第021回~第030回

第21回 初代新幹線「0系」が44年の歴史に幕―高速車両を支えるベアリング技術

提供:JR西日本 高度成長時代の象徴として登場し、「団子鼻」の愛称で親しまれた初代新幹線「0系」が11月30日に定期運転を終了、12月6日、13日、14日の新大阪?博多間臨時「さよなら運転」で、44年の歴史に幕を下ろした。

 0系新幹線「ひかり」は東京オリンピック直前の1964年10月1日にデビュー。最高時速220kmで走り、特急で片道6時間半かかった東京?新大阪間を約4時間で結んだ。最高時速260Kmの仏TGVの営業開始は1981年からなので、当時の世界最高速車両だった。

 0系新幹線の開発は開業の約10年前、1953年ごろから始まった。しかし実は第二次世界大戦後、GHQの指令で転がり軸受の使用が禁じられた。「転がり軸受は軍需産業であり、日本で手掛けてはならない」という主旨である。しかし転がり軸受は、高速車両の要となる技術。車軸には不可欠だ。そこで当時国鉄(現JR)技師長だった島 秀雄氏(新幹線の祖)が陳情、説得して、ようやく転がり軸受の使用が認められることになったのである。

 当時の在来線の車軸軸受では封入したグリースによる潤滑が一般的だったが、0系では高速走行での信頼性を高める仕様として、タービン油による油浴潤滑方式を採用した。

 ここで難しくなるのはオイルシールの技術。軸受が走行時に外気で冷やされ80℃程度なのに対し、オイルシールのリップ部分は、高速走行による摩擦熱に敏感に反応し、120℃まで上がる。シールからのある程度のオイルの漏れは許容していたようだが、大量に漏れてブレーキが効かないでは済まされない。もちろん軸受の潤滑不良による故障もまずい。当時は耐熱性、コスト、極圧添加剤への耐性などから、シール材料にアクリルゴムを使って、要求をクリアした。

 以降、最新のN700系で300km/hと高速化が加速する一方、安全性を確保した上でのメンテナンス周期の長期化が求められてきている。高速運転での転がり疲労対策としては高清浄度鋼の使用や温度上昇を抑える軽接触タイプのオイルシールのほか、運行中の軸受のモニタリングシステムなども、メンテナンス周期の長期化では重要だ。

 軸受、潤滑油、シールなど個々の要素技術は日々向上してきているが、その基盤に0系開発における高いレベルでの技術の積み上げがあったことを忘れてはならないだろう。産業界の活性化に向けた新たなスタートが求められる現在こそ、0系開発のフロンティア精神に学ぶところは多い。

 あらためて「団子鼻」に、「ご苦労さま」と言いたい。

第22回 石油業界の再編?潤滑油開発の活性化を

 新日本石油(新日石、西尾進路社長)と新日鉱ホールディングス(新日鉱HD、高萩光紀社長)が先ごろ、経営統合を行うことで基本的合意に達した。石油精製販売、石油開発および金属の各事業を併せ持つ世界有数の「総合 エネルギー・資源・素材企業グループ」への発展などを目指す基本コンセプトをもとに、両社で本経営統合に向けた実行計画を立案し、2009年3月をめどに「経営統合に関する本契約」を締結、同年10月に統合持株会社を設立し2010年4月に中核事業会社を設立する予定。両社の2008年3月期の連結売上高は 新日石HDが7兆5,240億円、新日鉱が4兆3,395億円で、単純合計すると11兆8,635億円。国内ガソリン販売シェアが新日石とジャパンエナジー(新日鉱HDの石油部門)の合計で36.5%を占める世界10位内の石油会社が誕生することになる。だが将来的な意味合いとしては、燃料電池やヒートポンプなど新エネルギーに活路を見出す新日石と、半導体ターゲット材料など電子材料に強みをもつ新日鉱HDのシナジー効果による新たな
ビジネス創生に期待するところが大きいだろう。

 統合の大きな背景としては、ガソリンなど石油製品の国内需要低迷による収益力低下への危機意識がある。石油元売各社とも、「国内市場の急速な縮小から単独での生き残りが難しい(新日鉱HD・高萩社長)」との認識を強めている。石油業界の収益悪化は、石油業界の設備過剰という構造的要因に起因している。1日あたりの原油需要は400万バレル程度だが、国内の製油所の原油処理能力は日量約480万バレルに及ぶ。両者では、「石油精製販売事業を中心に全事業部門でコストを点検し、聖域なき合理化・効率化を推進するとともに、経営統合によるシナジー効果で年600億円以上の統合効果を実現、継続的にその上積みを図って年1,000億円以上を目指す」としているが、設備過剰に対して「両製油所を含め統合から2年以内に日量40万バレルの処理能力削減を図る」(新日石・西尾社長)考えを示している。

 ところでこの経営統合は、「メカの血液」である潤滑油の分野でも、大きなイベントであろう。新日石、ジャパンエナジーをはじめ石油元売会社は、エンジンオイルや油圧作動油など潤滑油のメーカーでもあり、添加剤こそ購入しているが鉱油系のベースオイル(基油)は基本的に精製し、グリースメーカーや加工油メーカーなど潤滑油専業メーカーに販売している。なかでもグループ3基油と言われる高度精製基油(高粘度指数基油)は、省燃費エンジンオイルの主要技術となっており、これをリードしているのが石油元売メーカーということになる。

  近年、地球環境保全などから省燃費化などを狙ったエンジンオイルの日米自動車工業会規格(ILSAC規格)が3?4年周期で更新され、1試験項目で数千万円という取得費用も大きな負担となっている。今回のような統合でこうした負担がいくらかでも軽減され、地球環境保全に必要な開発の促進につながればと思う。

 両社とも自動車用潤滑油、工業用潤滑油を幅広く扱っており、統合後には油種統一の方向に向かうと見られるが、新日石が極微量油剤潤滑(MQL)用切削油を手がけ、ジャパンエナジーがハードディスクドライブ用流体軸受モータ用潤滑油を手がけるなど、それぞれ独自分野を有している。重機からMEMSに至るまで、メカにとって潤滑油はその機能を支える重要な要素である。統合によるシナジー効果が、こうしたメカの多岐にわたる要求への対応に及ぶことを期待している。

第23回 2008年交通事故死、5,500人を下回る?シートベルト装着が奏功

 警察庁のまとめによると、わが国の2008年交通事故死者は前年比約10%減の5,155人だった。「2010年までに5,500人以下」という政府目標を前倒しで達成した。分析では、飲酒やスピードの出しすぎによる死亡事故が2?3割減少、後部座席シートベルトの着用率向上が奏功したとしている。

 2007年6月14日に「改正道路交通法」が成立し、2008年6月1日から後部座席のシートベルト着用が、運転席・助手席と同様に義務化されている。

提供:タカタ提供:タカタ 一般的な3点シートベルトは緊急時ロック式巻き取り装置(ELR、Emergency Locking Retractor)と呼ばれる装置を内蔵、衝突の衝撃で乗員の上半身が前のめりになるとその分のベルト引き出しをセンシング、それ以上ベルトが引き出されないようロックをかける。

 自動車の衝突時にベルト(ウェビング)のたるみをとり除くことにより、乗員が前方に動き出す前に確実に固定し乗員の保護性能を向上する目的で装備されているプリテンショナー(図1、Pretensioner)という機構も標準装備となってきている。

提供:東海理化提供:東海理化 プリテンショナーの作動には通常火薬を用い、火薬が爆発する際に発生するガスの力でウェビングを引き込む。衝突後10?15m/秒でプリテンショナーの作動が開始し、巻き取りは数m/秒内に完了する。

 リトラクターの回転シャフトにトーション・バーを用いて、衝突時にそのバーを捻ることでウェビングを数cm引き出し、乗員の身体にかかる負担を軽減する「フォース・リミッター」(図2)という装置が働くタイプもある。

 近年では、走行中に車間距離が不足するとシートベルトが軽く引き込まれ、追突が避けられないような状態でシートベルトが強く引き込まれる、センサー+モーター内蔵の「モーターライズドシートベルト」(タカタ)や、従来の衝突時に働く「プリテショナー&フォースリミッター機構」に、「モーターによるベルト巻き取り」を加えることにより衝突時の初期拘束性能が向上した、プリクラッシュセイフティシステム対応の「モーターリトラクタ付シートベルト」(東海理化)など、さらに先進安全的なシートベルト機構も登場してきている。

 シートベルトは安価ながら効果が高いシステムといわれる。警察庁では2009年の目標を交通事故死者5,000人以下としているが、この信頼性の高いメカニズムを利用することで、不測の事故による生命の危機がいくらかでも減少できるよう、シートベルト装着率のさらなる向上を期待してやまない。

第24回 グリーン・ニューディールで経済活性化と雇用促進を

 最近、「グリーン・ニューディール」という言葉をよく聞く。戦前の大恐慌時のニューディール政策にちなみそう呼ばれるが、「緑の内需」といった意味だそうである。米国のオバマ次期大統領は、今後10年間で15兆円を自然エネルギーやエコカーなどに投じて500万人の雇用を生み出すと提唱する。

 EUでも2020年に自然エネルギーの比率を20%にする目標を立てる。英国では2020年までに風車7,000基を建設し16万人の雇用を創出すると報じている。実際、国連環境計画(UNEP)によると、風力発電事業だけで世界で30万人の雇用があるらしい。

 風力発電の普及が遅れているわが国では、事業推進による雇用創出の効果はなおのこと大きいだろう。すでに本連載の第15回で報じたとおり、風力発電機は羽根で風を受けてロータを介して主軸が回転、その回転速度を増速機により発電可能な回転速度まで増やし、発電機により発電する(誘導発電機)とおり、過酷な条件でベアリングを含め多くのメカが活躍するシステムである。その普及・発展には、多分野の機械技術者によるところが大きいだろう。

 わが国でもグリーン・ニューディールを意識した動きは出てきている。2009年度税制改正大綱では、「地球温暖化対策(低炭素化促進)のための税制のグリーン化」を掲げ、自動車関係諸税の見直しによる低炭素車の普及拡大を盛り込んでいる。「低公害車・低炭素車のうち、2009年4 月1 日?2012 年4 月30 日までの間に新車に係る車検を受けるものについて、自動車重量税の減免措置を講ずる。また、同期間に初回の継続検査等を受ける低公害車・低炭素車についても、自動車重量税の減免措置を講ずる」というものだ。

i MiEV(提供:三菱自動車) こうした背景もあり、電気自動車(EV)の開発や試験運用も進んでいる。たとえば三菱自動車では、電気自動車「i MiEV(アイ ミーブ)」を東京電力、九州電力、中国電力、関西電力、沖縄電力、北海道電力、北陸電力といった複数の電力会社や、北陸3県(福井、石川、富山)、神奈川県といった地方自治体と実証走行試験を実施、先ごろコンビニエンス・ストアのローソンにも試行配備している。三菱自動車では、2009年夏の国内市場投入に向け開発を進めているという。

 同EVは、現在主流のガソリンエンジン車とは機構がまったく異なる。エンジンの代わりに小型の永久磁石式同期モーターを搭載、変速機を持たずにモーターから駆動輪(後輪)までドライブトレインが直結している。モーター特有の速い応答性を生かし駆動輪のスリップ制御を行い、減速時のエネルギーを回生ブレーキにより回生するため、減速回生時のスリップ率も制御し、加速域から減速域まで高い安定性を確保している。開発されたEV用リチウムイオン電池では、10・15モードで130kmの走行が可能で、さらに航続距離延長を狙う。いずれもガソリンエンジン車とは違うコンポーネンツを積んでいる。現状ガソリンエンジン車による省燃費化の開発も活発に進められており、EVが上市されたからといってガソリンエンジン車の市場が経済の要因を上回って急激に縮小することは考えにくく、これまでとは違う自動車および自動車部品の市場が創出されると考えても、間違いではなかろう。

 年初から、主だった産業における生産・販売見通しの縮小などのニュースが取りざたされているが、今こそ自社の位置づけや得意とする技術を再認識しつつ、時流を見ながら今後の事業展開をじっくりと見据える好機だと考える。蓄積してきた技術が新しい産業の台頭によって完全に駆逐されることはないと信じる。また駆逐されることなく新しい産業でも重用され続けるよう、保有技術の研鑽と進化に努めたい。

第25回 日本の衛星打ち上げビジネス本格化?ロケットを支えるベアリング技術

 三菱重工が韓国航空宇宙研究院(KARI)からH-IIAロケットによるKOMPSAT-3の衛星打上げを受注、世界を相手にした衛星打ち上げビジネスが本格化する。成功率9割以上というH-IIA ロケット打ち上げの実績と信頼性の高さが評価され、今回の受注につながった。

 H-IIAロケットのエンジンでは、エンジン性能の一層の向上と大幅な軽量・長寿命化、信頼性の向上が要求されている。ロケットエンジン用ターボポンプの小型・軽量化では、液体水素(-253℃)や液体酸素(-183℃)の極低温推進剤を燃焼器に供給するターボポンプの高速化が必要になるほか、現在の多段式ロケットにおける上段用ロケットエンジンでも、その重さや性能が衛星などの打上げペイロードに大きく影響するため、回転数が100,000rpm級のターボポンプが有利になる。

提供:JAXA これに対し宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、液体水素の中など潤滑剤が使えない状態で、120,000rpmの回転を実現するロケットターボポンプ用「外輪片案内軸受」(写真)を開発、搭載している。この軸受は、高速性能や冷却性能に優れる外輪片案内方式を採用した、窒化ケイ素セラミック玉を用いたハイブリッドセラミック玉軸受を開発し、液体水素を使った性能試験で、高速性の指標となるDN値(軸受の内径(?)×毎分の回転数(rpm))が300万で、回転数が120,000rpmという世界最高速を達成している。ポイントは三つだ。

 第一に、軽量で極低温下でも耐摩耗性に優れる窒化ケイ素セラミック玉を使用することで、高速回転時に発生する遠心力荷重が鋼玉に比べ約60%減少でき、軸受の発熱や摩耗を抑えられる。窒化ケイ素セラミック玉は、鋼玉に比べPTFE潤滑膜が厚く付着するため高い荷重を支えることができる。

 第二に、特殊な表面処理により潤滑性を高めたガラス織布強化PTFE保持器を使用して、極低温でも玉や内外輪に付着させたPTFE潤滑膜で軸受を潤滑する

 第三に、外輪片案内方式の軸受を採用することで、軸受トルクが従来の外輪両案内軸受の約1/2になるため、超高速回転で問題となる摩擦発熱は、回転数120,000rpmで4kW程度と大幅に減少できる。特殊な平円ポケット形状を採用して、高速回転する、外側の案内面が片側しかない保持器の振動発生を抑えている。

 H-IIAロケットは設計の簡素化や製造作業・打ち上げ作業の効率化により、最高約190億円であった打ち上げ費用を最新モデルで90億円未満)と1/2以下に抑え、世界市場の相場である100億円未満を実現している。信頼性が高く、世界的にも優れたコストパフォーマンスを誇る技術で、打ち上げビジネスという、わが国では新しい産業が、いま本格化へ。宇宙へと広がるビジネス。ここで紹介したベアリングをはじめメカ技術の活躍する場が創出されつつある。

第26回 米国オバマ大統領始動、科学技術での景気浮揚に期待

提供:在日米国大使館提供:在日米国大使館 バラク・オバマ氏が第44代米国大統領に就任した。環境対策を兼ねた「グリーン雇用」のため、今後10年間で1,500億ドル(約15兆円)を投資する方針を表明しているが、中でも「科学技術・イノベーション政策」として、基礎研究への投資拡充を掲げていることは、腰をすえた科学技術振興政策として期待したい。

 すでに公表されているオバマ政権の科学技術政策メンバーとしては、科学技術担当大統領補佐官に環境・エネルギーを専門とするハーバード大学教授のジョン・ホルドレン氏を、大統領科学技術諮問委員会共同議長として同氏と、1989年にノーベル生理学医学賞を受賞しているハロルド・バーマス氏、ゲノム専門のマサチューセッツ工科大学教授のエリック・ランダー氏を指名した。また、海洋大気局局長に環境・海洋を専門とするオレゴン州立大学教授のジェーン・ルブチェンコ氏を、エネルギー省長官に1997年にノーベル物理学賞を受賞しているスティーブン・チュー氏を指名している。この顔ぶれからも基礎研究の充実と次世代へのイノベーションに向けたオバマ大統領の強い意志がうかがえる。

「脱石油」を中心とする風力発電など代替エネルギーの技術開発のほか、ES細胞、iPS細胞などライフサイエンス研究など、われわれのテーマとする人と環境に貢献する技術の創生と、それらに基づく雇用の創出にむけた動きからは目が離せない。

 ところで、オバマ氏の選挙中に、ミシガン大学機械工学科のジョン・ハート准教授が、ナノ・リソグラフィーを用い1億5000万本のカーボンナノチューブ(CNT)を使ってオバマ氏の顔を作った。ハート氏は「カーボンナノチューブはその電気特性と熱特性など次世代材料として期待度の高い材料だが、商業的利用に、大量のナノチューブをまとめる効果的な方法が必要」と語ったというが、オバマ大統領の科学技術信仰政策への期待がこめられたセリフであろう。カーボンナノチューブはMEMS(微小電気機械、マイクロマシン)など微細・微小なメカの潤滑要素としても注目されている。

 わが国でも先ごろ、米国はじめ各国にならいグリーン・ニューディール政策の模索を表明しているが、こうした基礎研究の強化とも歩調をそろえた、堅実で力強い取り組みであってほしいものだ。

第27回 バイオ燃料の市場が拡大へ?求められるバイオ対応技術

 石油業界がこの4月からサトウキビやトウモロコシなどから作るバイオエタノールとイソブテンを合成したバイオETBE(エチルターシャリーブチルエーテル=エタノール)をガソリンに混ぜた、バイオガソリンの販売を本格化させる。

 日本は、1997年に締結された国際条約「京都議定書」で2008?2012年(第一約束期間)には1990年との対比で「温室効果ガス」の排出量を6%削減することとしている。京都議定書では、植物を原料とするバイオ燃料を燃焼させた場合には、次世代の植物が光合成によってそれを吸収して育つため、大気中のCO2の総量を増加させないという考え方(カーボンニュートラル効果)から、バイオ燃料の燃焼によって排出されたCO2を温室効果ガス排出量として計上しないことにしている。

 そこで石油業界では、2007年4月27日から首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)50箇所の給油所で一斉にバイオETBEを3%配合したレギュラーガソリン(バイオガソリン)の試験販売を開始、2008年春からはその数を順次100箇所に増やし、本格導入に向けた取組みを進めていたが、2010年度にはETBEの使用量を08年見込みの約80倍となる84万kLに増やす目標を掲げている。

 一方、食用油や廃食用油にメタノールを加えて作った脂肪酸メチルエステル(FAME)が、軽油代替のバイオディーゼル燃料である。ゴミ収集車や路線バスの燃料として自治体を中心に使われている。全国バイオディーゼル燃料利用促進協議会(JAROA)によると、2007年度の国内生産量は約6,200kLだが、自家用に生産する事業者もありこの自家消費も含めると国内生産は約1万kLにのぼるという。

 バイオディーゼル燃料をそのまま使う「B100」では自動車の部材の腐食や燃料系統の目詰まりを引き起こしやすいことから、2006年3月の揮発油等の品質の確保等に関する法律(品確法)改正で、バイオディーゼル燃料をの混合比率を5%とした軽油(B5)の品質規格が定められているが、東京都では2007年から混合比率10%のバイオディーゼル燃料(B10)によるハイブリッドバスの試験運転も始めている。

 潤滑油協会(JALOS)が、自治体、運送業、バス会社などバイオディーゼル燃料を保有する事業所を対象に調査したエンジン油の使用状況の実態調査(2007年)では、何とB100が圧倒的に多く、品確法規定のB5はわずか。JALOSによる台上エンジン試験結果では、FAMEのB5軽油を使用したエンジン油劣化への悪影響確認されず、使用実態の調査結果でもエンジン油の交換間隔は3万kmまたは6ヵ月と一般軽油と同等だったのに対し、B100を使った車両のエンジン油交換間隔は5,000km前後が多くを占め、長くても1万kmだった。

 同調査では軽油との違いとして、その弱いスス生成傾向から排気煙(黒煙の発生)が良好という意見が多い一方で、主にB100で出力の悪化やエンジン始動性の悪化、さらに燃料フィルタの詰まりやインジェクタの詰まり、エンジンの異常、特にピストンリング周りの異常などが挙がったという。

 ディーゼルエンジンは国内ではトラックなどの長距離運行、バスなどの高頻度運行に使われ、その燃料とエンジンを保護するエンジン油には高信頼性とロングライフ性能(酸化安定性)が求められる。部品・材料へのニーズも同じである。特に欧州ではディーゼルエンジン乗用車、さらには混合比率の高いバイオディーゼルを使った乗用車の割合も高まってきている。将来的には、欧州市場、ひいては世界市場の攻略では混合比率の高いバイオディーゼルへの潤滑油やエンジン部品、シール材などの技術対応が強く求められるであろう。世界的に政策的に広がりつつあるバイオ燃料という市場に対して、メカ技術の研鑽に期待がかかっている。

第28回 エレベータの安全性向上で、保全、新設の市場あり

 国土交通省は、エレベータなどで起きた重大事故の原因を専門に調べる事故対策委員会を設置する。事故機を調査し原因究明、結果を早期に公表して再発防止に役立てる狙いという。ここ数年、たしかにエレベータの事故が増えてきている。エレベータの法定耐用年数は17年で、国内ではモダニゼーション対象となるエレベータは10万台規模に達していて、毎年約1万台が積み上げられていくという。エレベータの新設台数が約2万台と頭打ちとなっている一方で、修理・改修市場は強含みとなっているのである。

提供:日本エレベータ協会提供:日本エレベータ協会 一般にエレベータのかごは、昇降路上部に設置された巻き上げ機によりメインロープを介して駆動される。かごは、ガイドレールに沿って走るように、ローラとばねサスペンションを組み合わせた案内装置により案内される。これら機構のうち、労働安全衛生法では、事業者はエレベータについて1ヵ月ごとの1回定期に、(1)安全装置、(2)ワイヤーロープ、(3)ガイドレールなどについて自主検査を行わなければならないとしている。

 また国土交通省社会資本整備審議会の建築分科会建築物等事故・災害対策部会での検討の結果、昨年4月1日付けでエレベータの定期検査報告制度が改正された。(1)ブレーキパッドの摩耗について、摩耗の程度を測定し検査結果表に測定値を明記(測定値により結果の判定を行う場合)するとともに、結果の判定基準を明確化する。(2)ワイヤロープの損傷については、目視により一定の基準(おおむねJISの基準を告示に規定することにより判定基準の法令上の位置づけを明確化)を満たしていることを検査する、というもの。ワイヤロープや、ブレーキパッド、ガイドレール、ローラなどの部材や潤滑、状態監視機器、計測評価機器などを包括したメンテナンス市場に関わる技術・製品への需要は高まりを見せてきている。

 一方、東芝エレベータが台湾・台北市の世界最高層ビル「TAIPEI101」向けに納入した分速1,010mの世界最高速エレベータなど、新設エレベータでは高速化とともに安全な運行と同時に快適性、つまり走行中の振動や騒音を抑える技術が求められている。

 一般的なエレベータではローラガイドによって、かごをレールに沿って走行させるとともに走行中の振動を吸収して乗り心地を確保しているが、このローラ式ではレールの表面状態などにより振動や騒音が発生してかご内に伝わることがあり、特に高速エレベータではこれらの乗り心地が確保されにくい。

 そこで、東芝エレベータでは、磁気浮上技術によりガイドレールとの機械的な接触をなくし、レールの表面状態の影響を受けずに低騒音な案内装置とし、乗り心地を改善する磁気ガイドシステムの開発を進めている。

 少子高齢化の進む背景からも、公共輸送の利便性を図るエレベータの安全性を確保する保全のシステム、また安全性とともに高速輸送を可能にする新規なシステムへの重要性はますます高まってきている。

第29回 安全性と環境を両立する低燃費タイヤの開発に拍車

 経済産業省( http://www.meti.go.jp )と国土交通省( http://www.mlit.go.jp )は、運輸部門のエネルギー消費効率の向上を目的に、自動車で使用されているタイヤについて「低燃費タイヤ等普及促進協議会」を設置、今後のタイヤに関する省エネ対策として転がり抵抗の測定方法の規格化などに取り組む。

 わが国運輸部門のエネルギー消費量は近年減少傾向に転じているものの、全体の約2割を占めている。また、国際エネルギー機関のレポートによれば、自動車の燃料燃焼により発生するエネルギーの約20%がタイヤの転がり抵抗によって消費されており、現在一部の新車で自動車の燃費基準達成に向けた燃費性能改善策の一環として自動車メーカーが転がり抵抗を下げた低燃費タイヤを選択したり、またタイヤメーカーが独自の低燃費タイヤの生産・販売を行うなどの取組みがなされている。

 一般にタイヤの転がり抵抗とブレーキ性能(特にウエット路面でのブレーキ性能)はトレードオフの関係にあり、転がり抵抗を増やしたハイパフォーマンスタイヤでは制動距離が短く、転がり抵抗を下げた低燃費タイヤでは制動距離が長くなる。これはトレッドゴムの粘弾性に依存する性質で、単に転がり抵抗を下げて低燃費化を図ろうとするだけでは安全性が損なわれることになる。

提供:HONDA提供:HONDA そこで、たとえばHONDAではタイヤ設置面を解析し、ブレーキには外側・内側の二つのトレッドショルダー部が主に機能し、定常走行時の燃費にはトレッドセンター部が大きく寄与することを解明。その3分割したトレッドのそれぞれの部位に最適なゴム材料を配することで、同じ転がり抵抗係数を持つタイヤに比べて制動距離を5m短縮、トレードオフの関係にある転がり抵抗と制動性能を高次元で向上させ、燃費も1.5?2%低減させている。

 しかし、将来的には安全性を確保した上でタイヤの転がり抵抗を半減することが要求されており、自動車メーカー、タイヤメーカー、材料メーカーの共同による開発が必要とされている。「低燃費タイヤ等普及促進協議会」設立を機に、関連業界が一丸となった安全性、環境保全改善の取り組みに期待したい。

第30回 ASTEC2009展開催、機械を長寿命化、円滑にする表面改質技術

 ASTEC 実行委員会(事務局:ICSコンベンションデザイン)は2月18日?20日、東京・有明の東京ビッグサイトで「ASTEC 2009 国際先端表面技術展・会議」を開催、約4万7,000人が来場した。

 ASTEC展では、表面改質技術とそれにより改質された表面を測定・評価する技術が多数展示された。機械部品にとって表面改質技術は、潤滑油剤と併用され、あるいはその代わりに使われ動きを滑らかにする潤滑性・低摩擦特性を与え、ロングライフにする耐摩耗性を付与する省エネ、省資源の技術である。

提供:ナノテック提供:ナノテック 特に今回出展が多かったのはDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングとその試験・評価機器。DLCはダイヤモンド状炭素の名のとおり、ダイヤモンドに近い硬度(耐摩耗性)と炭素に近い低摩擦特性を持つ。その耐摩耗性と離型性などから非球面レンズなど光学部品の金型などのほか、潤滑性と耐摩耗性などからHDD(ハードディスクドライブ)のディスク保護膜などに、しゅう動特性などから自動車動弁系部品(日産自動車)などに、耐摩耗性や低摩擦特性などから4WD電磁クラッチ(ジェイテクト)などに適用が広がってきている。

 しかし、DLCと一口に言ってもシリコン(Si)含有DLCや水素フリーDLCなど様々で、物性も広い範囲で異なる。DLCの事業化にいち早く取り組んでいたナノテックでは近年、その膜の物性を制御して機能を明確にしたICF(Intrinsic Carbon Film、真性カーボン膜)を開発、医療分野では生体適合性ICF、エネルギー分野ではシリコン材料に代わる太陽電池用ICFなど、機能性コーティング膜で新分野を開拓する。

提供:不二WPC提供:不二WPC また、不二WPCで出展していたのは、金属製品の表面に目的に応じた材質の微粒子を圧縮性の気体に混合して高速衝突させるという表面改質技術WPC。微細で靭性に富む緻密な組織が形成され表面を強化すると同時に、 表面性状を微小ディンプルに変化させることで摩擦・摩耗特性を向上させる。固体潤滑剤の二硫化モリブデン粒子をWPC処理したピストンスカートやエンジンベアリングなどはフリクション低減や耐久性改善が図られている。

 表面改質技術は母材にない特性・機能を表層に付与する。高価な材料を使わずにその表面だけ性質を変え必要な機能をもたせることができる、低コスト化にも貢献する技術で、HONDAで採用されているWPC処理ピストンやセミドライ加工用として採用されるDLCコーティング切削工具など、 環境負荷低減にも有用である。トータルコストダウンは常変わらぬ製造業での命題だが、特にこの不況下にあってはプラスに転じる取り組みの一つでもある。数ミクロン、時には数ナノの膜が機械システムを機能させる表面改質技術。その研究開発を支える試験・評価機器も含めて技術の深化と適用の拡大を望む。