第78回 HDD需要拡大で求められる機械部品・材料開発

HGST提供:日立グローバルストレージテクノロジーズ HDD(ハードディスク駆動装置)の需要が拡大している。パソコン向けのほか、カーナビゲーションシステムの車載器、HDDレコーダーなど向けなどが増えているうえ、ウインドウズ7の発売を機に、米国や中国などで低価格パソコンの発売が急拡大した。ノートパソコンだけでなく、当初SSD(メモリー媒体の記録装置:ソリッド・ステート・ドライブ)の搭載が進むと見られていたネットブックでも記憶容量あたりのコスト優位性からHDDが主流を占めるなど、その世界需要は2010年度で前年度比11%増の6億2,000万台と見込まれている。

 HDDの機構系としては、記録媒体であるディスク、それを回転させるスピンドルモータ、記録再生を行う磁気ヘッド、それを支えるサスペンション、ヘッドの位置決めを行うボイスコイルモータなどがあり、これらHDD部品では日本メーカーのシェアが高い。スピンドルモータでは世界シェア7割強の日本電産やミネベアなど日本勢が全量供給している。ディスク(HD)は世界シェア25%の昭和電工や富士電機デバイステクノロジー、HOYAが、ヘッドは世界シェア3割強のTDKが、サスペンションは世界シェア4割のニッパツが手がけるといった具合だ。HDDの需要拡大はこれら部品を手がけるメーカーの生産をフル稼働させているが、さらにそれらを構成する部品・材料・表面改質の需要も押し上げる。

nidek流体軸受スピンドルモータ(提供:日本電産) たとえばサーバ向けで15,000回転という高速スピンドルモータでは、トラック密度化が進む中、かつての玉軸受に見られる回転非同期振れがない流体軸受が使われている。流体軸受のスリーブでは、動圧を発生させるヘリングボーン溝の加工技術や作動オイルの技術が今なお開発・改良されている。


minebeaピボットアッセンブリー(提供:ミネベア) また磁気ヘッドを取り付けたアクチュエーターの支点部分に使用されるピボットアッセンブリーはミネベアが65%の世界シェアを持ち、個々に組み込まれるミニチュア玉軸受の世界の生産量を2割引き上げ2億4,000万個体制にすることを決めたが、ここでは攪拌抵抗が少ないグリース技術や高速回転での耐久性を高めるボールや保持器の技術が必要とされる。

 記録容量を高める決め手はヘッドとディスクの間のスペーシングを低減することだが、現在10nmを切るすき間でヘッドとディスクのクラッシュによる記録層の消失を避けるため、ヘッドおよびディスクに低摩擦で耐摩耗性の高いDLC(ダイヤモンドライクカーボン)などのカーボン系保護膜がコーティングされ、ディスク保護膜の上には1分子層の潤滑油膜が形成されている。現在4~3nmの保護膜についても1nm薄くするだけで記録容量増大に利いてくることから、富士通研究所とフェローテックでは2nmの保護膜を形成するFCA(フィルタード・カソーディック・アーク、真空中でのアーク放電によりプラズマ化したカーボン粒子を表面に堆積させる薄膜形成法)成膜技術の研究開発を進めている。

 もちろんこうした薄膜を形成するだけにとどまらない。この薄膜が必要とされる保護膜としての機械的特性を備えているかを評価する必要があり、ナノインデンターなどの評価機器も需要が高まってきている。さらにこうしたHDD記録密度の向上に伴いその信頼性に対して加工に伴う残留成分や潤滑油膜などからの揮発成分といったマイクロコンタミネーションをコントロールすることが重要になってきており、HDD技術をリードするわが国から先ごろ、イオン性のマイクロコンタミネーションを測定・評価する改訂案が提起され10年ぶりに新スタンダード(イオンコンタミ測定)が成立した。これにより関連する計測システムの需要も生まれている。

 SSDとの競争でコスト低減の要求が厳しいHDDでは、付加価値となる記録密度向上が常に必要不可欠で、それには上述のような様々な部品・材料技術の開発が求められている。新興国向けではさらなるコスト低減をふまえた独自開発も必要になるだろうが、わが国の独創的な部品・材料技術の集積により常にHDDの市場創出・拡大を推進していくことを期待してやまない。