に縦抗の入り口付近まで上昇した。
パイプライン防護設備図パイプライン防護設備図
 シールド工法とは、トンネルの先端にシールドと呼ばれる茶筒状の鋼鉄製の外筒を設けて、崩壊しようとする土を押さえながら掘削を行い、内部でセグメントと呼ばれるブロックをリング状に組み立てていく。河川や海底下、大深度など、特に水圧の高い土砂層を安全に施工する工法として多用されている。
シールド掘削機シールド掘削機シールドマシン断面図シールドマシン断面図
 シールド掘進機(シールドマシン)では、土質に応じて調合した泥水をカッタヘッドチャンバ内にスラリポンプで加圧・送水し、切羽水圧および土圧に対抗させて切羽の安定を図る。掘削土砂は排泥パイプラインにより後方に流体輸送される。


 マシン先端で土砂を削るカッタビットには耐摩耗性に優れる超硬合金E2材やE-3材が用いられるが、これらの材料は衝撃には弱い。そこで掘削時の耐衝撃性を高め掘進距離を延長させるため、機械的特性を高める浸炭焼入れなどが施される。また、数mの大径旋回座ベアリングが高荷重を負荷しながらカッタヘッドの高速回転を実現、スムーズな掘進作業を実現している。シールドマシンの後方に高炉セメントB種など耐久性の高い補強材セグメントを送り、トンネルの内張りにしてトンネルを構築するわけだが、そのセグメントの搬送・位置決めには、剛性が高く動きが軽やかなローラタイプの直動転がり案内が使われ、滑らかにセグメントを供給する。一方、カッタビットで掘削した土砂はクロスローラベアリングなどに支持されたスクリューコンベアで、シールドマシンの外に運ばれる。シールドマシンのテール部では、ワイヤーブラシに発泡ウレタンを充填することなどで、高水圧下などでの止水性・耐久性を高め、シールドマシンへの水や土砂の侵入を防ぎ、稼働を円滑にしている。

 シールドマシン自体は、こうした技術の積み上げによって信頼性の高い掘削、トンネル構築作業を行うことの可能な多くの実績を持つ機械だ。しかしながら、現時点の調査では、工事元請けの鹿島建設がトンネルの掘削箇所の事前の地質調査を実施していなかったことが判明している。N値50以上の硬い礫で構成されていたという現場の土質は、10年前の地質調査を参考にしたものだという。これが本当で土質の把握ができていなかったのであれば、土質に応じて調合した泥水を加圧・送水し、切羽水圧・土圧に対抗させて切羽の安定を図るシールドマシンの仕事は、成り立たない。

 石油業界の高効率化・安定供給のための企業間での石油製品類のやりとりや、またシェールガスなど新たなエネルギーの受け渡しでも、海底パイプライン防護設備の需要は今後ますます高まるであろう。高性能のマシンがあっても、その使用方法や管理によって重大な事故を招いてしまうことは、先の原発事故を語るまでもなく明らかだ。海底シールド工事の信頼性を高め、エネルギー需給の安定性を高めるためにも、事故の真相究明を急いでほしい。