第65回『冷たい月を抱く女』

第65回『冷たい月を抱く女』 kat 2009年12月6日(日曜日)

kidman 本作は、ある夫婦と友人の医師が織りなすサスペンス。

 大学の学長補佐アンディ(ビル・プルマン)は、大学付属病院の小児科で働く妻トレイシー(ニコール・キッドマン)と新婚生活を送っていたが、家の補修費用を捻出するため、高校の同級生で天才的な医師ジェッド(アレック・ボールドウィン)に部屋を貸した。原因不明の腹痛に悩まされていたトレイシーはあるとき、激しい腹痛で倒れ病院に運ばれ、ジェッドの執刀で緊急手術を受けることに。トレイシーは卵巣の一つが破裂し、もう一つもねじれて壊死しており、しかも妊娠していたが、ジェッドは生命の危機を救おうとアンディの許可を得て、二つの卵巣を除去、トレイシーは子供を産めない体となる。しかし後日の病理検査の結果、壊死は表面上だけで卵巣は正常だった。トレイシーはこれを理由にアンディと別れ、また病院を相手に訴訟を起こし多額の示談金を受け取る。しかしこれは、トレイシーと愛人のジェッドの共謀によるもので、卵巣の壊死は妊娠促進剤を多量に注射したことによるものだった。

 アンディが彼らの共謀に気づいたのは、ベッドの脇に落ちていた注射器に微量の妊娠促進剤が残っていたからだった。注射器はわずかなすき間に空気の膜ができるように筒の内側にブラスト処理をしている。エアベアリングの動圧溝のような役割で、実は押し子(プランジャ)を持って筒を回すと実に抵抗なく回る。そんなことはどうでもいいが、プランジャ先端のゴムシールも手伝って、封入した薬液は漏れ出すことはない。しかも薬液が完全に使い切られることはなく、薬液が残ってしまうことから、新型インフルエンザワクチンの有効利用という点で問題になっていた。先ごろこれに対しテルモが、針の付け根に向かって絞ってある筒の先端形状を、円すい型ではなく円筒型にして、注射器に残るワクチンを10%減らすことに成功した。この新型注射器を使っていたら、トレイシーたちも完全犯罪が可能だったかもしれない。

 名男優二人を従え、またしても美女ニコール・キッドマンの悪女ぶりが冴えわたる一作である。