第134回 「人とくるまのテクノロジー展2011」が示した自動車技術の威信

第134回 「人とくるまのテクノロジー展2011」が示した自動車技術の威信 コダマ 2011年5月23日(月曜日)

シボレー・ボルトシボレー・ボルト 自動車技術会は5月18日~20日、横浜市西区のパシフィコ横浜で「2011年春季大会」を開催、「学術講演会」では90セッション・432件の講演発表が行われ、第20回目を迎えた自動車技術展・EV展「人とくるまのテクノロジー展2011」では、400社・860小間で製品・技術の展示が行われた。

 今回は国際会議「EV TeC’11」の併催もあり、特別企画展示としては「車両電動化が拓く新しいくるま社会~くるまが変わる/人・社会が変わる」のテーマを掲げ、車両展示をはじめ要素技術・インフラ・将来像など、車両電動化による未来像が示された。

 車両展示としてはGMの「シボレー・ボルト」に注目が集まった。ボルトは基本的には家庭用電源でバッテリーを充電してEVとして走るが、EVの航続距離の短さを補うためにエンジンで発電しながらモータを駆動する「レンジエクステンダー(航続距離延長装置)」を搭載した、「レンジエクステンダー付きEV」と称される。機械損失低減や常用域での効率向上を目的として1.4L直噴ターボ付きを使用、1,000~2,000rpmの効率の良い回転域に留めて発電するという。

NTNブース 要素技術ではたとえばNTNが、EV向け商品群として、(1)乗用車の2 輪だけに適用しても小型乗用車と同等の駆動性能を実現する「インホイールモータシステム」(2)駆動モータ、減速機、薄型ハブベアリング、インバータからなる小型モジュールをコミュータの小径ホイール内に格納、高度な車両制御が可能な「電動コミュータ用インホイールモータシステム」搭載試験車両(3)2 段変速機と駆動モータ、インバータをシステム化したEVパワートレイン「ワンモータEV 駆動システム」、(4)ばね下重量の増加がなく、左右輪の駆動力独立制御により駆動性能が向上する「オンボード駆動システム」、(5)転舵操作用のメインモータ、トー角調整用のサブモータを装備、メインモータ故障時には0.1 秒以内にサブモータに切り替わり、安全を確保するステアバイワイヤ操舵システム、(6)「遊星ローラねじ機構」を採用し、小型化と耐久性向上を達成した「電動ブレーキアクチュエータシステム」を展示した。

NSKブース 日本精工ではEVやハイブリッド(HEV)における駆動モータや発電機構の小型化による出力低下を補うため、現行18,000rpmの回転数を1.5倍となる30,000rpm以上に高めたモータおよび発電機構用玉軸受を展示した。軸受の潤滑油入口に油流を制御するプレートを設置したことで、超高速回転時の大きな遠心力が発生する環境下でも、潤滑が枯渇しやすい内輪側に潤滑油を確実に供給、摩擦による発熱を低減した。また、軸受内部の溝寸法や玉径などを最適化することで超高速回転下でも摩擦と発熱を抑制、焼付きを防止したほか、玉および内輪と保持器間のすき間を調整することで保持器の振動を抑制し、接触部の摩耗を低減している。

 また、シムドライブ社の本年からの電気自動車先行開発車事業 第2号プロジェクトに参加している日本パーカライジングでは、EVに貢献する表面改質技術として、軽量化を目指した軽金属の表面硬化処理であるプラズマセラミックコート「PALNIP」や、小型化に寄与する薄膜化、航続距離延長の省エネ化につながる低フリクションの化成処理+固体潤滑「パルホス」、安全・環境への寄与として銅表面の径時安定化を図る電磁波シールド「導電ペースト」などを提案した。

 こうしたEV向けの製品技術が多数出品される一方で、内燃機関のさらなる燃費向上に寄与する技術も展示された。

 たとえば日本精工では、「冷間成形ハブユニット軸受」を出展した。ハブユニット軸受のハブシャフトを従来の熱間鍛造から冷間成形化する新工法により、軸受製造時の電気エネルギーと鋼材使用量を削減するとともに軸受を従来比5%軽量化、燃費向上を図る。ダイハツ工業2010年度技術開発賞を受賞したという。

パーカーグループブース パーカーグループブースでは、日本カニゼンが析出時の高硬度と高温環境下での高硬度を両立させ、ピストンなどの高温環境下での摺動特性を強化するNi-Co-W-P合金の無電解めっき皮膜「カニハステ」を、パーカー熱処理工業がリニア・イオン・ソースとUBMスパッタ、FCVAソースの適切な組み合わせで基材との密着性が高い多様なDLC膜を成膜できる「ハイブリッドDLCコーティング」を提示した。

 そのほか、先のEV第2号プロジェクトに参加するポリプラスチックスでは内燃機関でもEVでも省エネに貢献する軽量化と剛性を両立するポリアセタール樹脂「ジュラコン」、PPS樹脂「フォートロン」などのエンジニアリングプラスチックス技術を展示した。EVでも重要視されるこのエンジニアリングプラスチックス材料ではデュポンやダイセル・エボニック、DSMエンジニアリングプラスチックス、ビクトレックス・ジャパンなど多数の出展があった。

 東日本大震災の影響で開催が危ぶまれた本展だったが、「このような時期にこそ自動車メーカーをはじめ自動車関連企業が結束し、世界でトップレベルにある電動化技術をはじめとする自動車関連の最新技術を国内外に向けて発信し続けることが産業界の復興に向けて重要である」との開催決定理由のとおり、内燃機関の省燃費技術やHEV、EVの省エネ技術、安全技術など、わが国自動車技術の威信を示す展示会となったと思う。自動車産業の本格的な回復には今しばらく時間を要するが、本展で展示された多数の製品技術は次世代につながる研究開発の灯火が煌々と点っていることを示していた。