第31回~第40回

第31回~第40回 admin 2008年7月28日(月曜日)

第31回『アフリカの女王』

第31回『アフリカの女王』 kat 2009年3月2日(月曜日)

 今回はC・S・フォレスター原作、ジョン・ヒューストン監督による1951年度アカデミー賞受賞作品である。

 舞台は1914年ドイツ領・東アフリカの、ある村。ローズ・セイヤー(キャサリン・ヘプバーン)は宣教師の兄と村で布教活動をしていたが、折りしも勃発した第一次世界大戦からドイツ軍の乱暴で兄を失い敵国人として孤立、宣教師のもとに郵便や食糧を届けていたカナダ人の船乗りチャーリー・オルナット(H・ボガート)とともに、蒸気船「アフリカの女王」号で村を脱出する。チャーリーは戦争が終わるまで身を潜めようと提案する一方で、ドイツ兵に兄を殺されたローズは、川を下り、下流の湖に碇泊しているドイツ砲艦「ルイザ」に近づき、魚雷を舳先に装着した船をぶつけて撃沈しようと主張する。聖書を片手にとりすましているくせに物騒なローズと、飲んだくれながら終始彼女に押され気味のチャーリー。水と油のように見える二人の、急流あり、滝あり、葦の群生ありの川下りはどう展開していくのか。

 さて、タイトルのとおり主役は蒸気船「アフリカの女王」号である。蒸気機関は燃料を燃やした熱で、水を加熱し高温・高圧の蒸気を発生、その蒸気をシリンダー内に導いてピストンを動かし、シャフトを回転させ船尾のスクリューを回す。劇中、チャーリーはしょっちゅう薪をくべており、画面の片隅では常にピストンが上下している。ローズは後ろで舵を取っているが、あるとき急にチャーリーがエンジンを蹴り始めたのに驚き尋ねると、
「給水ポンプがたまに止まる。蹴ると動き出す」とのチャーリーの答え。
「ポンプが止まるとどうなるの?」
「ばらばらに爆発するだろうね」
蹴ると動き出す?昔はテレビの映像が乱れると本体の後ろのほうを叩いたりする場面をよく見かけたが、テレビにしてもエンジンにしても、叩いて蹴飛ばして直るシロモノではないと思うのだが。

 さらに続けてチャーリーが言うには、「女王もたまには蹴飛ばさないとね」。押し気味のローズをけん制したつもりか。「君の瞳に乾杯!」で有名な『カサブランカ』とは違ったボギーの一面が愉しめる作品である。

第32回『イージー・ライダー』

第32回『イージー・ライダー』 kat 2009年3月8日(日曜日)

 ヤマハ発動機と東北大学の加齢医学研究所・川島隆太研究室との共同研究により、二輪車に乗ることで運転者の脳が活性化されることを証明した。アメリカン・ニューシネマの代表作である本作は、二輪車に乗り続ける若者二人を主人公とした物語だが、彼らはライディングよりも別のことで脳が活性化されているようである。

 ドラッグの密輸で大金を手にした“キャプテン・アメリカ”ことワイアット(ピーター・フォンダ)とビリー(デニス・ホッパー)は、自由の国アメリカの幻影を求め、ハーレー・ダヴィッドソンで故郷のロサンゼルスから約束の地ニューオリンズの謝肉祭へと旅立つ。長髪で定住せず、マリファナやLSDを吸いと自由気ままな二人はヒッピー部落でも、沿道の村々でも悪口と殺意をもって迎えられる。自由の背後に人々は恐怖を感じるのであろう。自由の国アメリカに幻滅し始めた彼らの行き着くところは…。

 ところでドラッグで儲けた彼らは、もちろん銀行に金を預けたりはしない。何しろ脳が活性化されている。札を一枚一枚小さく丸めてチューブに詰めて栓をし、ガソリンタンクに収める。使いにくそうだがコンパクトで安全な金庫である。溶剤に侵されないチューブといえば、今なら半導体製造で多用されるPTFE製とかPEEK製というところだろうか。

 ヤマハと東北大学の共同研究では、「日常生活に二輪車乗車を取り入れることで様々な脳認知機能(特に前頭前野機能)が向上、メンタルヘルスでもストレスの軽減や脳と心の健康にポジティブな影響を与える」との結論があったが、この二人はドラッグを併用しているせいか脳も心も健康そうには見えない。しかし、BGMとしてザ・バンドやステッペン・ウルフなど自由を象徴するロックが流れる、田舎道をさっそうと走る二人の映像だけはストレスフリーであるように思える。

第33回『ミニミニ大作戦』

第33回『ミニミニ大作戦』 kat 2009年3月14日(土曜日)

 BMW JAPANでは3月2日をミニの日と名づけているらしい。先ごろ東京駅前にミニが集結、走行会が開かれた。1959年に英ブリティッシュ・モーター・カンパニーがミニを発売してから50年。BMW JAPANがミニのオーナーに呼び掛け、新旧ミニによるブランド誕生50周年記念パレードとなったらしい。

 本作でも、ミニが連なってちょこまか走り回り、カーチェイスを繰り広げている。『ミニミニ?』はもちろん邦題であって、原題は”The Italian Job“。つまり「イタリアでのヤマ」から、物語は始まる。ヴェニス、難攻不落の金庫に眠る50億円の金塊。天才的な強盗チャーリー・クローカー(マーク・ウォールバーグ)は、潜水プロであるスティーヴ(エドワード・ノートン)、天才ハッカーのライル(セス・グリーン)、最速のチェイサーであるロブ(ジェイソン・ステイサム)、爆弾づくりが得意なレフト・イヤー(モス・デフ)、伝説の金庫破りジョン・ブリジャー(ドナルド・サザーランド)を集め、金塊を盗み出す。だがスティーヴが裏切ってジョンを殺害、金塊を独り占めした。1年後、チャーリーと仲間たちはジョンの娘で鍵師のステラ(シャーリーズ・セロン)を加え、スティーヴから金塊を取り戻すミニクーパーを使った計画を進める。

 話は戻って、ヴェニスのヤマ。金塊を収めた金庫を奪う手口は、何と床をぶち抜くのである。つまり、金庫の置かれた2階の床をぶち抜き、さらにその直下の1階の床をぶち抜き、階下の川へと金庫を沈めて回収する手はずなのだ。金庫の置いてある2階の床つまり1階の天井と、直下の1階の床つまり川の上に、それぞれ80cm四方にペンキを塗り、それぞれに時限爆弾を仕掛ける。時限爆弾を作動させるや80cm四方の窓が二つぱっくり空き、金庫は高速エレベータの箱のように2階から川へと、まっさかさまに急降下する。仕掛けたのは、ペンキに反応して爆発するケミカル爆弾だったのである。物語で、この手口はほかの作戦にも使われる。ミニのカーチェイスとともに、見どころの一つである。

 ところでミニは早くから日本の愛好者が多い。概して座高高めの種族がこじんまりした車を嗜好するのに不思議な感じがしたものだが、1994年にBMWがローバーを総括するようになってからも、日本のファンは変わらず多い。一括りにできないミニのバージョンの多様性も、魅力の一つかもしれない。本作で使われているミニは金塊を積む予定だけあって、直列4気筒1.6Lエンジンにスーパーチャージャーを装着して大出力163psを絞り出す「クーパーS」。前後とも径の太いスタビライザーを装備、ばね定数とダンパー減衰力を高めたスポーツサスペンションプラスを装備と、悪路も含め激しいチェイスを繰り広げられそうなマシンである。大味なストーリーながら、ケミカル爆弾やクーパーSなどミニミニな…いや細かなアイテムに凝った一作である。

第34回『リバー・ランズ・スルー・イット』

第34回『リバー・ランズ・スルー・イット』 kat 2009年3月22日(日曜日)

 ロバート・レッドフォード監督・製作による、フライフィッシングを通じて家族の絆を描いた本作は、フライ(毛針)が投げ込まれ、鱒が跳ね上がる澄んだ渓流が心象風景となる、第65回アカデミー撮影賞受賞作品である。

 舞台は1920年代のモンタナ。二つ違いの兄弟、ノーマン(クレイグ・シェーファー)とポール(ブラッド・ピット)は、小さいころから父親のマクリーン牧師(トム・スケリット)にフライフィッシングと勉強を教わっていた。ノーマンは東部の大学に進学・卒業して故郷に戻るが、シカゴの大学から大学教授のオファーがある。一方、弟のポールは地元にとどまり地方新聞社の記者を務め、酒と賭けポーカーにのめり込みながらも、なおもフライフィッシングの魅力にとりつかれている。

 フライフィッシングでは、ライン(釣り糸)の重さによってフライを飛ばすキャスティングが決め手。作中でも父親の牧師が徹底的にキャスティングの練習をさせる。イチ、ニ、サン、シの四拍子でキャストしろと言い、リズムを刻ませるのにメトロノームを使う。もちろん1920年代だからデジタル式ではなく、三角の振り子式メトロノームである。

 重り(遊錘)の上下でテンポを変える機械式メトロノームは、駆動源であるゼンマイから複数の歯車を介して、間欠的に回転する「がんぎ車」に動力を伝達、がんぎ車が振り子軸に設けられた部品と噛み合うことで、振り子を揺動させたり打突音を慣らしたりする。その音量は三角のボディや中の空洞により増幅される。ところで常に稼動しているメカと違って、放置されることが多いメトロノームでは、動き始めのなじみを良くする目的から二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤が配合されているらしく、リズムを刻む音色の高級感にも潤滑要素が影響しているそうである。その滑らかに正確に刻まれるリズムにのって兄弟はキャスティングを練習するが、兄ノーマンはそのリズムを乱すことなく成長し、弟ポールは変則的なリズムへと展開させ、渓流や岩や木々と独創的な交響曲をつくっていく。

 そんなポールは小さいころ「大きくなったらフライフィッシングのプロになりたい」と言い、兄のノーマンに「そんな職業ないよ」と笑われる。確かにこの時代にはないが、今やプロのフライフィッシャーなるものが厳然といて、テレビや雑誌などでフライフィッシングを紹介したりしているそうである。そんな職業が当時存在すれば、ポールも賭けポーカーでトラブルに巻き込まれることなどなかったかもしれない。牧師の父親はいつまでもやんちゃで手に負えないと敬遠しながらも、川面に向かうや純粋な存在に化すポールを「それでも天才的なフライフィッシャーで、美しい」と評価する。若いうちにこの原作があれば自分が演じたかったであろう監督ロバート・レッドフォードが選んだポール役、ブラッド・ピットは、実にはまり役である。彼の心を、家族の心を、観る人の心を、きらめく清流が流れ続けるような一作である。

第35回『北北西に進路を取れ』

第35回『北北西に進路を取れ』 kat 2009年3月29日(日曜日)

 本作は、アルフレッド・ヒッチコック監督の「巻き込まれ型」サスペンス・ドラマ。広告マンのロジャー・ソーンヒル(ケーリー・グラント)は、ある一味からカプランなる人物に間違えられ、ニューヨークのホテルから拉致、ある仕事への協力を強いられるが、それを断った途端に命を狙われ、殺人の汚名を着せられ、逃亡者の身ながら、シカゴのホテルに移ったというカプランを追って20世紀特急でニューヨークからシカゴへ、真実へと迫っていく。

 有名なのは左のポスターにあるシーン。20世紀特急内でキャビンにかくまってくれた謎の美女イブ・ケンドール(エヴァ・マリー・セイント)の伝言で荒野に向かったロジャーを、遠くで農薬をまいていたはずのセスナ機が超低空飛行で追いかける。入り組んだトウモロコシ畑なら安全だろうと逃げ込んだロジャーの頭上からセスナは、吸い込めば死に至ることもある粉剤の農薬を散布する。

 「グラマン アグキャット」に代表される農業機は、薬剤散布用のポンプおよび散布機器を持ち、翼の下から農薬をスプレーする。コックピット内に農薬が流入しないよう、操縦席は密閉され加圧(与圧)されている。エアコンを通った外気だけがコクピットに入る仕組みになっている。『地獄の黙示録』ではヘリコプターで農薬をまくが、ヘリコプターではコックピットが与圧されていないようだ。噴霧器を積んだ無人ヘリコプターによる農薬滴下が行われているのは、近隣住民への配慮と操縦士の安全のためか。

 ヒッチコックの巻き込まれ型サスペンスは、犯罪がらみのロードムービーだ。シーンはついには、ワシントンら偉人の顔が刻まれている有名なラシュモア山岩壁でのチェイスにまで至るのである。その巧妙なプロット、ボンドガールならぬヒッチコックガール、スリリングありの魅惑的なトラベルと、見どころ満載だ。

第36回『チェーン・リアクション』

第36回『チェーン・リアクション』 kat 2009年4月5日(日曜日)

 ハイブリッド自動車の競争が激化する中、電気自動車、燃料電池自動車の開発も進められ、水素自動車も登場している。このうち、廃棄までを含む自動車のライフサイクルからは水素自動車が完成形とする見方もある。電気自動車が有害な物質を排出しないと言ってもリチウム電池の処理はどうするのかというわけだが、議論はさておき、今回は画期的な水素エネルギー発生装置開発に絡む陰謀に巻き込まれたエンジニアたちのサスペンス・アクションである。

 シカゴ大学のエンジニア、エディ(キアヌ・リーブス)らバークレー博士率いるプロジェクト・チームは、ほんのわずかなエネルギーで水を分解し水素エネルギーを取り出す装置「ソノ・ルミネセンス」の開発に成功、打ち上げパーティを終え、同じチームの物理学者リリー(レイチェル・ワイズ)を家に送りラボに立ち寄った彼は、バークレー博士の死体と激しく振動している装置を見る。装置の反応を停止できずバイクでラボを後にするエディの背後で、仕掛けられた爆弾が爆発し大量の水素に引火、ラボはもちろん一町画が吹き飛ぶ。罠にはめられたエディは容疑者としてFBIと謎の組織に追われながらも、事件の真相に迫る。

 作中、水素発生装置の反応が安定せず爆発を起こしそうなところを、自分のロフトで研究していたエディが、グラインダーで何かを削っている際の周波数が装置内の反応を安定させることに気づく、という場面がある。装置のキーとなる周波数をエディだけが知っているために謎の組織に追われるというわけだが、何を削っているのか、なぜ削っているのか、実に気になるところである。

 FBIに追い詰められたエディが跳ね橋が跳ね上がっていくところを駆け上がったあげく、橋の下の巨大な(高トルクの)ギヤに突っかい棒をして動きを止めるなど、「マトリックス」直後の作品ということもあり、正統派のSFというよりキアヌ・リーブスのアクションがメインの突っ込みどころ満載の映画である。

第37回『ハスラー2』

第37回『ハスラー2』 kat 2009年4月13日(月曜日)

 本作は、ポール・ニューマン主演による『ハスラー』の続編で、日本にビリヤード・ブームを巻き起こしたマーチン・スコセッシ監督作品である。前作でヤクザまがいの胴元とのいさかいでハスラー稼業から足を洗ったエディ(ポール・ニューマン)は、ナインボールで天才的なキューさばきを見せ一方的に相手を打ち負かすヴィンセント(トム・クルーズ)の胴元となり、数ヵ月後のアトランティック・シティでの大会までの道すがら、プールバーをめぐり、賭けビリヤードでの荒稼ぎをもくろむ。しかし、素人を装って稼ぐというエディの指示に従わず勝ちにこだわるヴィンセントを見守るうち、エディの気持ちはいつしか現役ハスラーへと戻っていく。

 エディが現役に復帰する前、視力の衰えを感じ、度付きサングラス(たぶんレイバン製)を作る場面がある。両目に据えられた機器にレンズを数枚入れ替え、継ぎ足し、セットして、位置を調節し、近視や乱視の度合いを測る。近年、眼科や眼鏡店に置いてある光学機器は、自動で高速レンズ切り替えを行うが、これは屈折測定であって、視力測定ではないらしい。もっとも最近は眼鏡やコンタクトレンズを作るよりほかに、角膜にエキシマレーザーを照射しその曲率を変えることで視力を矯正するレーシック手術という選択肢もある。レーザーを角膜に照射する部分の機器の衛生管理の不徹底から感染性角膜炎を引き起こすという事故があっても、眼鏡やコンタクトレンズに比べランニングコストが安いなどのメリットから、手術を受ける人は急増しているという。

 さて、ポール・ニューマン扮するエディはサングラスをかけてプレーするようになるが、光量の加減ではかえって玉が見にくいのではないかと思う。というのも、オリジナルの『ハスラー』はモノクロ作品で、今見ると、せっかくのエディの華麗なキューさばきながら、実際何番の玉がポケットに入ったかが分かりにくいという難点がある。

 きっと、『ハスラー』はビリヤードをテーマにしたストーリーを、『ハスラー2』はビリヤードのプレーを愉しむというのがいいのだろう。もちろん円熟味を増し本作でアカデミー主演男優賞を受賞したポール・ニューマンの演技の妙は見逃せない。

第38回『ブルース・ブラザース』

第38回『ブルース・ブラザース』 kat 2009年4月19日(日曜日)


 帽子、サングラス、ネクタイ、スーツ、すべて黒ずくめの二人組みと言えばブルース・ブラザースである。現在活躍中のお笑いコンビ「2700」もそんないでたちだが、もちろん平成のブルース・ブラザースと名乗っているとおりオリジナルではない。日米問わず、コメディアンで彼らのファンは多い。

 イリノイ州、刑務所から出所したジェイク(ジョン・ベルーシ)は孤児院で弟のように共に暮らしてきたエルウッド(ダン・エイクロイド)のパトカー風の車で出迎えを受け、孤児院で母親代わりのシスターと会い、税金が払えず差し押さえ寸前だと知る。警察、マシンガンや火炎放射器などで襲う過激な謎の女(キャリー・フィッシャー)、ナチ党や何やかやに追われながら、以前の仲間を集めブルース・バンドによるコンサートで税金を作ろうとするが…。

 さて、本物のパトカーの追っ手をかわし爆走するパトカー風の車、エルウッドが「ブルース・モビル」と名づけた車は、「1974年型ダッジ」である。「こんな車は気に入らない」というジェイクに、エルウッドは車の性能を見せる。何と急発車し、ほとんど跳ね上がりかけている急勾配の跳ね橋(跳ね橋は本当によく登場する)を車で駆け上がり、川を越え、向こうの跳ね橋に飛び移るのである。…なんてことはできないと思うが、パワーのある車ではあるらしい。1970年にマスキー法(自動車排ガス規制)が成立してからというもの、高出力エンジン搭載車の多くが生産を止め市場から消えていく。しかしその中で比較的設計が新しいエンジンを搭載していたこの車は、圧縮比を下げるなどでマスキー法に対応しながらもそれ以前に劣らないエンジンフィールを維持していたらしい。アクロバティックな走りの後、エルウッドが言う。「規制前のエンジンだから加速がいい。サスペンションもいい」と。トイザらス(公開当時、日本では展開していない)などショッピングモールを破壊しつつ追っ手を振り切るダッジの後には、西部警察など目ではないパトカーの残骸が山を築いていく。

 ジョン・ランディス監督の本作は、単なるコメディー映画ではない。ジェームズ・ブラウンやレイ・チャールズ、アレサ・フランクリンなど大物ミュージシャンもキャストしての音楽あり、カーチェイスありの、当時の額で製作費約30億円という、アクション・ミュージカル・コメディーの大作である。

第39回『コーヒー&シガレッツ』

第39回『コーヒー&シガレッツ』 kat 2009年4月27日(月曜日)

 オフィスや駅の終日禁煙など世界で嫌煙の風潮が強まっているが、本作はジム・ジャームッシュ監督の、タバコとコーヒー好き?の面々がとりとめもない会話をしている、という話が11篇続く映画である。だが、トム・ウェイツやイギー・ポップらミュージシャン、ケイト・ブランシェットやビル・マーレイら実力派俳優のキャスティングで、実にユーモラスな会話を繰り広げている。

 すべての話が俳優あるいはミュージシャンの実名で演じられる。「カリフォルニアのどこかで」では、イギー・ポップとトム・ウェイツはどこかのカフェで落ち合い、何だかんだコーヒーをがぶ飲みし、何やかんやであっさりと二人とも禁煙を解き、お互いの曲がそこの店のジューク・ボックスにないことを揶揄したりしてギクシャクしながら別れる。ビル・マーレイが給仕している深夜のカフェでの話「幻覚」ではGZA、RZAが会話、「寝る前にコーヒーを飲むとインディー500みたいにものすごいスピードで映像が過ぎていく」なんていうセリフが出てくる。インディー・カーの時速は300km近い。そんなものがいくつもいくつも行き過ぎたら、確かにめまいが起こりそうではある。が、就寝前のコーヒーがそんな効果を生むかどうかは定かではない。

 さて、「ジャック、メグにテスラコイルを見せる」という話がある。そわそわするジャック・ホワイトに メグ・ホワイトが促すと、カフェなのにジャックが取り出すのはテスラコイルの装置。テスラコイルは高周波・高電圧を発生させる共振変圧器である。ニコラテスラによって考案されたものは空芯式共振コイルとスパークギャップを用い、二次コイルの共振を利用して高周波・高電圧を発生させるもので、現在でも蛍光管の出荷検査の際に検査装置として使われたり、HIDランプの点灯回路にも応用されるほか、液晶バックライトに使われる冷陰極管を点灯させるための変圧器はフェライト・コアを用いて小型化を実現したテスラコイルである。ジャックはテスラコイルについていろいろと説明し実験を始めるのだが、実は原理についてはメグのほうが詳しいらしく、うまく作動しないのを見かねて、「共振コイルのスパークギャップが開きすぎたんじゃない」とか言ったりする。気まずい感じでジャックが去るが、メグはジャックの「地球はひとつの共鳴伝導体らしいよ」という言葉をひどく気に入ってコーヒーを飲んでいる。

 このセリフは最後の話「シャンパン」でも登場する。ビル・ライスとテイラー・ミードが地球最後の日のような静かな暗がりの一室の昼休み、コーヒーをシャンペンのつもりで飲みながら話をする。なぜかクラシック音楽の話をしている。その流れで「地球はひとつの共鳴伝導体らしい」とのセリフが出る。耳を澄ますと、重低音で音楽が流れているようだ。

 どこかちぐはぐな会話の中にシニカルな笑いがあり、また豪華キャストがコーヒーとタバコをめぐる微妙な演技を繰り広げるという、実に変わった映画である。それぞれカフェという固定した場面ながら、ジャームッシュだけにロードムービーの趣きもある、不思議な風景である。

第40回『おしゃれ泥棒』

第40回『おしゃれ泥棒』 kat 2009年5月11日(月曜日)

 シャルル・ボネ(ヒュー・グリフィス)は美術品収集家と称しているが実は贋作者。1人娘のニコル(オードリー・ヘップバーン)は父親の仕事を止めさせようとしているが、反対を押し切ってやはり贋作であるチェリーニのビーナス像を美術館に出品する。そんな折、調査を依頼された私立探偵のサイモン・デルモット(ピーター・オトゥール)がニコルの屋敷に忍び込んでゴッホの贋作を調べていたがニコルに見つかり、苦しまぎれに泥棒だと名乗る。一方、リーランド(イーライ・ウォラック)というアメリカの美術収集家が出品されたビーナス像を気に入り、科学鑑定することに。困り果てたニコルは「泥棒」のサイモンに頼んで、美術館からビーナス像を盗み出すことになる。

 売価100万ドルというビーナス像だけに警備は厳重である。像の周囲を赤外線センサーが張り巡らされている。そこで登場するのが、オーストラリアの原住民、アボリジニ族が狩りに使ったというブーメランである。センサーの届く範囲にブーメランを投げ、警備をかく乱させる手だ。警報が鳴るころにはブーメランはサイモンの手に戻っている。これを何度か繰り返しシステムを解除させる手だ。

 さて、飛行機の翼と同じような形をしたブーメランは、回転によって揚力を発生させる。この際、ブーメランの上のほうの揚力が大きいため、ブーメランを手前に倒そうとする。自転車に乗っていて体を左に傾けると自転車は自然に左に回ろうとするが、この回転している物体に働く歳差運動(ジャイロスコープの原理)と同じことが回転しながら前方へ飛んで行くブーメランにも起こり、結果としてブーメランは大きな円を描き、 投げた人のところ戻ってくる、という原理である。だが、ある実験によれば、ブーメランの羽の角度、全体の質量、ブーメランの正しい投げ方、風の向きなど、様々な条件を満たさないとブーメランは正確に戻ってこないとの結果が出たそうだ。

 ドジな私立探偵にそんな精巧な技が可能か、といった野暮な観方はやめよう。なんといっても『ローマの休日』のウィリアム・ワイラー監督とオードリー・ヘプバーンがコンビのパリものである。”HOW TO STEAL A MILLION”なんていう原題よりも、『おしゃれ泥棒』のほうがずっといい。オードリーのジパンシー・ファッションや脚線美は必見である。