第111回~第120回

第111回 レアアース調達難航で、希少金属使わない技術開発の推進を

i-mievi-MiEV(提供:三菱自動車) 中国のレアアース(希土類)の禁輸が拡大してきている。経済産業省が9月28日~30日に実施した「中国における輸出入状況に関する調査」の結果でも、レアアースの貿易に関与している31社全社から、尖閣諸島での中国漁船衝突事件の後の9月21日以降、日本向けの輸出が止まっているとの報告がなされている。

 ハイブリッド(HV)車や電気自動車(EV)の二次電池のリチウムやモーターの磁石のネオジムやデジカメのレンズのタンタルなどのレアアース。中国はこのレアアースの世界生産量の97%を占める。来年度の日本のレアアース需要は3万t以上に上る見通しで、そのほぼ全量を依存する中国の禁輸から、約1万tが不足すると見られている。

 こうした事態に先立って、資源に乏しいわが国では、レアアースやその他レアメタル(希少金属)に頼らない技術の確立を目指し、研究開発が早くから進められている。

レアアースを使用しないHV・EV用モーターを開発

モーター提供:NEDO たとえばエネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では先日、レアアースを使わないHV・EV用モーターを開発したと発表した。北海道大学・小笠原悟司教授ら研究グループとともに開発したもの。現在、高出力を要するHVやEVのモーターには、磁力の強いレアアース・ネオジムを使用したモーターが採用されているが、ほぼ100%を中国に頼っていることから安定調達が難しい。レアアースを使用しない場合は、フェライト磁石モーターを使用することになるが、従来のフェライト磁石モーターでは回転するローターディスクの上に磁石や鉄心を配置していたため、出力を上げることができなかった。これに対して、ローターディスクの代わりに磁石と鉄心を組み込んだ回転部を採用することで、希土類磁石モーターと同等のサイズと出力(51.5kW)を得られるフェライト磁石モーターの試作に成功したもの。

リウムの使用量を低減させる技術と代替材料

セリウム提供:立命館大学・谷 泰弘研究室 NEDOではまた、「希少金属代替材料開発プロジェクト」の一環として、レアアースの一種で液晶テレビのガラス基板の研磨材として使われるセリウムの使用量を低減させる技術と代替材料の開発に取り組む立命館大学・谷 泰弘教授、アドマテックス、クリスタル光学、九重電気と、新たな研磨パッドと複合砥粒の開発に成功した。新開発の研磨パッドは、従来用いられていたウレタン樹脂の代わりに開発したエポキシ樹脂を用いたもので、研磨能率は従来の2倍を超えることが確認された。また、この研磨パッドと、セリウム代替となる酸化ジルコニウムなどの砥粒を組み合わせた複合砥粒はコアの有機物の周囲に酸化セリウム等の砥粒を付着させた構造をもつもので、研磨能率が50%改善、これにより使用量の低減が可能となるという。

プラチナを表面改質してレアアースの使用量を減少

アルバック理工「アークプラズマ成膜装置原理図」提供:アルバック理工 自動車排出ガス浄化用触媒や燃料電池用触媒のレアメタルであるプラチナ(白金)をナノ粒子にして表面改質することで、使用量を減らす試みがある。アルバック理工では、パルスのアーク放電を発生させて、瞬時にターゲット材料をプラズマにして基板にイオン化された蒸着装置を付着させる。排出ガス浄化用触媒向けでは、カーボン粉を真空中で攪拌しながらこのアークプラズマガンを用いて2~3nmの白金ナノ粒子を蒸着する。ナノ粒子にして表面積を増やし触媒の効果を高めつつ、その使用量を減らすことに成功しているという。

 中国のレアアース禁輸に対し、ドイツが日本のレアアース確保の支援を約束し、新たな供給源開拓のために日独が協力して取り組む方針を示唆するなど、国際的な協調体制構築も進んでいる。しかし、資源に乏しいわが国がこれまでレアメタルに頼ってきた先端分野で引き続き先導的役割を果たし続けるべく、今後も、様々な産業分野においてレアメタルを極力使わない技術の確立が求められよう。

第112回 JIMTOF2010に見る工作機械のトレンドに対応する軸受・直動案内技術

JIMTOF2010のもよう 10月28日~11月2日、東京・有明の東京ビッグサイトで「第25回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2010)」が開催、切削・研削・研磨・プレス加工などの工作機械をはじめ、直動案内機器や軸受などの工作機器、工具、切削・研削油剤などの関連技術が一堂に会した。LEDなどグリーンエネルギーに関わる微細加工の技術が紹介される一方で、ここ数年で大幅な需要拡大が見込まれる航空機や中国など新興国が市場を牽引する建設機械など大型部品の加工技術もデモンストレーションなどをまじえて紹介された。こうした各種ニーズに対応する多軸機や複合機の可動部を支える軸受や直動案内などの機械要素技術も多数出展された。

航空機部品など難削材加工にセンサ付きスピンドル

JIMTOF2010のもよう2 今回ヤマザキマザックやオークマ、森精機製作所など多くのブースで、大型加工機によるランディングギヤなど航空機部品のデモが行われていたが、航空機では機体重量を軽減し燃費を向上させるためCFRP(炭素繊維強化プラスチック)やCFRPと相性が良いチタン合金など難削材による複雑形状の部品が多い。そこで旋削機能も含めた高剛性・高精度な5軸複合加工機が必要となる。5軸複合加工機1台に工程集約することで、工程間の搬送や段取り時間の削減、加工精度のバラツキを抑え、JIMTOF2010のもよう3航空機部品の生産性向上が図られている。こうした多軸複合機での主軸の異常によるダウンタイムの低減などを目的に、日本精工では「荷重変位センサ付ビルトインモータスピンドル」を開発、披露した。2万rpmまでの回転域でアキシャル変位±1μmの高精度検出と0.012秒(6,000rpm時)の高応答検出が可能な荷重変位検出用センサをスピンドル軸受部に取り付けることで、切削加工中の荷重を常に検知、工具の寿命管理やスピンドル異常検知などを可能にする。

精密・微細加工に対応する各種機械要素技術

JIMTOF2010のもよう4 医療・光学分野向けなどの切削による精密・微細加工では、工具主軸の超高速回転と振れ精度や、送り機構の超高精密、高剛性などが求められる。こうしたニーズに対して、たとえばジェイテクトではセラミックボールの転がる軌道輪の設計や軽量・高強度の特殊樹脂製保持器の設計、外輪給油穴の設計などを最適化することで、オイルエア潤滑で従来軸受より20%高速化(dmn値400万)、さらに精度に関わる温度上昇をオイルエア潤滑で同40%低減する「超高速アンギュラ玉軸受」を開発、出展した。NTNでもまた、主軸用軸受として、内輪にセラミックスを使い、低温の潤滑油を常に送り出し昇温を抑えつつ35,000rpmの超高速回転を実現する「エアオイル潤滑超高速NU形円筒ころ軸受」を開発した。一方THKでは、従来直動案内の2倍となる8条列の転動溝などにより、ウェービングを上下10nm以下、左右20nm程度と一般的な直動案内の1/10に抑えつつ高い剛性を実現したボールリテーナ入りLMガイド「SPR/SPSシリーズ」を展示した。

新興国向けの機種には部品にもコストパフォーマンスが求められる

 こうした用途での高剛性とは別に、自動車や家電製品など需要が堅調な中国など新興国では、加工の時短要求とともに工作機械の使い方が荒いと言われる。タフでコストパフォーマンスの高い仕様としては、たとえばスライドユニット長さを長くし組み込まれるローラの数を増やすことで精度を向上しつつ、小形サイズながら負荷容量と剛性を上げ、工作機械のトータルコストダウンを実現する日本トムソンの「超高精度・超高剛性ロングユニットMXL」などがあろう。また、異物粉ガ発生しやすい生産現場で稼働する直動案内で異物侵入による軌道面の異常摩耗や展胴体の循環不良による破損を防ぐ日本精工の「高防塵サイドシール付きローラガイド」なども、直動案内の潤滑寿命を延長し工作機械の長時間稼働を実現するタフな技術と言えようか。

 JIMTOFの会場で某工作機械メーカーが、「(これまでの自動車分野の偏重から)航空機、医療など成長分野をはじめどんな分野の加工にでもチャレンジしていかなくてはしなくてはいけない。多軸・複合機によってこれまで思いもよらなかった分野まで加工対象が拡がってきている」と語っていた。軸受・直動案内など機械要素技術の活躍によって、微細・精密な加工機から、大型部品の加工機、新興国などでの荒い使用に耐える低コストの加工機に至るまで多様な加工ニーズに対応して進化し続ける工作機械の高性能化と信頼性向上が支えられている。

第113回 秋の叙勲に、わが国ベアリング業界の先進性を思う

転がり軸受提供:NTN 平成22年秋の叙勲では各界で功労のあった計4,173名が受章、ベアリング分野からNTN会長の鈴木泰信氏が旭日重光章を受章した。同氏は、同社社長、会長として産業の発展に寄与したほか、日本ベアリング工業会の会長、ならびに近年設立された世界ベアリング協会の初代会長としてベアリング業界の発展に寄与した功績が評価されたもの。

世界を牽引するベアリング大国日本

NTN鈴木泰信会長NTN鈴木泰信会長(提供:NTN) 技術およびマーケットを牽引する日本のベアリング業界は、早くからグローバル展開を進め、それととともに欧米やアジアなどのベアリング業界との間で国際的な協力、連携を進めてきている。1993年に米フロリダ州で日米欧三極の業界首脳が初めて一堂に会し、第1回首脳会合が開催された。その後2005年に米サンフランシスコで開催された第7回首脳会合において、環境問題や偽造品問題などベアリング産業の共通の利害問題に対し、関連法規に基づきながら効率的に対処する目的で、世界ベアリング協会(WBA)設立の提案があり、2006年9月には京都でWBA設立総会が開催されWBAが設立、鈴木氏が初のWBA会長に就任した。

 ベアリングは本欄でも度々取り上げているとおり、自動車・新幹線や風力発電用など、あらゆる機械の回転部分を支え、省資源や環境保全に貢献する製品として、その重要性が年々高まってきている。また、日本から世界に向け発信できる優位性の高い商品の一つであり、それゆえ日本製ベアリングの世界での流通とともに、1990年代の終わりから偽造ベアリング製品がアジア、中近東、中南米、アフリカなどに多数流通、問題化してきていると言えよう。これに対し日本ベアリング工業会では、こうした偽造品を使用した自動車や電気製品などは早期破損に繋がる可能性が高く、消費者や工場の作業者などを危険にさらすことになるほか、機械の突然停止による生産効率の低下、メンテナンスコストの増大など経済的な損失を招くことも少なくないとの懸念から、世界に先駆け、不正商品の生産拠点があると思われる中国に2000年11月末に第1次ミッションを派遣、以来2008年までに第8次ミッションを派遣し、中国政府機関に対し不正なベアリングによる身体、生命への危険性を訴えながら、その製造・販売の撲滅に向け取締りの要請を行うなどの対策に努めている。WBAでもこの日本ベアリング工業会の取組みが評価され、偽造品対策が強化されてきている。

省エネ・高信頼性ベアリング製品の開発によりと市場投入によりさらなる活性化を

WBA設立総会のもようWBA京都設立総会(提供:日本ベアリング工業会) 一方、WBAで世界共通の課題としている地球環境問題について、日本ベアリング工業会では地球環境対策委員会を発足して、ベアリング業界として本問題に対する取組みを活発に行っている。たとえば地球温暖化対策における目標として、2010年度の二酸化炭素排出原単位(二酸化炭素排出量(t、CO2)/ベアリング付加価値生産高(金額))を1997年度比13%削減に努めるとし、廃棄物対策における目標として、廃棄物の再資源化率を2010年度に90%に向上するよう努めるなどとしている。CO2削減へのベアリングの取組みとしては、NTNの開発品の例で言えば、自動車トランスミッション用スラストニードル軸受の回転トルクを50%低減した「低トルクスラストニードル軸受」などが挙げられよう。廃棄物の再資源化の同社の例としては、ベアリング製造工程で発生する研削スラッジを金属と研削液に分離する処理技術とその設備(研削スラッジ固形化装置)を開発、金属と研削液を資源として再利用するリサイクル技術を確立したことなどが挙げられよう。わが国の省エネベアリング製品、ベアリング分野での廃棄物対策もまた、WBAでも評価され、模範とされている。

 秋の褒章でのベアリング業界からの栄えある受章を機に、あらためて世界に先駆けたわが国ベアリング業界が一丸となっての不正商品撤廃による製品の信頼性向上、地球環境保全への取組みと、世界のベアリング業界への波及の進展を思いつつ、世界に誇る省エネ・高信頼性ベアリング製品のたゆみない開発と市場投入によって、わが国ものづくり産業の活性化につながっていくことを期待したい。

第114回 世界に発信した日本の強み、次世代高速車両リニア新幹線

リニア新幹線リニア新幹線 11月13日~14日、横浜で開催された「2010年日本APEC首脳会議」では、地域経済統合、成長戦略、人間の安全保障を中心に、アジア太平洋の将来像について議論を行い、首脳宣言として、APECがさらに緊密に高度化した経済統合で結ばれ(緊密な共同体)、質の高い成長を実現できる強い共同体(「強い共同体」)であり、安全で、安心して経済活動を行える共同体(安全な共同体)に向かっていくという「横浜ビジョン」で合意した。具体的には、ボゴール目標達成評価を行った上で、アジア太平洋地域での地域経済統合を更に推進するために、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築に向け具体的な行動を取ることとなった。また、世界の成長センターであるこの地域として初めての、長期的かつ包括的な成長戦略をとりまとめた。また人間の安全保障の課題に対処するため、食料安全保障、防災、感染症への対応、腐敗対策、テロ防止などの分野に注力していくこととなった。

最高時速502kmの超電導リニア新幹線

 ところで今回の開催にあたり、来日した首脳らに対し、日本政府は、地元自治体である横浜市・神奈川県とともに、心からの歓迎の意を表し、地元自治体等との連携のもとに宇宙から帰還した小惑星探査機「はやぶさ」など最先端技術やものづくり、伝統文化や現在の美術などの「日本の強み」をアピールした。特に米国などでも採用を検討している高速鉄道・リニアモーターカーなどが出席者から注目を集めた。

 先にJR東海が計画するリニア中央新幹線計画について、国土交通省の審議会は東京-名古屋間をほぼ直線で結ぶルートが最も経済効果が高いとする試算を公表した。2045年に直線ルートで全線開業し東京-大阪間が67分で結ばれた場合、沿線地域の企業への経済効果を年間8,700億円と見ている。

magnet さて、この超電導リニア新幹線は、車両に搭載した超電導磁石と地上コイルの間の磁力で車両を10cm浮上させ、最高時速502kmの超高速で走行する。

 車両は基本的に非接触で浮上、ガイドウェイ(従来の鉄道の軌道)に案内され、推進するが、超電導機構での安全性や高速走行での信頼性を向上するメカニカルな機構も備えている。

電導機構での安全性、高速走行での信頼性を向上するメカニカルな機構

shinshuku伸縮方式 たとえば超電導磁石の磁界から乗客を守るため、プラットホームには、飛行場のボーディングブリッジのような乗降設備を設けている。この乗降設備により磁界は遮蔽され、安全に車両に乗り降りできる。伸縮方式の乗降設備は通路自体が4層のボックスからなり、乗降時にはジャバラ状に伸びる伸縮式のものとなっている。kaiten回転方式回転方式の乗降設備は床と両側面の3面のボードからなり、乗降時にはホーム側から一対の扉が90°回転し、床面はスライド板が出て通路を構成する回転扉式のもの。

 また、分岐装置(ポイント)は列車が進路を振り分けるために必要不可欠な装置。この分岐装置には、使用目的に応じた列車速度の違いから高速用、低速用、車両基地用の3種類がある。車両が基準線側(直線側)を高速浮上走行し、分岐線側(曲線側)を低速車輪走行する区間にトラバーサ方式の分岐装置を採用している。トラバーサ方式は、ガイドウェイをいくつかの横方向に移動可能な桁(可動桁)に分割して、移動させることにより、進路を構成するもの。山梨実験線では、この桁を移動させるための動力として、電動方式と油圧方式の2種類を採用し、試験を行う。始点や終点のターミナル駅等の基準線側、分岐線側を低速車輪走行する区間に側壁移動方式の分岐装置を採用している。側壁移動方式は、桁を移動する代わりに側壁だけを上下、左右に移動させて進路を構成するもの。分岐装置の前端部と後端部は側壁を左右に、中間部は側壁を上下に動かすようになっている。

 時速500kmの高速からの制動力を実現するのは通常は電力回生ブレーキだが、バックアップブレーキとして発電抵抗ブレーキ、コイル短絡ブレーキ、空力ブレーキ、車輪ディスクブレーキを備えており、超電導効果が発現しない非常時でも安全に停止することができるようになっている。

今後もグリーンエネルギーとして注目されるリニア新幹線

 今回のAPECでは、各国・地域から経済危機から回復しつつあるこの時期にAPECが初めて長期的・包括的な形で成長戦略を策定していくことが時宜にかなっているとして強い支持があった上で、「均衡ある成長」「あまねく広がる成長」「持続可能な成長」「革新的成長」「安全な成長」という柱に沿った形で、それぞれの取組の重要性について議論が深められ、特にグリーン成長や構造改革の分野での具体的行動を求める声が相次いだ。このグリーンエネルギーとして各国が注目するのが中でも環境負荷が少ない高速車両の技術である。中国でも新幹線の技術を導入し高速車両を輸出し始めているが、その実績は少ない。それに対しわが国の新幹線は、高速車両として半世紀の安全神話を誇る。グリーンエネルギーに貢献し都市間を超高速で結ぶ高速車両の最高峰、リニア新幹線に世界中の視線があらためて集まってきている。

第115回 アクティブメンテナンスで現場の生産性・信頼性の向上を

メンテナンス・テクノショーのもよう 11月17日~19日、東京・有明の東京ビッグサイトで日本プラントメンテナンス協会らの主催による「メンテナンス・テクノショー」が開催、最新の設備診断・保全技術が多数展示された。

「事後保全」から「予知保全」へ

 わが国では、円高対応などでさらなる生産性向上によるコストダウンに取り組んでいる一方で、設備管理方法として、機械設備が故障してから修理する「事後保全」方式をとっている生産設備の休止損失によって利益を圧迫し、また機械の不具合による製品の品質低下を招いている現場も少なくない。そこで、この展示会では予知保全(PM:predictive maintenance)の概念から、設備の劣化状況や性能状況を診断、その診断状況をもとに保全活動を進める設備診断・保全技術が紹介された。特に、劣化状態を観測し、真に保全の必要な時に保全を施す状態基準(監視)保全(CBM:condition-based maintenance)の概念から、設備の状態を定量的に把握する設備診断技術の出展が多かった。

軸受の予知保全

fftFFTアナライザーのメリット(提供:小野測器) たとえば、機械故障の多くは軸受の損傷が原因と言われるが、回転機械の軸受(玉軸受、ころ軸受)の外輪に損傷があった場合、ベアリングが回転するときに外輪の損傷にボール(転動体)があたるため衝撃波が発生、この衝撃波により外輪が振動しハウジングの表面を振動させる。振動計、ベアリングチェッカーと呼ばれるものは、このベアリングの異常に伴う振動を振動ピックアップと呼ばれるセンサにより検出して電気信号に変換、振動のレベルをとらえベアリングの状態監視を簡便に行う機器。ベアリングの損傷を事前に検知し回転機械・装置の信頼性を高め運転コストの削減につなげるものだが、さらに異常箇所の特定ではFFT(高速フーリエ変換)アナライザーというシステムが用いられる。回転機械の複雑な振動波形はFFT アナライザーによる周波数分析データによって、どの周波数のレベルにどれほどの変化が生じたか、その周波数がどの部位から発生する周波数と考えられるかが検討でき、それにより異常原因と部位を推定することが可能になる。特に、故障の初期段階や微小な異常の場合、旧来の手法では波形にほとんど変化がないため検出が難しかったが、周波数分析をすることで異常の早い段階で微小な異常の検出もとらえることができる。

潤滑油の予知保全

 また、機械設備では潤滑トラブルが全トラブルの25%以上を占めるといわれ、特に油圧システムの故障では8~9割が油の劣化に起因するといわれるほど、油の汚れ(コンタミ)が機械システムに与える損害は大きい。そこでやはり予知保全の観点から、金属摩耗粉やスラッジ、侵入した粉塵などコンタミによる使用油の劣化の状態を、早期に検知する手法が適用されている。たとえば自動粒子計数器(パーティクルカウンター)によるオンライン測定するシステムでは、稼働する装置の油圧作動油や各種潤滑油の中のパーティクルを、100mL中に分類された粒子サイズごとに、数量により規定された等級で評価するNAS1638やISO4406による清浄度コードなどで清浄度のチェックが行われ、潤滑油の管理がなされている。

 生産現場でのロスをなくし経済効果を高めるにはこうした設備診断機器の導入促進が引き続き望まれるが、そうした軸受管理や潤滑管理に携わる技術者の育成も重要である。

メンテナンスには設備だけでなく「人」の育成も必要

 技術のグローバル化を推進するため、診断技術の分野でもISO18436-2(機械状態監視診断技術者(振動)の認証に関する規定)が2003年に発行された。機械の共通技術である設備の状態監視、診断、保守の分野ではすでにグローバル化が進み、多くの企業が国際的に事業を展開しているため、グローバル化された企業においては、本資格を有している技術者がいることが必要となる。日本機械学会では2004年10月からこのISO18436-2に準拠した「機械状態監視診断技術者(振動)」として、機械振動の測定・解析を行う技術者の認証を行っている。また2009年10月からは、ISO18436-4に準拠した「機械状態監視診断技術者(トライボロジー)」としての資格認証を開始、この資格認証はトライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑の科学技術)の専門学会である日本トライボロジー学会(JAST)との共同認証になる。この認証により、潤滑技術や潤滑管理だけでなく積極的にメンテナンス全般に関わる幅広い知識を有する技術者を訓練・育成することが可能となるという。製造業にとっては、スペシャリストとしての資格保有者がメンテナンスを担当することで技術的な保障と責任体制が確立されるため、資格制度を取り込んだ技術者を擁する海外企業との競争でも、国際的な技術レベルの評価を受けることができる。資格保有者自身にとってもステータス、社会的信頼を得ることにつながり、専門技術者として可能な仕事の範囲が広がることが期待されている。

 製品を製造し直接的な価値を創造する生産設備に対して、設備診断機器は生産に直結しない設備として導入が後回しにされ、依然として事後保全に陥っている現場も少なくないという。社会的ステータスの高い機械状態監視診断技術者が生産現場で活躍していくことで、予知保全技術・機器による生産性・信頼性を高めるアクティブメンテナンスの思想・体制が生産現場に根付いていくことに期待したい。

第116回 信頼性の高い衛星開発の推進を

kogata小型科学衛星プロジェクト(提供:JAXA) 菅政権の「事業仕分け」第3弾の後半戦(再仕分け)では、文部科学省の宇宙関連事業を取り上げ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の開発した小惑星探査衛星「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」の微粒子を持ち帰るなど実績をあげていることから、宇宙開発の重要性が認められ、今年度予算の水準約1,800億円を維持することでまとまった。文科省は次年度の概算要求で、すでに「はやぶさ」の後継機の開発費などを挙げている。

過酷な宇宙環境で求められる衛生材料・部品

 「はやぶさ」のミッション成功など、わが国の宇宙開発技術が世界的に注目されている一方で、大学・高専などが製作、H2Aロケットとともに打ち上げられた小型衛星は、次々とトラブルに見舞われている。これは宇宙機器に使われる材料に影響を与える、-150~+200℃という温度サイクル、真空紫外線、10-3~10-5という高真空、原子状酸素、宇宙塵(スペースデブリ)といった過酷な宇宙環境に起因しているという。真空環境一つをとっても、金属同士がくっついてモータや弁の軸が動かなくなる要因となる。

 こうした中、JAXA宇宙科学研究所では、特徴のある宇宙科学ミッションを迅速、高頻度、低コストで実現することを目指し、中型・大型科学衛星を補完する位置づけで小型科学衛星(SPRINT)シリーズを立ち上げた。まずは、現在JAXAで開発されている新固体ロケットを用いて2012年に1号機(SPRINT-A)を打ち上げることを目標とし、その後5年間に3機程度のペースでの打ち上げを目指す「小型科学衛星プロジェクト」が動き出している。

 このプロジェクトでの「信頼性の考え方」を見ると、“不具合発生時に原因究明に支障がでる箇所や過去に類似品で不具合経験がある箇所については冗長構成をとる”、とある。衛星の信頼性を高めることは重要だが、冗長システムは結果的にコスト増大を招く。根本的な解決策としては、宇宙空間で壊れにくい材料・部品を使って衛星を作るしかない。

宇宙開発事業予算の確保を機に信頼性の高い衛星開発の推進を

 そうした観点から宇宙材料の耐環境性についてはこれまで、各種宇宙用材料を実際の宇宙空間で曝露して特性変化を観察する軌道上材料曝露試験が行われている。米国では1980年代から、わが国でも1990年代から材料曝露実験が実施されている。それらのデータが宇宙用材料の開発にフィードバックされてきているとはいえ、最近でも国際宇宙ステーション(ISS)の実用ソーラーパネルに使われるポリイミドの原子状酸素による破断事故などが報告され、さらなる材料の改善が求められている。

 しかし近年、その軌道上材料曝露実験での問題点が多数指摘されている。「軌道上材料曝露実験高度化ワーキンググループ」の神戸大学・田川雅人教授は、現在でも材料曝露実験を実施する機会が少ないことや、一つのミッションにかける期間が長すぎるといった問題があるのに加え、スペースシャトルの2011年最終フライト以降は軌道上曝露材料回収のめどが立っていないという問題を指摘する。

 サンプル回収が困難になれば、軌道上でのその場解析(in-Situ解析)などを行って材料の評価を行う必要がある。そこでは、宇宙空間で稼動する機構部品の信頼性がますます求められる。そこで宇宙機器で多くの搭載実績を持つ固体潤滑剤が期待されている。「特に実績のある二硫化モリブデンを使うことで機構部品をコンポーネント化、これまでのオーダーメイドからレディーメイドとして、小型衛星ユーザーも使いやすくなるのではないか」と田川氏は言う。

 しかし、これまで実施されてきた軌道上材料曝露実験と地上試験との相関は得られておらず、紫外線スペクトルや原子状酸素曝露条件など宇宙環境とまったく同条件での地上試験は不可能なのが現状。スペースシャトルに代わるソユーズで回収可能な小型の材料曝露パレットの開発など解決の方策もいくつか掲げられているが、過去の材料曝露実験のデータが十分には公開されていないという指摘もある。

 軌道上その場解析という段階では、材料・機械分野からだけでなく、システム分野からも研究者が参画することが不可欠になる。現在は公開されていないデータが多いが、これまで実験を重ね蓄積されてきたデータを共有しての横断的な研究により、固体潤滑剤など宇宙用先端材料開発の課題を解決していくことで、宇宙機器、さらには衛星のさらなる信頼性向上につながっていく。宇宙開発事業予算の確保を機に、信頼性の高い衛星開発の推進を望む。

第117回 セミコンに見る半導体の微細化・大面積化に対応したメカ技術

セミコン・ジャパン2010 半導体製造装置や材料の展示会「セミコン・ジャパン2010」が12月1日~3日、幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催された。韓国、台湾の半導体デバイスメーカー、ファウンドリー(受託生産会社)と競争力向上からは、集積度を上げる回路線幅の微細化やの出展各社のブースには回路線幅の微細化に対応した装置に加え、ウェハーサイズの大面積化、チップやセルを縦に積み上げる3次元構造化などに対応する装置や部品・材料が多数展示された。

各所で求められる微細化技術

 半導体メモリーで見ると、パソコンでは読み書きが速いDRAMが、携帯電話などではデータ保存でき、消費電力が低いNAND型フラッシュメモリーが主流。DRAMではエルピーダメモリが40nmプロセスを導入、NAND型フラッシュでは韓国サムスン電子、東芝などが32nmプロセスを導入している。こうした回路線幅の微細化では、回路を焼き付ける露光光源の短波長化が進められ、65nmプロセスからは波長193nmのフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザーが用いられている。また投影レンズの明るさNA(開口数)を向上し解像度を高める手法として、45nmプロセスからは投影レンズとウェハーの間に純水を満たし光の屈折率を向上させる液浸技術が採用されている。さらに32nmプロセスではArF液浸で2回露光を実施するダブルパターニングが用いられている。

ニコン液浸露光装置提供:ニコン 露光装置で、レチクルのパターンを投影するレンズは1/4の縮小倍率では、レチクルステージはウェハーステージの4倍の速度でスキャン動作を行い、ウェハー上に微細なパターンを焼き付けていく。ステッパーでは1時間あたりに処理できるウェハー枚数をいう「スループット」の向上が課題で、レチクルステージには露光を開始する位置に高速に移動し、高精度に位置決めする必要がある。そこでレチクルステージは磁気浮上型リニアアクチュエータなどで案内、そのXY平面の位置をレーザ干渉計で0.25~1nm程度の分解能で常時検出、Z軸方向の位置は多点焦点位置検出系からなるフォーカスセンサによって計測し、それらの計測値に基づき高精度に制御・駆動される。また、 ウェハーを搭載するウェハーステージは、リニアモータ駆動により、エアで浮上させ非接触としたエアベアリングで支持されリニアエンコーダーシステムにより位置が計測され高精度に制御・駆動される。

 ArF液浸ダブルパターニング露光装置では高い重ね合わせ精度が必要で、32nmプロセスでは2nm以下の重ね合わせ精度が必要となる。たとえばニコンの液浸露光装置S620Dではステージ位置決めの高精度化のため、高精度エンコーダーとレーザ干渉計のハイブリッドシステムを採用している。これにより2nm以下の重ね合わせ精度と、1時間あたり200枚といった高スループットが実現されている。

大面積化に対応する各技術

安川電機搬送ロボット提供:安川電機 微細化の一方で1ウェハーあたりのチップ収量を上げるため、すでに300㎜ウェハーのラインが構築され大口径化が進んでいるが、これに対応した搬送系の機構では、大口径化しつつ薄厚化したウェハーのたわみや反りによる負荷を低減することが求められる。これに対したとえば京セラのウェハーハンドリングアームでは、ウェハーへのダメージの緩和や不純物の拡散防止などを目的に、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングなどを基材のセラミック表面に被膜している。またそれぞれ微細化したチップへのコンタミの付着防止が求められ、に用いられる軸受では、CVD成膜装置など高真空環境でのウェハー搬送用ロボットなどでは、ステンレス鋼の内外輪・玉に、銀など固体潤滑剤を被覆した軸受などが適用されている。また、半導体洗浄装置やCMP(化学的機械的プラナリゼーション)装置など水や薬液への体制が求められる環境でのウェハー搬送用ロボットでは、ステンレス鋼、セラミックス、樹脂などの耐食材料を用いた耐食軸受が適用されている。

 半導体製造プロセスでは、さらに米Intel、韓国サムスン電子、台湾TSMCなどが現在の1.5倍となる450㎜ウェハーへと大口径化を進めている一方で、TSMCなどが2Xnmプロセスを導入し始めている。これら次世代プロセスに対し、搬送系などのメカにはさらなる高精度でクリーンな稼働が求められている。

第118回 グローバル競争に打ち勝つ工業標準化の推進を

metal提供:大同メタル工業 経済産業省は先ごろ「平成22年度工業標準化事業表彰」を発表、機械要素分野からは、産業技術環境局長表彰で、滑り軸受の国際標準化活動への貢献が認められ、オイレス工業・特別顧問の笠原又一氏と大同メタル工業・研究開発所 業務推進室 室長の岡本 裕氏がそれぞれ受賞した。工業標準化事業表彰は、ISOなど国際規格やJIS(日本工業規格)の作成や普及に寄与し、その功績が顕著と認められる個人および組織を表彰することで、工業標準化の適切な推進と普及を促進し、わが国経済産業の発展に寄与するために制定されたもので、産業技術環境局長表彰は国際標準化活動を幅広い側面から支える関係者に対し贈られる。

市場占有率高める一方で国際標準化が遅れた日本の滑り軸受

 オイレス工業の笠原又一氏は、ISO/TC123(平軸受)の国際標準化活動に参画、ISO/TC123/SC6(用語及び共通事項)の国際幹事や日本滑り軸受標準化協議会の会長を務め、標準化活動に貢献したことが認められた。また、大同メタル工業の岡本 裕氏は、ISO/TC123において国際標準の策定に尽力し製品の品質向上に貢献、またISO/TC123/SC6(用語及び共通事項)の国際幹事を務めるなど、わが国が主導的立場で標準化活動を進めることに貢献したことが認められた。

engine提供:大同メタル工業 流体潤滑で使用される滑り軸受は、流体膜圧力により衝撃を吸収するため、荷重変動の大きいエンジン用軸受やコンプレッサ軸受から、ポンプ軸受、タービン軸受など幅広く適用されている。油膜圧力に支持された滑り軸受では、転がり軸受よりも作動が静かで摩擦が低く、振れ回りが少ないなどからHDD(ハードディスクドライブ)のスピンドルモータ軸受などにも使われる。特にエンジン用軸受など自動車用では、わが国滑り軸受メーカーのシェアは圧倒的に高い。

 しかし、滑り軸受産業においてわが国メーカーの市場占有率が高い一方で、滑り軸受に関わるわが国の国際標準化活動は欧米に後れをとっていた。わが国転がり軸受メーカーがISOされた製品をもってグローバル市場に早期に進出し、世界シェアを高めていったのとは対照的である。たとえば標準化で先行するドイツの滑り軸受企業が、自社規格(インハウス規格)をDIN(ドイツ工業規格)化しISO化するといったように、欧米では国際規格を商取引上で有利に利用するといった戦略を進めていた。

日本の国際標準化主動は経営的理解が必要

 滑り軸受のISO国際標準化は、1967年に幹事国ロシアのもとに技術委員会TC123(滑り軸受)が設立、わが国では、日本機械学会の国内組織「ISO/TC 123すべり軸受調査班」(1999年4月に「ISO/TC123平軸受国内委員会」と改称)がそのオブザーバーとして参加してきた。ISO/TC123平軸受国内委員会の主査(委員長)を十数年間務めた染谷常雄氏(東京大学名誉教授)は、WTOのTBT協定が結ばれ、国内規格が非関税障壁とならないようにJISはISO に基づいてつくるべきことなどの国策が示された1995年にJIS原案作成委員会を発足、滑り軸受の損傷に関する規格ISO 7146 を翻訳しJISをつくった。しかしその翻訳作業の際に、お手本とすべきISO規格に市場を押さえているはずのわが国滑り軸受分野での理解と異なる点があることが明らかとなり、ISO規格づくりへの参画が活発化した。2000年3月にオブザーバー的なO メンバーから発言権のあるPメンバーへと資格変更になり、2004年には新たに分科委員会SC6(用語及び共通事項)を設立しその幹事国を引き受け、さらに2008年にはこれまでのTC123の幹事国ロシアに代わり幹事国を引き受けるに至った。今回の表彰は日本の滑り軸受の標準化の遅れを挽回する各位の尽力が評価されたものと言えよう。

 しかし、欧州や米国で標準化活動を長期的経営戦略の中心に据える傾向にあるのに対し、わが国では依然、標準化や規格制定に関する活動の重要性に関する企業経営陣の理解が必ずしも十分ではないと言われる。前述の染谷氏は「標準化活動の本命は、有用な規格をタイムリーにつくり保守すること。TC123 の国際規格によって滑り軸受の利用度・応用範囲を高めたいと考えている。一般に国際標準を制するものは市場を制すると言われるように、ルールの範囲内ではあるが、自社・自国に都合の良い規格を積極的に作り、不都合なものはできるだけ阻止することなどの国際標準化のメリットを示すことができれば、経営者の理解も得られよう」と語っている。

 中国など新興国に牽引されますますグローバル化が進む中で、技術力のあるわが国の滑り軸受を国際規格に提案する国際標準化活動は、グローバルで高品質・高性能な滑り軸受製品を提供する上で重要な役割を果たしている。滑り軸受の国際標準化事業に尽力している各位の今回の工業標準化事業表彰にあらためて敬意を表するとともに、これによってわが国滑り軸受メーカーの経営戦略として標準化活動が据えられるよう期待しつつ、ビジネス戦略上で重要な、また技術の進歩・普及に寄与する有用な規格作りが促進されることを望む。

第119回 ライフラインのさらなる安全信頼性向上を

tugite耐震配水管(提供:東京都水道局) 厚生労働省の発表によると、全国の配水管のうち震度6強相当の揺れに耐える配水管は、3割程度との調査結果が出た。国は2013年までに水道管の耐震化率100%達成を目標としているが、耐震工事実施がまだまだ必要な現状が明らかになった。調査は、川や湖などの水源から浄水施設、配水池、給水地域を結ぶ全国の主要な水道管10万735kmを対象に水道管の材質や地盤の強さごとに調べた結果、震度6強の揺れでも継目が外れない構造とされたのは、全体の30.3%、3万483kmだった。

経年寿命に達するわが国の水道管

suidou提供:厚生労働省 水道管は1970年代に設置されたものが多く、耐用年数40年といわれることから老朽化が進行し、経年寿命に達しているものも少なくないという。こうした配管の機械的強度の低下による破損や、地震による地盤変位に伴う配水管接合部の離脱により、長期間の断水に至るケースは非常に多くなってきている。そのため、厚生労働省では、地震に強い水道を目指したさらなる水道施設の耐震化の必要性から、水道施設・管路の耐震化の促進に向けた水道事業者の取組みを推進している。各水道関係団体と連携の下、2008年4月から2年間実施した「水道施設・管路耐震性改善運動」に続いて本年4月からは、「第2期水道施設・管路耐震性改善運動」を展開している。

meiwaコンクリートカッター(提供:明和製作所) 水道管の耐震工事ではまず、アスファルトやコンクリートの路面をコンクリートカッターという機械で切断する。機械に搭載したOHVエンジンで円盤状のダイヤモンド砥粒ブレードを回し、クーラントとなる水をかけながらカットしていく。その後、地下1mくらいに埋設された水道管が現れるまで、土をミニショベルなどで掘り下げていく。経年菅から新しい耐震配水管にバイパスしながら置き換えていくという流れである。

ライフラインを断ち切られることのない耐震排水管を

 それでは耐震配水管とはどういったものか。厚生労働省健康局の平成18年度「管路の耐震化に関する検討会」では、水道用ゴム輪形硬質塩化ビニル管RRロング継手(RRロング管)が、使用実績・期間ともに十分に耐震性能が検証されているとはいえないと注釈をつけながらも、RRロング管が基幹道路で耐震適合性のある管として採用可能と報告している。耐震適合性があるというのは、水道管を継手が抜けにくい構造である。

taisin耐震配水管(RRロング管、提供:東京都水道局) このRRロング管とは、継手部の受口部に±75㎜の伸縮性能を持つもので、差し口突部とロックリングの引っかかりで、震度6程度の地震動による地盤ひずみを吸収できるという。また、液状化地盤などでの側方流動(地盤永久ひずみ)や地割れ・段差沈下のような地盤破壊が生じる場合には、その接合部にさらに耐震金具を適用することで±1.5%の地盤永久ひずみを吸収できるとしている。

 わが国の水道は普及率が97%を超え、世界に誇る安全な飲料水を供給する、市民生活、社会活動に不可欠なもの。1995年の阪神・淡路大震災では、68の市町村で水道施設の被害が出た。重要なライフラインが不測の事態で断ち切られることのないよう、国と地方自治体には現状の3割という耐震化率を早急に改善するよう取り組んでほしい。

第120回 鉄道車両のさらなるグリーン化に向けて

hayabusa次期東北新幹線はやぶさ(提供:JR東日本) この時期、帰省で新幹線を利用される方も多いと思われる。今回は新幹線の安全神話を支え、さらなるグリーン化をめざす技術を紹介したい。

 本欄「第118回 グローバル競争に打ち勝つ工業標準化の推進を」で取り上げたすべり軸受、特にエンジンベアリングでは環境規制に対応した鉛フリー化が早くから進められ鉛代替が完了しているが、グリーン輸送機器である鉄道車両においても、鉛フリー化の取組みが進められてきている。

すり板に使用される潤滑剤としての鉛

panta提供:東洋電機製作所 鉛はエンジンベアリングにおいて潤滑なじみや異物の埋収性などの機能を果たしてきたが、鉄道でトロリー線としゅう動しながら集電する「すり板」は、約100~1,000Aの電流が流れる状況下で、特に時速300km超の高速で一日に約3,000kmという長距離を走る新幹線では、すり板自身の耐摩耗性と、しゅう動する相手材であるトロリー線への低攻撃性(摩耗低減)が不可欠で、潤滑成分である鉛は代替の難しい材料として重宝されてきた。何しろトロリー線が摩滅して破断したなら、新幹線はあらぬところで即ストップ、多数の乗客を混乱に陥れることとなる。破断に至らなくとも、1.5m単位のトロリー線の一ヵ所でも摩耗が認められれば、即交換しなければならない。交換には、1本あたり200万円もの費用がかかるという。

 すり板から摩耗粉として排出される鉛は線路に撒かれる程度と判断されていたのかどうかは分からないが、これまで騒がれてこなかったのが、近年の環境保全の高まりから風雨などで沿線周辺の環境汚染を招くとして鉛フリー化が避けられなくなったものと見られる。

鉛に代わる固体潤滑システムとは

 しかしながら前述のとおり、鉛は新幹線線の集電系の耐久信頼性を確保する上で、重要な役割を担う潤滑材である。代替となる固体潤滑システムを構築する必要がある。

 新幹線用焼結合金すり板の鉛フリー化では以下の点が考慮された。

  1. すり板の耐摩耗性・耐アーク性を保持するための硬質金属粒子の種類と添加量
  2. 潤滑性を保持するための潤滑成分の種類と添加量
  3. トロリー線への影響を考慮した硬さの上限
  4. 車両集電部品として必要な導電性と機械的強度

 繰り返しになるが、このうち優先されるのは2の潤滑性である。

graph提供:鉄道総合技術研究所 現用材は鉄(Fe)の素地に硬質成分としてチタン(Ti)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)などを、潤滑成分として鉛を用いている。これに対し開発材では、潤滑成分として使われていた鉛を使わない新幹線用焼結合金すり板として、鉄の素地に耐摩耗成分としてCrやクロム・バナジウム(Cr-V)を、潤滑成分として二硫化モリブデン(MoS2)を用いた材料と、耐摩耗成分としてCrを、潤滑成分としてMoS2とボロンナイトライド(BN)、ビスマス(Bi)を用いた材料を開発、定置摩耗試験、現車試験によって鉛含有の現用材と摩耗特性、トロリー線への影響が同程度であることが確認した後、現在では東北・上越・長野・山形・秋田新幹線前線で開発材2種の導入が完了しているという。

 高速で大量輸送を実現する新幹線の安定走行を支えているすり板技術は、耐久信頼性の確保とともに、今や環境保全をも実現している。新幹線利用の際に、さらなるグリーン化を目指している鉄道開発者・技術者の活躍を思い出していただければ幸いである。