第115回 アクティブメンテナンスで現場の生産性・信頼性の向上を

第115回 アクティブメンテナンスで現場の生産性・信頼性の向上を kat 2010年11月22日(月曜日)

メンテナンス・テクノショーのもよう 11月17日~19日、東京・有明の東京ビッグサイトで日本プラントメンテナンス協会らの主催による「メンテナンス・テクノショー」が開催、最新の設備診断・保全技術が多数展示された。

「事後保全」から「予知保全」へ


 わが国では、円高対応などでさらなる生産性向上によるコストダウンに取り組んでいる一方で、設備管理方法として、機械設備が故障してから修理する「事後保全」方式をとっている生産設備の休止損失によって利益を圧迫し、また機械の不具合による製品の品質低下を招いている現場も少なくない。そこで、この展示会では予知保全(PM:predictive maintenance)の概念から、設備の劣化状況や性能状況を診断、その診断状況をもとに保全活動を進める設備診断・保全技術が紹介された。特に、劣化状態を観測し、真に保全の必要な時に保全を施す状態基準(監視)保全(CBM:condition-based maintenance)の概念から、設備の状態を定量的に把握する設備診断技術の出展が多かった。

軸受の予知保全


FFTアナライザーのメリット(提供:小野測器)FFTアナライザーのメリット(提供:小野測器) たとえば、機械故障の多くは軸受の損傷が原因と言われるが、回転機械の軸受(玉軸受、ころ軸受)の外輪に損傷があった場合、ベアリングが回転するときに外輪の損傷にボール(転動体)があたるため衝撃波が発生、この衝撃波により外輪が振動しハウジングの表面を振動させる。振動計、ベアリングチェッカーと呼ばれるものは、このベアリングの異常に伴う振動を振動ピックアップと呼ばれるセンサにより検出して電気信号に変換、振動のレベルをとらえベアリングの状態監視を簡便に行う機器。ベアリングの損傷を事前に検知し回転機械・装置の信頼性を高め運転コストの削減につなげるものだが、さらに異常箇所の特定ではFFT(高速フーリエ変換)アナライザーというシステムが用いられる。回転機械の複雑な振動波形はFFT アナライザーによる周波数分析データによって、どの周波数のレベルにどれほどの変化が生じたか、その周波数がどの部位から発生する周波数と考えられるかが検討でき、それにより異常原因と部位を推定することが可能になる。特に、故障の初期段階や微小な異常の場合、旧来の手法では波形にほとんど変化がないため検出が難しかったが、周波数分析をすることで異常の早い段階で微小な異常の検出もとらえることができる。

潤滑油の予知保全


 また、機械設備では潤滑トラブルが全トラブルの25%以上を占めるといわれ、特に油圧システムの故障では8~9割が油の劣化に起因するといわれるほど、油の汚れ(コンタミ)が機械システムに与える損害は大きい。そこでやはり予知保全の観点から、金属摩耗粉やスラッジ、侵入した粉塵などコンタミによる使用油の劣化の状態を、早期に検知する手法が適用されている。たとえば自動粒子計数器(パーティクルカウンター)によるオンライン測定するシステムでは、稼働する装置の油圧作動油や各種潤滑油の中のパーティクルを、100mL中に分類された粒子サイズごとに、数量により規定された等級で評価するNAS1638やISO4406による清浄度コードなどで清浄度のチェックが行われ、潤滑油の管理がなされている。

 生産現場でのロスをなくし経済効果を高めるにはこうした設備診断機器の導入促進が引き続き望まれるが、そうした軸受管理や潤滑管理に携わる技術者の育成も重要である。

メンテナンスには設備だけでなく「人」の育成も必要


 技術のグローバル化を推進するため、診断技術の分野でもISO18436-2(機械状態監視診断技術者(振動)の認証に関する規定)が2003年に発行された。機械の共通技術である設備の状態監視、診断、保守の分野ではすでにグローバル化が進み、多くの企業が国際的に事業を展開しているため、グローバル化された企業においては、本資格を有している技術者がいることが必要となる。日本機械学会では2004年10月からこのISO18436-2に準拠した「機械状態監視診断技術者(振動)」として、機械振動の測定・解析を行う技術者の認証を行っている。また2009年10月からは、ISO18436-4に準拠した「機械状態監視診断技術者(トライボロジー)」としての資格認証を開始、この資格認証はトライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑の科学技術)の専門学会である日本トライボロジー学会(JAST)との共同認証になる。この認証により、潤滑技術や潤滑管理だけでなく積極的にメンテナンス全般に関わる幅広い知識を有する技術者を訓練・育成することが可能となるという。製造業にとっては、スペシャリストとしての資格保有者がメンテナンスを担当することで技術的な保障と責任体制が確立されるため、資格制度を取り込んだ技術者を擁する海外企業との競争でも、国際的な技術レベルの評価を受けることができる。資格保有者自身にとってもステータス、社会的信頼を得ることにつながり、専門技術者として可能な仕事の範囲が広がることが期待されている。

 製品を製造し直接的な価値を創造する生産設備に対して、設備診断機器は生産に直結しない設備として導入が後回しにされ、依然として事後保全に陥っている現場も少なくないという。社会的ステータスの高い機械状態監視診断技術者が生産現場で活躍していくことで、予知保全技術・機器による生産性・信頼性を高めるアクティブメンテナンスの思想・体制が生産現場に根付いていくことに期待したい。