第061回~第070回

第61回 モーダルシフトの加速で、高速鉄道車両の需要が増加

efset時速350kmのefSET(提供:川崎重工業) 鉄道車両はCO2排出量が少ない大量輸送手段として、世界的にその重要性が見直されている。自動車や航空機による輸送を鉄道や船舶による輸送で代替する「モーダルシフト」が進展し、国土交通省では2005年に38.1%だったモーダルシフト化率(500km以上の産業基礎物資以外の雑貨輸送量のうち、鉄道・船舶で運ばれる輸送量の割合)を2010年度までに50%に引き上げる目標を掲げている。

 特に都市間移動の主要交通手段として、時速250km以上の高速鉄道の導入が検討され、現在米国、ブラジル、ロシア、インド、ベトナムなどが具体的に新規建設計画を進めている。今後20年ほどの期間に世界で1万km前後の高速鉄道路線が増設される予定で、これに応じた高速鉄道車両の需要が見込まれ、高速車両用の軸受の開発競争が激しくなってきている。

 鉄道車両用軸受には、モータ(主電動機)に使用される主電動機用軸受、モータの出力を車軸に伝える駆動装置に使われる駆動装置用軸受、車体重量を支える車軸軸受がある。これら軸受は、いずれも鉄道の走行に大きく関わる基幹部品として高信頼性が要求される一方、メンテナンス周期の延伸が求められている。

 車軸用軸受は、軸を直接支持し、また線路ntn樹脂製保持器を採用した車軸用軸受(提供:NTN)からの振動が直接伝わる過酷な環境下で使われ、かつ転がり疲れ寿命の長寿命化が求められている。そのため欠陥につながる介在物の少ない高清浄度鋼が使用されている。また高速化に伴うシール摺動部の発熱を抑えるため、軽接触タイプなどの低発熱シールが使用されている。潤滑寿命の延長からは、封入グリースの改良とともに、従来の鋼製保持器から海外メーカーで一般的な樹脂製保持器を採用して摩耗粉を抑制している。




nskグリースポケット形状を工夫した主電動機用軸受(提供:日本精工) 主電動機のブラシレス化に伴い唯一の摺動部品となった主電動機用軸受では、その寿命が主電動機のメンテナンス周期を左右するようになっている。主電動機軸受には60~90kmで中間給脂が行われているが、120万kmへのメンテナンス周期延伸のニーズに対し、長期グリース補給を維持できるグリースポケット形状などの工夫がなされている。主電動機内を流れる電流により転動体と軌道面接触部が溶融する電食を防ぐため、セラミック製の転動体を用いたり外輪に樹脂やセラミック被膜を施すなど、絶縁対策がとられている。

 ところで、鉄道車両用軸受に関する規格は、欧州委員会の「欧州高速鉄道ネットワークの相互運用性に関する規格」に基づいて、鉄道車両用車軸軸受に関する規格「EN規格」が制定されている。欧州各国はもちろん中国市場で標準採用されており、このEN規格に準拠した鉄道車両用軸受の開発が進んでいる。

 鉄道車両では、カナダのボンバルディア、ドイツのシーメンス、フランスのアルストムがそれぞれ世界シェア20%近くを持ちビッグ3と言われる一方、日本企業は合わせて10%程度のシェアだが、急追すべく海外に活路を見いだそうとしている。新幹線以来の高速車両開発で培った車両および軸受の高信頼性技術が、世界市場でますます活躍していくことを期待したい。

第62回 高機能フィルム市場拡大で注目されるウェブハンドリング技術

ueno提供:東海大学・橋本 巨研究室 ロームでは先ごろ、厚さ0.3㎜で曲げられるフレキシブル有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)照明を開発、巻き取りできる基板を使用しているため、ロール・ツー・ロールでの量産が可能という。近年、紙やフィルム、鋼材などの産業だけでなく、こうしたフラットパネルやフレキシブル回路、太陽電池など最先端技術分野でも、シート基材からロール・ツー・ロール基材へと移行傾向にあり、ウェブハンドリング技術の重要性が増している。ウェブハンドリングとは、新聞などの印刷物や写真フィルム、磁気テープなどの情報記録媒体、金属薄膜、液晶モニターに用いられる光学フィルムなどの柔軟で長尺の媒体である「ウェブ」を搬送し、途中処理工程を経て最終的に巻き取る技術。製紙・印刷技術やフィルムなどの搬送工程で多くの成果を上げてきたが、近年は先述のとおり、フレキシブル電子デバイスの研究・開発が活発化してきている。中でもフレキシブル有機薄膜太陽電池は、ウェブハンドリング工程による生産で、既存の太陽電池パネルよりも安価に生産できるとして実用化が期待されている。

webウェブハンドリング(提供:橋本 巨研究室) ウェブハンドリングシステムではウェブはローラを介して搬送され、最終的に巻き取る。このとき、ウェブとローラ間、またはロール層間に巻き込まれる空気層が問題になり、ウェブ浮上量・空気層圧力分布・ウェブとローラ間およびロール層間の摩擦特性などが問題とされる。ウェブは巻き取られて次の処理工程に受け渡されるが、巻き取られたロールにスリップやしわなどが発生し、経済的損失を引き起こしているのが現状。このような不具合は巻き取る際の速度や、ウェブの張力が適切でないことが原因と考えられていることから、東海大学・橋本 巨教授の研究室では、どのような条件で型崩れやしわが発生するか調べ、その防止法に関する研究をトライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑の科学・技術)の観点から行っている。

 接触に伴うこうした問題に対し、ソーラーリサーチ研究所では空気を噴出することによりフレキシブル太陽電池、偏向板、フィルムなどを浮かせた状態で懸垂する非接触搬送装置で構成される保持装置と、ワーク進行と同調して走行する非接触支持走行装置を採用した。フィルム送出部ではフロートチャックを用いた空気流による送出機構により、搬送課程ではフィルム先端部に垂れ下がりを生じさせることなく搬送できる。非接触搬送装置により、フィルムにキズ、汚れ、ストレス、静電気の付着が起こらないという。

tdk提供:TDK ウェブ側でもロール・ツー・ロール機構への対応が進む。TDKでは、記録メディアで培ったウエットコーティング技術を応用展開した独自3層構造により、高い透過率を確保しながら、優れた柔軟性・屈曲性・摺動性を有する透明導電性フィルム「フレクリアTM」を開発、デジカメなどに搭載されるタッチパネル向け上・下電極用途や、電子ペーパー、電磁波シールド用途などに利用できるとしている。

 ウェブハンドリング関連市場はフレキシブル太陽電池など環境保全に関わる高機能フィルムの市場拡大で、2015年には30兆円市場とも目されている。ロール表面の摩擦係数や表面粗さの制御による摩擦挙動のコントロールや、先述のようなウェブ側の摺動特性改善、さらにはエア搬送、エア巻き取りのような比接触ハンドリング技術も含め、拡大するロール・ツー・ロール市場に対応するウェブハンドリング技術の進展に期待したい。

第63回 東京モーターショーが開催、エコカーを支えるベアリング技術

subaru 日本自動車工業会( http://www.jama.or.jp )は、千葉市・幕張メッセで「第41回東京モーターショー2009」を開催した。期間は10月23日から11月4日の13日間(一般公開は10月24日から)で、10ヵ国・1地域から2政府・2団体・108社が参加し、ワールドプレミア(世界初の発表)が39台、ジャパンプレミア(日本初の発表)が21台出展される。世界的な不況による車需要の減少などを理由に、出展者数は前回2007年開催の241社から半減、海外からの出展も英ロータスと独アルピナの2社のみ。日本勢がメインのショーということもあり、テーマはが“楽しさと環境の両立”をシンプルに表現した「クルマを楽しむ、地球と楽しむ。」としたこともあって、本年トヨタ自動車「3代目プリウス」とHonda「インサイト」が投入されたハイブリッド車と、三菱自動車「i-MiEV」と富士重工業「ステラ」が投入され幕を開けた電気自動車(EV)など、エコカーが前面に出た出展となった。

plugin ハイブリッド車では、トヨタ「PRIUS PLUG-IN HYBRID Concept」が注目を集めた。3代目プリウスをベースとし、駆動用バッテリーにはこれまでのニッケル水素電池に替えて、初めてリチウムイオン電池を搭載、家庭用電源などからの外部充電を可能とする、年末にも投入予定のPHV(プラグインハイブリッドハイブリッド車)のコンセプトモデル。燃費性能55km/L以上(CO2排出量42g/km以下)、満充電でのEV走行距離20km以上を目標値とし、充電時間は100Vで約180分、200Vで約100分を目標としている。

 2010年にも投入予定の日産自動車の5人乗りEV「リーフ」ではEV専用プラットフォームを採用、床下に薄いラミネート型バッテリーを車体中央のホイールベース間に搭載するとともに、ゆったりとした運転席と後部席のスペースを確保している。広い室内空間を可能にしている。蓄電容量や出力を倍増したリチウム電池により、一度の充電で160km以上の走行が可能としている。

 こうしたエコカーのオンパレードに対応して、部品各社もさまざまな対応技術を展示している。

prius提供:トヨタ自動車 1996年発売の初代プリウスでモーター出力がシステム電圧288Vで33kWだったのが、3代目プリウスでは650V、60kWと出力密度は6倍に向上、小型・軽量化を実現している。さらにモーターのトルクを増幅することで大きな駆動力を発生し、パワフルな走りとシームレスな加速をもたらすリダクションギヤにより、モーターの小型化と高出力化を測っている。また、駆動用モーターに大電力を供給し、高出力バッテリーへの充電も行う発電専用モーター(ジェネレーター)でも、集中巻きによるコイル形状の工夫により小型・軽量化を達成。エンジンからの動力を車輪(出力軸)と発電機に分割して伝達する動力伝達機構(プラネタリーギヤ)では、エンジン、モーター、ジェネレーターを結合し、それぞれを最適に制御することで、シームレスな加速を生み出す電気式の無段変速機として機能している。こうしたアプローチにより3代目プリウスでは、1.8Lガソリンエンジンながら2.4L車並みの加速性能を実現しつつ、JC08モード走行燃費で、32.6km/L、10・15モード走行燃費で、38.0km/Lを達成している。つまりハイブリッド車の出力向上、燃費向上では、小型・軽量化を実現する駆動用モーターとそのトルクを高めるリダクションギヤ、駆動用モーターに大電力を供給する発電専用モーターの高速回転化が進められている。

nsk 次世代ハイブリッド車の燃費向上を目的に駆動モーターや発電機構の小型・軽量化が進められる一方で、小型化による出力低下を補うため、高速回転のニーズが高まっている。日本精工では次世代ハイブリッド車の モーターおよび発電機構用玉軸受として現行18000rpmの回転数を1.5倍となる30000rpm以上に高めた。高速対応技術としてはまず、軸受の潤滑油入り口に油流を制御するプレートを設置、これにより、超高速回転時の大きな遠心力が発生する環境下でも、潤滑が枯渇しやすい内輪側に潤滑油を確実に供給、摩擦による発熱を低減した。また、軸受内部の溝寸法や玉径などを最適化することで超高速回転下でも摩擦と発熱を抑制、焼付きを防止したほか、玉および内輪と保持器間のすき間を調整することで保持器の振動を抑制し、接触部の摩耗を低減した。さらに、軸受の超高速回転時に保持器にかかる遠心力による変形を防止するため、保持器円環部を厚くし、保持器の強度を向上させた。

 ジェイテクトではハイブリッド車の変速機(リダクションギヤ)向け軸受として、高速回転時の遠心力による保持器の変形を抑え、従来比3.3倍の50000rpmという高速回転対応を可能とした。樹脂製保持器部品2対を玉の両側から弾性嵌合することで、遠心力による変形を抑えた。

 ハイブリッド車では(アイドリングストップシステムにおいても同様であるが)、頻繁に起動・停止が繰り返されることからエンジンベアリングやピストンリングなどの摺動部で潤滑膜が形成されにくい。これに対し大同メタル工業では、特にエンジンベアリングのうち主軸受に使われるアルミニウム合金軸受で、耐摩耗性に優れるアルミニウム-すず-シリコン系合金(Al-Sn-Si)のSiの粒子径を適切な大きさにコントロール(Siを塊状化)することで耐摩耗性を高めている。

mazda 一方、省燃費エンジンの革新技術も展示された。たとえばマツダの直噴エンジン「マツダSKYコンセプト」では、フリクション低減手法の積上げを地道に行った。たとえばピストンリングの低張力化を図りつつ、相手材となるシリンダライナの追随性を高めシール性能の向上と低フリクション化を図った。また、エンジンベアリングを薄幅、薄肉化しつつ油だまりとなる溝加工などを施し、潤滑性・耐久性を高めながら低摩擦化したほか、ベルトがプーリと接触する面積を広く取ったりプーリ位置を最適化することで、ベルトのテンションを下げ、フリクションを低減した。こうしたフリクション低減と最適な混合気の形成を図った上で、直噴システムが持つ噴霧形成の自由度を活用して、極限まで膨張比を高めた。次世代直噴インジェクター、高機能吸排気可変バルブタイミングシステムなどの技術を採用し、現行2.0Lエンジン比で燃費・出力(トルク)を約15%改善。アクセラクラスの車両に搭載した場合で、現行デミオ並みの低燃費を実現するという。

 次世代EV対応として、NTNや日本精工などベアリング各社でも車軸軸受(ハブベアリング)にモーター、荷重センサー、電動ブレーキなどを組み合わせてホイールを制御する「インホイールモーター」などの開発も進んできているが、本年エコカー補助金制度などの後押しもあり市場が急速に拡大したハイブリッド車に向けた、部品開発競争激化の現状の一端が、今回のモーターショーからもうかがえる。

第64回 風力発電機用軸受のビジネスが活発化

ntnNTN宝達清水製作所(提供:NTN) 風力発電機の市場が世界的に拡大基調にあるなか、軸受各社では風力発電機向け事業を強化する動きが活発化してきている。

 風力発電機用主軸軸受で世界シェア3位のNTNは10月26日、風力発電機向けなど超大形軸受を製造する子会社、NTN宝達志水製作所(石川県宝達志水町)を稼働した。発電機のブレード(主翼)とロータの回転を支える主軸軸受の直径は1~3mにも及ぶ。新工場設立により、これら超大形軸受の旋削、熱処理、研磨、組み立てまでの全工程を一貫生産できる体制を構築、既存の桑名工場(三重県桑名市)と合わせて、超大形軸受の生産能力が倍増するという。

mitsubishi提供:三菱重工業 風力発電機はブレード、タワー(支柱)、ナセル(発電を起す本体)からなる。ブレードで風を受けてロータを介して主軸が回転、その10~30min‐1の回転速度を増速機により発電可能な1,200~1,800min‐1という回転速度まで増やし、発電機により発電する(誘導発電機)。回転トルクを増速機に伝える主軸の軸受、増速機を構成するキャリア、遊星ギヤ、低速軸、中間軸、高速軸の各軸受、発電機用軸受がそれぞれ活躍している。

 ロータ主軸用軸受では常に変化する風によって荷重、モーメントや回転速度が大きく変動する。特に突風の際の過負荷による変形量や隙間管理が重要で、ブレードやギヤボックスの振動によってフレッティングコロージョンが発生する危険がある。このため軸受選定とすき間およびはめ合いの適正化と適正なグリース選定が重要となる。軸受鋼としては通常、焼入れ性の良いSUJ3やSUJ5などが使用されている。サイズが大きいため熱処理歪みの小さいことが求められることもある。

nsk提供:日本精工 風力発電機の増速機は高所に設置されメンテナンスが難しいことから、増速機用軸受には高い信頼性と長期の寿命保証が求められるほか、発電効率の向上を目的とした風力発電機の高出力化•大型化が進められており、負荷能力の高い軸受のニーズが高まっている。荷重負荷能力の高い軸受として、増速機用軸受には従来から総ころ円筒ころ軸受が使用されているが、総ころ円筒ころ軸受は転動体同士が回転中に直接接触することで高速回転の場合は焼付きや摩耗が発生し、それが高速回転実現化の障害になっていた。特に増速機用軸受では歯車群と高粘性の潤滑油が共通化されるため、歯車の摩耗粉など異物混入の潤滑条件になりやすく、異物混入潤滑環境下での長寿命化対策が求められていた。これに対し増速機用軸受でシェアの高い日本精工では、転動体材料に浸炭窒化熱処理技術を採用することにより、耐焼付き性と耐摩耗性を向上しつつ、転動体の端面形状の最適化によりアキシアル荷重負荷能力を飛躍的に向上、総ころ円筒ころ軸受で許容回転速度は約2.5倍(同社従来品比)へと向上している。

jtektセラミック玉絶縁軸受(提供:ジェイテクト) 発電機用軸受は特に日本で多い落雷や、帯電による軸受内部の電流通過によるスパーク現象(電触)の防止対策のため、寿命が長く信頼性の高い軸受鋼や肌焼鋼をベースにセラミックスの絶縁被膜処理を施した軸受やセラミックス製の転動体を使用した軸受など)が用いられている。

 こうした軸受の材料・表面改質での技術開発が進められているほか、風力発電機用軸受世界シェアトップのSKFや2位のシェフラーでは状態監視(メンテナンス)技術などメンテナンス技術、潤滑技術、ハウジングデザインも含めた事業展開を進めている。

 風力発電機は発電コストが最も安い再生可能エネルギーとして導入が進み、2008年に世界で前年度比41%増の3132万KW分が設置、2013年にはその3倍の発電能力が見込まれている。すでに欧州でメンテナンス需要が高まってきているほか、設置場所などの問題から普及の遅れている国内においても、小型ではゼファーやループウイング、大型では三菱重工や日本製鋼所グループなど日本勢の奮闘で、発電能力も徐々に増えてきている。特に模索が始まった洋上発電においては、軸受の海水による耐食性向上、メンテナンス期間の延長など、要求性能は厳しさを増す。風力発電機の普及拡大を支える軸受の材料、表面改質、ユニット化、メンテナンスを含めたトータル面での技術のさらなる進化に期待したい。

第65回 太陽電池普及に向け、長寿命・高信頼性の材料・表面改質技術開発が加速

sharp提供:シャープ 家庭などの太陽光発電の余剰分を電力会社がこれまでの2倍、1kWあたり48円(事務所や学校など非家庭用は同24円)で買い取る制度が、11月1日からスタートした。期間は買い取り開始から10年間。温室効果ガスの排出削減を進めるため、太陽光発電の普及を進めるねらいで、制度導入を当て込み太陽光パネルの購入者が急増、電機メーカーは増産体制に入っている。太陽光発電設備の価格は平均185万円程度(経済産業省調査)だが、経済産業省の試算では、国や自治体の設置補助を受けた場合、余剰電力を売った収入や電気代の節約効果を考えると約10年間で元が取れるとしている。

 しかし、この試算には、故障に伴いメンテナンス費用を負担する場合が考慮されていないだろう。実際に太陽電池モジュールは配線材や封止材の破損、太陽電池セルと配線材の接触不良などによる故障が多いという。こうした故障を防ぎ、高信頼性・町寿命の太陽電池の実現をめざし、材料技術開発が進んでいる。

cell提供:三菱樹脂 太陽電池は太陽電池セルとそれを搭載するパネル材で構成されるが、パネル材の主要構成材料としてセルモジュールを封止する封止樹脂と、セルモジュールおよび封止樹脂を保護する保護フィルム(バックシート)がある。たとえばバックシートには屋外環境への耐性が求められ、PVF(ポリフッ化ビニル樹脂)フィルムやPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムが使われている。特に水蒸気の浸入によるセルの劣化を防ぐため耐加水分解性が求められ、PVFコスト競争力と供給力が高いが同性能で若干劣るPETフィルムでは、同性能を強化するコーティング加工などがなされている。アルミホイルをラミネートしたフィルムやシリカ(SiO2)を蒸着したフィルムなどがある。

 最近開発が活発化している、軽量で設置の自由度が高いフレキシブルなフィルム太陽電池では、表面ガラスの代わりに透明シートが使用され、耐加水分解性を含め耐久性が特に求められる。耐久性の向上という点では、耐摩耗性に優れつつ、シリコンと同様の半導体特性を持つ炭素系材料、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)を表面に被覆したフィルム太陽電池などの開発も進んできている(ナノテックなど)。

 産業技術総合研究所の太陽光発電研究センターでは先ごろ、先述の太陽電池モジュールの不具合要因を明確化し、信頼性、長寿命の太陽電池モジュールの実現をめざし、化学メーカー、部材メーカーを中心とする民間企業31社と共同で、「高信頼性太陽電池モジュール開発・評価コンソーシアム」を発足した。三洋電機やシャープなどの太陽電池パネルメーカーが加盟する太陽光発電技術研究組合が連携機関として参画し意見交換を進め、現在の太陽電池モジュールの寿命は20年程度だが、2倍の40年をめざすとしている。

 太陽電池のさらなる普及に向け、高信頼性、長寿命を実現する材料・表面改質などの技術開発の進展に期待したい。

第66回 建設機械の耐久性・環境対応を支える潤滑油技術の普及を!

komatsu提供:コマツ 建設機械大手のコマツでは、2009年度中にインドネシアのアダロ鉱山で、ジャトロファから自社製造するバイオディーゼル燃料B20(軽油へのバイオディーゼル燃料の混合率20%)でダンプトラックを走らせるプロジェクトを始める。100台規模で稼動させる場合、年間8000tのバイオディーゼル燃料が使われ、CO2換算で約2万t(同社国内事業所の年間排出量の約10%に相当)の削減になるという。戸外で使われる建設機械には環境負荷低減が求められている。

 さて、建設機械ではディーゼルエンジンを回して油圧ポンプを駆動し、油圧作動油をブームシリンダやアームシリンダ、バケットシリンダといったアクチュエータに送り、車体各部を作動させる。そのため建設機械においては、ディーゼルエンジンと言ってもトラック・バスのそれとは、油圧機器と言っても設備機械のそれとは違って、より高温・高荷重の運転を強いられる。つまりその高負荷運転に耐えつつ、環境対応を両立するエンジン・油圧機器の技術として、それら機械の血液である潤滑油の技術が活躍している。

 ディーゼルエンジンの潤滑油(ディーゼルエンジン油)では2000年に、長期排出ガス規制に対応し、日本独自の要求を盛り込み日本のエンジンに適合した規格としてJAMA(日本自動車工業会)の提案により新しい動弁摩耗評価試験などを盛り込んだ「JASO DH-1」が誕生している。

hitachi提供:日立建機 ディーゼルエンジンを搭載している建設機械においても、一般にDH-1適合のエンジンオイルが推奨されている。しかし、建設機械ではディーゼルエンジンを回して油圧ポンプを駆動することで作動油に圧力を発生させ、コントロールバルブを介して作動油をブームシリンダやアームシリンダ、バケットシリンダ、旋回モータなどのアクチュエータに送り、圧力を力に変換することで車体各部を作動させる。そのため、バスやトラックのエンジンが数10%という負荷率なのに対し、建設機械のエンジンは実に80%という高負荷率に及ぶ。

jomo提供:ジャパンエナジー このため、高負荷運転にさらされる建設機械の純正オイルとしては、DH-1規格に基づき、各種添加剤配合技術により、動弁系摩耗の防止やピストン清浄性の向上、酸化安定性向上によるロングライフ化などを実現、エンジン・油圧機器の寿命延長・トラブル抑制やエンジンオイル消費量・燃料費の低減などを実現している。先ごろジャパンエナジーがDH-1規格適合の建設機械用ディーゼルエンジン油を発売したが、これはトラック・バス用のDH-1油と建設機械用DH-1油は別物であるとのメッセージであろうか。

 2005年に施行された新長期規制は、トラック・バスでPM(粒子状物質)が85%、NOX(窒素酸化物)が40%、HC(炭化水素)が80%削減されるという、世界一厳しい排出ガス規制と言われた。これに対しディーゼルエンジンでは、クールドEGR(排気ガス再循環装置)やコモンレール式燃料高圧噴射などエンジン自体の改良に加え、DPF(排出ガス後処理装置)などの装着が必要になり、JAMAとPAJ(石油連盟)では、耐摩耗性など耐久性能に関わる基本的な要求はDH-1規格と同様としつつ、排出ガスの後処理装置への適合性を高めたディーゼルエンジン油規格「JASO DH-2」を設定した。

idemitsu提供:出光興産 DPFはPM捕捉フィルタを触媒により燃焼除去して再生するが、エンジン油中の金属系添加剤は燃焼できず堆積し、フィルタの目詰まりを引き起こす。また、NOX浄化触媒では、硫黄やリンが触媒寿命に対する劣化因子になる。そのため、DH-2規格では、これら後処理装置を劣化させないよう、金属分として硫酸灰分、硫黄、リンを減らす規定(ケミカルリミット)を盛り込んでいる。

 建設機械のディーゼルエンジンにおいても近年、欧米を中心とするTier3規制や日本国内の建機指定制度・オン/オフロード第3次排出ガス規制など、NOX、PMなどの排出規制は厳しさを増しているが、これらに対してはEGRでの対応が主流でDPF搭載の必要がなかったことから、現状はDH-1規格適合油をベースとしたものが採用されている。

 しかし、PMとNOXの両方を従来比で90%削減するといったTier4規制(2015年までに段階的に導入)に向けDPFの搭載が不可欠となる中、DH-2規格に適合したエンジン油をベースとする建設機械用エンジン油の開発が急がれている。ベースとする、というのは、金属系添加剤が果たす耐摩耗性や酸化安定性という建機に必要な耐久性能が劣るバス・トラック向けのDH-2規格油をそのまま建機に使用した場合、早期のオイル劣化やベアリング部(特にEGR部)の腐食・摩耗の増加、シリンダ、メタルの腐食・摩耗の増加が懸念されるためである。

 そこで建設機械メーカーでのDH-2規格油への切り替えでは、エンジン各部の酸による損耗を防ぐアルカリ価の不足に対し強アルカリ分の添加剤を配合したり、非リン系摩耗防止剤を増量したり、酸化防止効果のある添加剤の使用量を増加するなど、添加剤技術の細かな積み上げで建設機械に必要な耐久性能を確保する対応を図っているのが現状のようだ。

 一方、油圧システムと言っても、一般設備機械のそれと建機に搭載されるそれでは、使用条件の過酷さがまるで違う。設備機械では使用圧力7~21MPaが主流なのに対し、建機では需要の多い油圧ショベルとホイールローダがそれぞれ35MPa、42MPaと高圧で使われる。また前者の使用温度範囲が通常30~55℃程度なのに対し、建機では60~100℃と高圧・高温環境で稼動している。にもかかわらず、油圧作動油の需要の6割程度を占める建設機械において、使用条件に合致した作動油の品質規格は従来存在しなかった。

 そこで、①建機の使用条件に合致し、油圧機器の寿命延長につながる品質規格②圧力35MPa、油温100℃の条件で建設機械に共通に使用可能な規格を目標に、世界的なシェアを誇る(油圧ショベルでは80%以上)日本の建機メーカーが主体となる日本建設機械化協会(JCMAS)において、建設機械用油圧作動油の共通規格化が進められ、2004年に「建設機械用油圧作動油 HK規格」と「建設機械用生分解油圧作動油 HKB規格」が定められた。

 従来の耐摩耗性作動油には極圧剤兼酸化防止剤として、一般にZn(亜鉛)系の添加剤が使われているが、この添加剤は150℃以上で熱分解しやすく、また酸化防止剤としての役割を果たした後は不油溶性の物質(スラッジ)に替わるという性質がある。建設機械の高温・高圧下ではそれが一層加速されてスラッジの生成を早め、オイルフィルタの目詰まりや制御バルブの誤作動などのトラブルが発生しやすくなる。これに対し、たとえば高粘度指数(高VI)基油に油性剤とリン系摩耗防止剤を組み合わせた非Zn系の処方にすることで、高温・高圧下でのスラッジ発生を抑え、建設機械用作動油としての要求性能をクリアしている。

 生分解性油圧作動油についても、HKB規格制定により、建設機械用としての要求性能が保たれてきている。植物油ベースの生分解性油圧作動油では、酸化安定性の不足から数百時間程度の寿命だったものが、合成エステル系ベースの生分解性油圧作動油では、高温・高圧下で1000時間程度の運転も可能になっている。とはいえ、生分解性油圧作動油では耐久性に関わる添加剤でも毒性のあるとされるものは一切使えないことから、どうしても一般作動油に比べ性能が劣り、欧州のような規制なしには普及が難しいと見られている。

jalosJCMAオンファイル(提供:潤滑油協会) ディーゼルエンジン油規格DH-1およびDH-2、建設機械用油圧作動油規格HKおよびHKBはともに、規格に適合したオイルの品質確保と広く流通させるための届け出システム「オンファイルシステム」として運用され、規格適合作動油のグローバルでの入手性が向上し、粗悪作動油によるトラブルの回避が可能な環境にある。オンファイルシステム運用の円滑化と政策面での支援などにより、建設機械の稼動に合致したこれらのオイルの使用が進み、建築機械の環境対応、省エネ化、ロングライフ化が一層進むことに期待したい。

第67回 国際ロボット展に見るメカ技術

kokorokokoroのアクトロイド 日本ロボット工業会と日刊工業新聞社は11月25~28日、東京・有明の東京ビッグサイトで、国内外の産業用・民生用ロボットと関連機器を一堂に集めた「2009国際ロボット展」を開催した。今回のテーマは「RT 次代への挑戦-Challenge for the next-」で、開催規模はIR(産業用ロボット)やSR(サービスロボット)、RT(ロボットテクノロジー)などのメーカーおよび大学・研究機関など、192社64団体856小間。


fanucファナック「ゲンコツロボット」 産業用ロボットの課題として、わが国生産拠点の海外流出に歯止めをかける生産性の向上、つまり加工・組立て作業の自動化率の向上が挙げられる。こうした点で今回注目を集めたのが、パラレルリンク機構を採用した小型組立てロボット「ゲンコツロボット」だろう。4軸タイプは手首軸の先端回転軸は、3000°/secの高速回転動作が可能で、掴んだ部品の向きを瞬時に切り替えることで、部品の整列や実装を高速に行う。6軸タイプ(手首複合3軸)は、3軸手首を持つ6自由度構造を実現、つかんだ部品の向きを変えたり、斜めに挿入したり、捻りを加えたりといった複雑な動きが可能になっている。

 回転ジョイントとリンクにより機械を駆動するパラレルリンク機構の6軸加工機は国内でも1990年代後半に各社で上市されたが、(1)その構造から重力による変形の影響を受けやすく、特に稼動域の端近くで駆動する場合に送り駆動系と比べ運動精度は大きく劣る、(2)シリアル機構工作機械に比べ切削力などの外乱に対する剛性が小さいなどの理由から、現在一般の工場で稼動しているパラレル機構工作機械は極めて少ない。

 これに対しゲンコツロボットでは、人間の手の動作と同じ柔軟な動作を行うことが可能で、携帯電話のように微細で複雑な電子部品から構成される機器の組立てにも柔軟に対応できるとしており、パラレルリンク機構の利点がロボットでは生かされそうである。

thkTHKローラリテーナ入り直動案内 もちろん複雑な動きを必要とする作業ばかりではなく、単軸ロボットが活躍している場面は多い。ここでは作業性向上のため高速性や高精度のほかメンテナンスフリーといった要素も重要である。THKでは、ボール(およびローラー)リテーナ入りの直動案内とボールリテーナ入りのボールねじを組み合わせた電動アクチュエータなどを出展した。リテーナ(保持器)を組み入れたことで、ボールとボールとの接触を避け、低摩擦化による高速性や、摩耗の低減による高精度化や長寿命化などを可能にしている。

 また、自動車の組立工場などで主流の多関節ロボットでは関節部分の回転速度とトルクのコントロールに減速機が用いられている。ナブテスコでは小型、軽量ながら剛性に優れ、過負荷に強いのが特長。このため加速性能がよく、滑らかな動き、正確な位置決め精度が得られ、ロボットの制御性を格段に向上させることができるコンポーネントタイプの精密減速機やそれをベースにして、サーボモーターと簡単に取り付けができグリースを密閉したギヤヘッドタイプ精密減速機などを出展した。

IKO日本トムソンのクロスローラベアリング また、その関節部にはラジアル荷重、アキシアル荷重、モーメント荷重などの複雑な荷重がかかる。これに対し日本トムソンでは、これらの荷重をひとつの軸受で受けるべく、円筒ころを直交に配したクロスローラベアリングなどを展示した。

 一方、介護や福祉など重労働や地雷処理など危険な作業を担うサービスロボットは、人間と強調して動く場面が多い。そこでISO13849のパフォーマンスレベルeと呼ばれる高い安全基準への合致も求められる。つまり人間をサポートするメカ技術のほか、人間に危害を加えることを避けるセンシング技術が求められる。


nsk日本精工「ヒューマンアシストガイダンスロボット」nsk二つのセンサ技術を応用した日本精工の階段認識昇降ロボット これに対し日本精工では、平地や傾斜面、多少の凹凸面での移動が可能な車輪型移動ロボットで、グリップを介して人の行きたい方向を察知し、進路上にある障害物を自律認識して回避しながら進むヒューマンアシストガイダンスロボットを展示した。また、これをサポートするため、不意の障害物に対する緊急回避を可能にするセンサ技術として近接覚センサ技術を、進路の状態を把握するセンサ技術としてリアルタイム円錐走査センサ技術を出展した。わが国の視覚障害者は約30万人で盲導犬を使いたい人が約1万2,500人いるのに対し、盲導犬の数は現在約1,000頭しかいない。日本精工ではこの技術を将来的に、車椅子、盲導犬や介護犬の代用などへの応用が可能な、人間をアシストする自律移動ロボットへとつなげたい考えだ。

thkTHK参考出品のロボットハンド そのほかTHKがボールねじ+リンク機構をを応用したロボットハンドを出展するなど、今回の国際ロボット展の出展では、メーカーが新規なロボットおよび要素技術を披露して来場者から適用の可能性を探ろうという意味合いも多かったようにうかがえる。わが国の生産力を向上させ、また人間をアシスト・サポートするロボット技術の今後の進展に期待したい。

第68回 セミコン・ジャパン2009、半導体関連分野に対応するメカ技術

セミコン・ジャパン2009 半導体を中心とするマイクロエレクトロニクスの製造を支える装置・材料産業の総合イベント「セミコン・ジャパン2009」が12月2日~4日、千葉市の幕張メッセで開催された。同展では、LEDや太陽光発電などの需要拡大に合わせ回復基調にあり、さらに市場を広げつつある半導体分野で求められる高集積化、小型、高速、低消費電力、低コスト化のニーズに対して、露光装置から材料、加工技術、計測評価技術など、多くのソリューションが示された。


niconArF液浸スキャナー(提供:ニコン) ICの高集積化とは電子回路パターンの線幅を微細化することで、現在は線幅32nm、22nmのプロセス確立に向け、特に前工程の中でもIC製造の中核技術である露光装置(ステッパー)の開発が激化している。露光装置最大手のオランダASMLは、真空紫外光の193nmより一桁以上短い13.5nmの極紫外線(EUV)を用い解像力を大幅向上するEUVリソグラフィを採用した装置で、ニコンはフッ化アルゴンエキシマレーザー(ArF)を使いレンズとウェハーの間を液体で満たすことで、従来と同じ露光波長を使いながら解像度を高める液浸リソグラフィーで2回露光(ダブルパターニング)を採用した装置で高集積化に臨む。

 ステッパーで、レチクルのパターンを投影するレンズは1/4の縮小倍率では、レチクルステージはウェハーステージの4倍の速度でスキャン動作を行い、ウェハー上に微細なパターンを焼き付けていく。ステッパーでは1時間あたりに処理できるウェハー枚数をいう「スループット」の向上が課題であり、レチクルステージには露光を開始する位置に高速に移動し、高精度に位置決めする必要がある。

 従来このステージには、サーボモータ+ボールねじ駆動と転がりの直線案内を組み合わせた機構が採用されていた。しかし、露光中の位置決め精度の誤差平均値は線幅の1/10以下とも言われ、現在の45nmプロセスではそうした接触機構の摩擦による振動などから、要求される位置決め精度、スキャン速度への対応が難しくなっていた。そこで現在はリニアモータ駆動として、エアで浮上させ非接触としたエアベアリング案内のステージが主流となっている。このステージを使ったステッパーでは、1時間あたり200枚といったスループットが実現されている。

jtekt腐食環境対応耐食組合わせセラミック軸受(提供:ジェイテクト) また、ウェハーでは配線前のベアシリコンおよび配線後のデバイスウェハーで平坦化CMP(ケミカル・メカニカル・ポリッシング)処理が行われ、高容量化のための多層配線がなされるが、この研磨および研磨後の洗浄工程では回転機構に使われる軸受がCMPスラリーや洗浄液などにさらされる。このためこうした箇所では、軸受鋼に比べ腐食に強いステンレス軸受や、さらには窒化ケイ素などのセラミック軸受が活躍している。クリーン環境の保持から、また潤滑剤が機能しない環境であることなどから、固体潤滑としてPTFEの保持器を使うなどの工夫がなされた軸受製品も展示された。

eco電着ダイヤモンドワイヤ(提供:旭ダイヤモンド工業) 加工技術では、シリコンウェハーの切断のほか、LEDの基板となるサファイヤの切断として有効な、電着ダイヤモンドワイヤなども出展、注目を集めた。

 2020年に2009年比10兆円増の31兆円市場になるという半導体産業だが、さらに2020年に20兆円市場が見込まれるLED、同じく5兆円市場が見込まれる太陽電池など、半導体市場を押し上げる要因は多い。電気自動車の航続距離を延ばすキーテクノロジーとなるSiC(炭化ケイ素)パワー半導体などでは加工の効率化などが問題となっている。こうした課題を解決し半導体の市場をさらに拡大させる、メカ技術の発展に期待したい。

第69回 わが国洋上風力発電の実用化に向けて

hybrid提供:戸田建設toda 戸田建設は先ごろ、京都大学、佐世保重工業、日本ヒュームと共同で、長崎県佐世保市において、世界で初めて、鋼・プレキャスト(PC)コンクリートのハイブリッドスパー(けた)構造による、浮体式洋上風力発電施設用プラットフォームを開発、全長125m、出力2,000kWの実用化に向け、全長12.5mの1/10モデルの実海域実験で有効性を確認した。自力で浮く構造のため、水深50m程度の比較的浅い海域から100m以深の海域まで、広い海域で対応可能な形式が有効なほか、PC部材のプレキャスト化と造船所のドックの活用により、既存施設で短期間での建造が可能で、大型クレーン船が要らず、建造後の曳航、設置が短期間で済むこと、繋留位置の変更により移設が比較的容易なため、設置箇所の経年的な風況変化やエネルギー需要に変化生じた場合でも、柔軟に対応できるという。

 風力発電機の設置が世界的に進む中、わが国では、陸地における風力発電の適地が減少傾向にあり、比較的風況の良い山岳部でもアクセス道路の整備などのコスト負担が増加しているため、世界第6位の排他的経済水域を保有する海洋国家としての立地と、洋上が陸上に比べ風況が3割良好とも言われることから、洋上風力発電の実現が期待されている。しかし水深が10m未満の遠浅海域が広い欧州では着床式の洋上風力発電の実績が多い一方、日本は遠浅の海域が少なく海底が複雑な地形をなしていることなどから、水深の影響を受けにくい浮体式洋上風力発電施設の実現が求められている。大水深域まで含めると、洋上発電でわが国のエネルギー需要をほぼ賄えるとの文部科学省の試算もあり、わが国初の浮上式風力発電技術への期待は大きい。

 ところで欧州の着床式洋上風力発電では通常、タワーエレベーターを配置し管理と作業のためのヘリポート、クレーン、スカイクライマーを設置しブレードの調査や補修用に遠隔監視操作を行っている。軸受などのメンテナンスではヘリコプターを出動、地上100m程度のヘリポートに長さ60mくらいのブレードを避けながらヘリポートに着陸し、2~3名の保守要員が2~3日がかりで作業を行い、その費用は数百万円に及ぶという。そのため、風力発電機のメンテナンス期間延長に貢献するメカ技術が強く求められている。

ceramics組合わせセラミック軸受(提供:ジェイテクト) 風力発電機用軸受は特に、ジェネレータに用いる軸受で電食による損傷が発生しやすく、故障の原因の一つとなっている。そのため絶縁機能により電食を防止しまた塩水腐食にも耐え軸受の耐久信頼性を高める、軌道輪に非磁性ステンレス鋼、玉に窒化けい素セラミックス、保持器に固体潤滑であるフッ素系樹脂を用いた組合わせセラミック軸受などが採用されている。ジェネレータ用軸受は氷点下から約60℃の温度環境下、回転速度2,700min-1、グリース潤滑下で稼動しているが、組合わせセラミック軸受により、同社一般軸受に比べ約3倍のグリース寿命を延長しているという。

 そのほか増速機ギヤで、鉱油系潤滑油剤に比べ広範な温度領域、高荷重下などで長期にわたり優れた潤滑性能を発揮する合成油ポリアルファオレフィン(PAO)をベースオイルに使ったギヤ油などの開発も進み、メンテナンス期間の延長に貢献してきている。

 浮体式洋上風力発電システムではメンテナンスが着床式に比べ容易になると思われるが、洋上風力発電で避けられない電食や塩水腐食を防止する先述のようなメカ技術は、必要不可欠だろう。わが国洋上風力発電の実用化、設置促進を後押しする機械技術の進展に期待したい。

第70回 環境分野を核に、成長市場でのビジネス展開が加速

cop15デンマーク大使館提供 コペンハーゲンで開催されていた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)は、最大の焦点だった2020年までの各国の削減目標の義務付けが盛り込まれないまま、19日に閉幕となったが、新興国も含めた主要国のCO2排出削減に向けた枠組み作りへの取組みは確実に始動している。新興国を中心とする成長市場での環境保全に根ざした需要の取込みに向け、潤滑、軸受など機械を支える要素技術メーカーの現地での研究開発、生産、販売が活発化してきている。

 出光興産は先ごろ、ブラジルのサンパウロに潤滑油販売子会社を設立、2010年1月1日から営業を開始する。南米地域の中核であるブラジルは、2007年度のオートバイ生産台数が世界4位となる170万台、自動車生産台数は2008年度で世界6位の320万台に達しているほか、2010年~2014年までの国内総生産は、米ドルベースで年率5.6~16.4%の伸長が見込まれている。現在、ブラジルの潤滑油需要は日本の約7割にあたる140万kLだが、今後環境性能を有した自動車用潤滑油、CO2冷媒を用いた冷凍機用潤滑油など高機能潤滑油の需要が大きく成長すると見込んで、新会社設立を決めた。ブラジルをはじめアルゼンチン、ペルー、チリなど南米諸国での販売を強化、2015年には売上高21億円をめざすという。

 NTNでは早くから、新興市場向けの低価格車用等速ジョイント(CVJ)、CVJとハブベアリングで構成されるモジュール部品であるハブジョイントの商品群を開発しているが、2011年からブラジルの日系自動車メーカー向けにハブベアリングの量産に乗り出す。傘下のSNR社のブラジル工場で製造・供給する。将来的にはCVJの現地生産も検討するという。

 日本精工では、2013年3月期までに新興国で拠点を整備する。同期の中国での売上高を、2009年3月期比75%増の1,000億円と見込むほか、2009年3月期に約1,300億円だった新興国での売上高を2013年3月期には約2,300億円とする計画。生産・販売拠点の整備・拡大のほか、中国に続きインドにも研究開発機能を持たせていく。成長市場での生産が進む中、現地生産した製品の評価から、将来的には市場ニーズに合わせた製品・技術の研究開発期間を早める狙いだ。

 中国で家電向けなどの受注が好調なミネベアは、現地調達率を上げ生産体制を整える。同社では中国で厳しさを増す排水処理規制に先行して完全クローズド水処理設備(排水再利用装置)を導入、政策的に現地生産を円滑化させつつある。

 ジェイテクトは先ごろ13機種の工作機械を発売したが、ここにも成長市場への対応がうかがえる。鉄道車両の車軸の加工に適した複合研削盤は高速鉄道の整備が進む中国やブラジルなどで販促を進めるという。

 各社の拠点整備・拡充や製品・技術の投入は、自動車では新興国の旺盛な需要に対して、産業用ではクリーンエネルギーとして需要拡大が見込まれる風力発電に対して、主に進められている。特に風力発電市場はメンテナンス需要も含め新規ビジネスとして期待がかかる。

 機械の稼動を円滑にする要素技術・製品の開発を促進し、それらをグローバルに普及させていくことで、わが国の景気復興を後押しするとともに、財政支援だけでなく技術的なサポートにより、新興国の地球温暖化防止の活動強化へとつなげてほしい。