第80回 エコカーの安全性向上でEPSの市場が拡大

第80回 エコカーの安全性向上でEPSの市場が拡大 kat 2010年3月8日(月曜日)

提供:ジェイテクト提供:ジェイテクト 自動車のさらなる燃費向上、安全性向上のニーズを反映して、電動パワーステアリング(EPS)の需要が拡大、メーカー各社が増産に乗り出している。約40%の世界シェアを持つジェイテクトは2013年の生産台数を1,500万台規模に倍増、また15%程度の世界シェアを持つ日本精工は2012年の生産台数を800万台と2.7倍に引き上げる考えだ。

 自動車の操舵機構としてこれまで主流だった油圧式パワーステアリング(HPS)では、エンジンの力でオイルポンプを動かし、発生させた油圧で操舵力をアシストする仕組みとなっている。これに対しEPSは、必要な操舵力や回転速度、車速などをセンサーで検知し電子制御により、モーターを動かしてアシストする。常にオイルポンプを動かしているHPSに比べ、モーターを動かすだけのEPSでは、3~5%の燃費向上を図れる。特にハイブリッド車やEV車ではエンジン駆動がなくてもアシストが必要となるため、EPS化が不可欠となってきている。また操舵トルクの軽減だけでなく、トルクをアクティブに電子制御することで車両姿勢の安定化やレーンキープの補助を可能にするEPSは、最近国内外で取りざたされる安全性確保の面でも、有効である。従来小型乗用車を中心に採用が進んでいたEPSだが、燃費向上を目的に中型乗用車や大型乗用車でのニーズが拡大、さまざまなメカ技術により、省燃費性能と安全性向上が図られ、適用が広がってきている。

提供:日本精工提供:日本精工 日本精工では先ごろ、直進走行中に路面の傾斜などによる車両の直進走行感(オンセンター感)の低下を検知して、自動的に直進走行感(オンセンター感)を補正する制御機能を備えたEPSを開発した。オンセンター感とは、車両が直進走行時に、ドライバーがハンドルに力を入れなくてもまっすぐに走行でき、また、ハンドルを左右に切ったら、ハンドルからの反力を感じることで車両の動きを把握できる手応えをいう。直進走行感向上機能付きEPSは、ハンドルの操作力を軽減するEPSに電子制御技術を応用、路面の傾斜や車両・タイヤの経年劣化などによる偏りを検出し、直進走行感を高める補正を自動的に行う制御機能を持つ。ドライバーのハンドル操作の負担を軽減し、安心で快適なドライビングに貢献する。

提供:日本精工提供:日本精工 また同社は、安全性向上の観点から、EPSの電子制御技術を活かし、タイヤグリップロス状態検知機能を持ったEPSを開発している。タイヤの路面グリップが失われそうな状態になると、操舵トルクを補正することでドライバーに知らせグリップ状態での操作を促す。さらにグリップが失われたときには、グリップが回復するように操舵力を補正することで、ドライバーが正確なハンドル操作を行えるように支援する。これにより、特に滑りやすい路面での走行安定性を高めることに貢献するとともにドライバーに安心感を与える。


提供:ジェイテクト提供:ジェイテクト ジェイテクトでは、高出力化と車両搭載性の向上を同時に実現するデュアルピニオンEPS(DP-EPS)を開発している。EPSは、モーターと減速機の配置により、コラム式(C-EPS)、ピニオン式(P-EPS)、ラック式(R-EPS)の3種類に大別され、車種の特徴に応じて最適なタイプが採用されている。P-EPSはエンジンルーム内にアシスト機構(電動モーターと減速機のユニット)を配置し、ハンドル軸をアシストするEPSで静粛性に優れ、主に軽自動車から小型車クラスに搭載されている。開発品では車両搭載性向上と高出力化の要求に対し、アシスト機構をハンドル軸と分離し、2箇所のピニオンがラックと噛み合う構造とすることでアシスト機構の設計自由度を広げ、小型高強度減速機の採用などの技術を織り込むことで、従来のP-EPSに対し車両搭載性を向上し、20%増の高出力化を実現した。これにより、中型車クラスへの搭載も可能な出力を実現した。

提供:ジェイテクト提供:ジェイテクト EPSの要素技術開発も進んでいる。自動車操舵安定性向上志向から、ハンドルとギヤボックスをつなぐ連結軸である「インタミディエイトシャフト」で、高速直進走行時での安定性を得るための高い剛性感や、走行状態や路面状況で外乱による上下振動のスムーズな吸収などの要求が高くなってきている。これらのニーズに対しジェイテクトでは、ベアリングの設計を応用してガタのない直動型のボールスライド構造を採用して「高剛性ボールスライド式インタミディエイトシャフト」を開発した。ハンドル回転方向のねじり剛性が高く、ハンドルのあそびが低減され操舵安定性が向上するほか、ボールの転がりにより全操舵トルク領域で軸方向変位をスムーズに吸収できることで、外乱による軸方向変位を吸収し、正確なトルクを伝えスムーズな走行が可能となる。

 高速走行性能と安全性をともに向上すべく、高速走行時の小さなハンドル操作をタイヤへ伝え、車の操縦性をより向上させるねらいで、日本精工では高速走行時のハンドル操作のダイレクト感が向上する自動車ステアリングジョイント「エクセオスジョイント™」を開発している。開発品では、ベアリング技術開発で培った摩擦コントロール技術、予圧技術、生産技術などを応用して、作動トルクを従来品と同レベルに抑えて、回転方向のガタ(バックラッシュ)をなくしハンドル操作のダイレクト感を向上している。

 ハンドルの回転運動を左右の直線運動に変換し前輪の向きを変えるステアリングギヤシステムでは、構造がシンプルでスペースをとらず操舵感がシャープとされる「ラック&ピニオン式」が多く採用されているが、このピニオンギヤには軽量化が図れ摺動特性に優れるエンジニアリングプラスチック、ポリアミド(PA)樹脂製などが使われているが、さらに寸法安定性が高い上、長期間使用した際のバックラッシの増加量が著しく小さい、摩擦・摩耗特性のバランスがよいポリアセタール樹脂(POM、ポリプラスチックス社製など)も多用されている。

 もちろん、EPSの高出力対応やさらなる省燃費化のための小型・高出力・低騒音のブラシレスモーターなどモーターの技術とモーター制御技術などの開発も進んでいる。エコカーの普及拡大に伴うEPSの需要拡大は、各EPS部品・コンポーネントの需要も押し広げており、それらの技術の研鑽により自動車の燃費向上と、安全神話の復権に貢献するEPSのさらなる市場拡大につながることを願う。