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第62回『ピンク・パンサー2』

 数年前にスティーブ・マーティンがクルーゾー警部を演じた同名のリメイク映画があるが、今回紹介するのは1975年の作品となる、ブレイク・エドワーズ監督、ピーター・セラーズ主演のシリーズの第3作である。

 中東の国・ルガシュの博物館から「ピンク・パンサー」の異名を持つ世界屈指のピンクダイヤが盗まれた。ルガシュの首脳はかつて盗難にあったピンク・パンサーを取り戻した実績のあるパリ警察のジャック・クルーゾー警部(ピーター・セラーズ)に依頼、クルーゾーはルガシュへと旅立つ。現場検証の後、かつての宿敵・怪盗ファントムことチャールズ・リットン卿(クリストファー・プラマー)の仕業と確信したクルーゾーは、卿の行方を追い南フランスへと向かうが…。

 冒頭で怪盗ファントムらしき人物が、博物館からピンク・パンサーを盗み出すシーン。ピンク・パンサーの周囲には、無数のセンサーが張り巡らされている。ひとたびセンサーに引っかかれば、すべてのシャッターが自動的に閉ざされる仕組みで、逃げ場はない。怪盗はスプレーでセンサーの位置を確かめると、ボウガンのようなものを使って、先端に楔のついたロープをセンサーより低い位置、数m先のピンク・パンサーの展示台近くの壁に打ち込み、ロープを張り渡す。センサーを避けるように、ロープを伝って背中で進むというわけである。このとき、オイルを床に撒いて、その上にシートを置き、シートの上に寝転ぶ。これで潤滑をよくして、ロープをつかみながら、スルスルッと背中で宝石のところまで進む。そこでマジック・ハンドを2個使って、宝石をキャッチするのである。さながら若田宇宙飛行士が、ロボット・アームで「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームと船外パレットを国際宇宙ステーション(ISS)に取り付けたかのような精緻な作業である。

 こんな作業はとてもできそうもない、人並みはずれて不器用で、極端に人を信じて疑わないお人よしの本家クルーゾー警部。天然のズッコケぶりで行くところ破壊行為を繰り返しつつも、なぜか憎めないキャラクターは天下一品で、抜き足、差し足、忍び足みたいなヘンリー・マンシーニのおなじみのテーマ曲も手伝って、やみつきになるシリーズである。