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 本作は、アルフレッド・ヒッチコック監督がカット割りなし、全編1ショットで撮影した実験作。それぞれIQ200超という二人の青年が明確な動機もなしに殺人をはたらいたレオポルト&ローブ事件が題材とされている。ここの二人も、ニーチェの超人哲学にかぶれ、自分たちは法や道徳を超越した存在だと感じている。

 白昼。ニューヨークの高層アパートの一室で、「超人」を標榜するブランドン(ジョン・ドール)とフィリップ(ファーリー・グレンジャー)は、大学の同窓生デビッドを「凡人」としてロープで絞殺する。自分たちが人より優れていることを証明するためだけに、である。デビッドの死体は、棺のように長いチェスト(日本の長持ちみたいなやつである)の中にしまう。大胆にもブランドンは、死体をそのままに、ピアノの演奏旅行に出るというフィリップの送別会を口実に、デビッドの親と婚約者、友人関係を招いてパーティーを開く。しかも死体を隠したチェストの上に燭台を置き、料理や酒を並べ、ゲストに振る舞うのである。ゲストの一人、大学時代の舎監だったルパート教授(ジェームズ・スチュアート)は、主催者二人の行動に疑惑を抱いていく。

 劇中、見ている側は、パーティーの楽しい会話の中にも、チェストの中で静かに横たわる死体を意識しないではいられない。長持ちの中に人が横たわっているといえば、江戸川乱歩作『お勢登場』であろうか。妻・お勢が不倫相手のもとに出かけている間、子供たちとかくれんぼして遊んでいた夫・格太郎は、隠れた長持ちの留め具が締まってしまい、完全に閉じ込められてしまう。帰宅したお勢が、長持ちの中で格太郎が抗う音がするのに気づき、いったんは夫を助けようと長持ちの留め具を外し上蓋をわずかに持ち上げるのだが、次の瞬間には心変わりして、蓋を下ろし鍵をかけてしまう…。

 ここで上蓋が開くのは、ご存知のとおり、留め具のある側の反対側になる上下の蓋を蝶番(ヒンジ)でつないでいるからである。中心の軸で回転運動があり、蓋の開け閉めが可能になる。本作のチェストや長持ちなど高級家具では、静かに開け閉めできるようにヒンジの部分は最適なすき間が保たれ、潤滑性もよい表面処理などがなされているのであろう。最近であればフッ素樹脂コーティングなどがなされているものもある。いずれにしても、お化け屋敷のドラキュラの棺のように開くときにギーッという不快な音は出ない。先日、ニンテンドーDSのヒンジ部分が壊れて放っておいたら、ディスプレイが表示しなくなってしまった。ヒンジ部分に配線があって断線してしまったらしい。このヒンジも音もなく開け閉めでき、音もなく壊れていたが、無給油の樹脂部品が使われていた。もちろん樹脂の強度の問題というよりは使用上の問題で、子供が手荒に扱ったせいだろう。

 話が脇に逸れまくったが、本作のチェストのように、こんなに静かで存在感のあるアイテムもめずらしい。殺人に使われたロープの行方からももちろん目が離せない。