第58回 世界トライボロジー会議が京都で開催、省エネ技術を次世代につなぐ

robotWTC Ⅳ附設展示会のようす 前にも述べたが、摩擦・摩耗・潤滑の科学技術を「トライボロジー」と呼ぶ。1966年にピーター・ジョスト氏が英国の製鉄所で潤滑管理を徹底させることでGNPの1%超を節減できるとの報告を行い誕生した科学技術で、エンジンの摩擦を減らすことで自動車の燃費を向上したり、逆にブレーキの摩擦を高くコントロールすることで安全性を確保するのも、生産機械の潤滑を管理することで突発の故障や事故による効率の低下を防ぐのも、このトライボロジーの技術である。

 そのトライボロジー分野最大のイベントである世界トライボロジー会議(WTC Ⅳ)が9月6日~11日、京都の国立京都国際会館で開催、海外50ヵ国1地域から、約1500人が参加した。WTCは、国際トライボロジー評議会(International Tribology Council)が統括し、4年ごとに開かれるトライボロジー分野最大のイベント。1997年のロンドン、2001年のウイーン、2005年のワシントンD.C.に続く第4回目で、日本ではもちろん、アジアでも初の開催となる。

 今回の会議では、シンポジウムとして、持続可能な発展を実現するトライボロジー(エコ・トライボロジー)、トライボロジーの大規模数値シミュレーション、人と調和するトライボロジー、アジア太平洋地域の工業におけるトライボロジー的課題の四つのメインテーマで、ミニシンポジウムとして、次世代エネルギーのための水素のトライボロジー、次世代に向けた潤滑剤の先進技術、トライボロジーのためのダイヤモンドライクカーボン(DLC)、合成潤滑油の使用によるエネルギー節減、超マイルド摩耗とトライボケミカル反応、トライボロジーの歴史、フルードパワーのトライボロジー的側面、自動車省燃費のためのトライボロジー、情報記録装置のためのトライボロジー、潤滑グリースの革新的研究、摩擦の科学、新分野におけるトライボロジーの課題の12のテーマで、テクニカルセッションとして、トライボロジーの基礎、表面工学、加工および機械要素、潤滑および潤滑剤・添加剤、マイクロ-、ナノ-、分子トライボロジー、トライボシステムの6のテーマで口頭発表があり、ポスターセッションと合わせて922件の発表がなされた。

 また附設展示会として「世界の省エネ・環境技術展」が開催、自動車・機械や自動車部品・機械要素(ベアリング、シールなど)、潤滑剤・添加剤、試験・分析機器、研究・出版などが92小間の規模で出展した。一般公開とし、近郊の小・中学生を招き、摩擦体験などのトライボロジー教室といったイベントも設け、次代を担う若い世代のトライボロジーへの関心を深める工夫も見られた。

 7日に行われた開会式典では、まず開会の挨拶に立った木村好次・WTC Ⅳ実行委員会委員長(東京大学・香川大学名誉教授)が「1997年のロンドン、2001年のウイーン、2005年のワシントンD.C.に続いて4回目の開催となるトライボロジー分野で世界最大のイベントとなるWTCの開会式を、秋篠宮殿下ご臨席のもと執り行えることを大変喜ばしく思う。環境問題という世界的危機に対し各国の協調が求められる中、トライボロジーには、機械の効率化によるエネルギーの節減を図る技術革新が求められている。自動車からIT、重工業などの技術の発展とともに、克服すべきトライボロジーの課題は次々に生まれていく。本会議では、21世紀のさらなる技術革新に向けたトライボロジーの適用など、国を越えて情報を交換していただき、トライボロジーの国際協調を進める契機としてほしい」と語った。

 続いて日本トライボロジー学会会長の町田尚氏(日本精工顧問)が「トライボロジーは機械要素の効率化を図りエネルギーを節減することにより世界的課題であるCO2削減に貢献する技術。トライボロジーは、持続可能な社会のためのキーテクノロジー。今回発表される922件という研究を効率よく利用し、持続可能な社会とリソースの実現、地球環境保全に役立ててほしい、またこの機会に、次代を担う若者と一般の方々にトライボロジーの重要性を理解していただくとともに、各国のトライボロジー学会や関連団体との協調により、持続可能な社会とエネルギー節減によるCO2削減につなげていきたい」と述べた。

トライボロジーの産みの親、ジョスト氏 さらに共同主催者となる日本学術会議会長の金沢一郎氏の挨拶に続き、国際トライボロジー評議会プレジデントでトライボロジーの産みの親のピーター・ジョスト氏が「トライボロジーは日本においても自動車からITなどのナノテクノロジーに至るまで高性能化、産業の発展、利益の創出に貢献してきたが、これからはエネルギー節減による環境改善やクオリティー・オブ・ライフなど人と環境にやさしいグリーン・トライボロジーはトライボロジストの責務」と強調した。

 来賓の挨拶に立った秋篠宮殿下は「40以上の国・地域が参加する世界トライボロジー会議の開会式に出席できて、また第4回WTCがアジア・パシフィック地域で初めて日本をホスト国に開催されることをうれしく思う。トライボロジーは相対運動する表面に関する摩擦・摩耗・潤滑の基礎的な研究であると認識している。トライボロジーは自動車、コンピュータ、橋や人工関節に至るまでの最先端分野の基盤技術であり、持続可能な社会と人類、エネルギーとリソースの節減を通じ環境保全を図るキーテクノロジーと思う。機械や材料、物理、化学、医療などの幅広い分野における、研究者とエンジニアの協調と努力の結集により、その適用範囲は広がり、またその成果は様々な分野の新技術開発へと適用されている。今回は最新の研究発表に加えて、小学生、中学生といった次世代を担う人々に向けた啓蒙的な教室も企画されているという。京都議定書のかわされたこの場所で持続可能な社会に貢献するトライボロジーについて活発な議論が行われるとともに、次世代を担う人々や参加者全員がこのトライボロジーという省エネ・省資源の科学・技術に関心をもっていただき、継続的な地球環境保全に関わっていくことに期待している」と賜った。

 身近なところではベアリングによる摩擦低減でエアコンの電力消費量を3割抑えているといったように、トライボロジーは機械・機械部品の摩擦面の設計、コーティングなど摩擦面材料や潤滑剤の開発で摩擦をコントロールし摩耗を軽減することで、エネルギーと資源の節減、環境保全に貢献し、家電から自動車・鉄道車両・航空機、産業機械、加工システム、精密情報機器、宇宙機器、生体関連に至る広範な分野で適用され、その経済効果は国内で年額8.6兆円に上るとの試算もある。WTC Ⅳ開催を機に、トライボロジーというコンセプトがより産業界に浸透し、省エネ・省資源のシステムが設計・開発されていくことに期待したい。