第104回 海外生産シフトで求められる表面改質・加工技術

bank日本銀行 経済産業省では先ごろ、円高が企業活動、収益などに及ぼす影響について緊急ヒアリングを実施、結果をとりまとめた。対米ドルが1ドル=85.92円~84.55円、対ユーロが1ユーロ=111.16円~106.74円だった8月11日~8月24日の期間に、足下の円高の影響や、円高が継続した場合の影響、中小企業・下請企業への影響などについて、輸出製造企業を中心とした102社の企業を対象としてヒアリングを行ったほか、各経済産業局を通じ下請企業を含む中小企業98社から現場の「生の声」を聴取、概ね以下の産業界の意向が浮き彫りになった。

en輸出型企業、たとえばトヨタ自動車では1円円高に振れると350億円の利益が飛ぶと言われる(1)対ドルの円高で製造企業の約6割強が、対ユーロでは約5割強が「減益」。円高が半年継続すれば、対ドルの円高で「深刻な減益」は1割から3割へと増え、収益の悪化はさらに深刻化。ウォン安により、特に新興国市場で日本企業は韓国企業との競争に苦戦する、と円高が企業の収益を悪化させている状況を示した。

(2)1ドル85円水準の円高が継続した場合、中小企業の約7割、下請中小企業の8割強が「減益」と回答。製造企業のうち4割が「生産工場や開発拠点等を海外に移転」、6割が「海外での生産比率を拡大」と回答。下請企業を中心に、取引先のコストダウン要請、海外企業に奪われ受注が取れなくなる恐れ、取引先の海外移転の影響を懸念する声が多くあり、1ドル85円の円高が継続した場合、国内産業の空洞化がさらに加速するおそれがあるとしている。

 自動車など製造業ではすでに為替変動に左右されにくい海外生産へのシフトを進めているが、成長市場である新興国での円高による価格競争力の低下から、企業の海外生産拡大への意向が強まってきているようだ。

 現地生産でコストメリットを出すには材料・部品の現地調達率の拡大が不可欠だが、特に中国やインドなど新興国で安定した品質の材料を確保するのは難しいと、某自動車メーカーの関係者は言う。

 たとえば、多結晶体である鋼の疲労特性は結晶粒の微細化によって向上するが、この材料の微細構造の制御にばらつきがあるらしく、結晶粒の分散状態が悪く浸炭処理後に結晶粒が粗大化、形状精度のほか製品寿命の低下につながることもあるという。日本同様の仕様の材料が得られない状況に対し、機能に影響しない範囲で仕様を変更する現地リファイン材や現地のスタンダード材料を使おうとする現地調達の考え方がある。いずれにしても素材性能が確保できない状況で信頼性の高い部品としての性能を向上させるには、熱処理を含む表面改質技術や加工技術で不足する部分をカバーする必要があるとメーカーは考える。

lmイメージ図:ガイドブロックの外側の加工に比べ、内側のボール循環部の加工は製品性能を決める難しさがある(提供:THK) 新興国ではしかし、この加工技術でも安定した品質を得るのが難しいという。直動案内製品の関係者によれば、海外生産にあたっては先述の状況から耐久性や摺動性能に関わる材料については依然として日本から材料を供給した上で、ガイドブロックの外形の加工などは現地のメーカーに委託するものの、内側のボール転動面の加工は日本で行うとのことだ。ボールがなめらかに転がるための表面粗さの確保や転動面の耐久性に関わるダメージのない加工が現地ではまだ難しいようだ。

 こうした材料や加工などの技術的な問題が多い中で海外生産を拡大しなければならない状況を止めるよう、円高阻止に向けた政府、日銀の方策に期待したいが、長期的にはやはり海外生産シフトは進む傾向にある。近年、グローバル生産の進展を象徴するように日本車のリコール問題が多発しているが、材料の性能を高めるリファイン技術とともに、それを補い信頼性の高い部品を作る表面改質や加工技術、耐久信頼性・安全性を裏付ける試験評価技術を含めた現地調達システムの確立が急がれるところだ。