第120回 鉄道車両のさらなるグリーン化に向けて

hayabusa次期東北新幹線はやぶさ(提供:JR東日本) この時期、帰省で新幹線を利用される方も多いと思われる。今回は新幹線の安全神話を支え、さらなるグリーン化をめざす技術を紹介したい。

 本欄「第118回 グローバル競争に打ち勝つ工業標準化の推進を」で取り上げたすべり軸受、特にエンジンベアリングでは環境規制に対応した鉛フリー化が早くから進められ鉛代替が完了しているが、グリーン輸送機器である鉄道車両においても、鉛フリー化の取組みが進められてきている。

すり板に使用される潤滑剤としての鉛

panta提供:東洋電機製作所 鉛はエンジンベアリングにおいて潤滑なじみや異物の埋収性などの機能を果たしてきたが、鉄道でトロリー線としゅう動しながら集電する「すり板」は、約100~1,000Aの電流が流れる状況下で、特に時速300km超の高速で一日に約3,000kmという長距離を走る新幹線では、すり板自身の耐摩耗性と、しゅう動する相手材であるトロリー線への低攻撃性(摩耗低減)が不可欠で、潤滑成分である鉛は代替の難しい材料として重宝されてきた。何しろトロリー線が摩滅して破断したなら、新幹線はあらぬところで即ストップ、多数の乗客を混乱に陥れることとなる。破断に至らなくとも、1.5m単位のトロリー線の一ヵ所でも摩耗が認められれば、即交換しなければならない。交換には、1本あたり200万円もの費用がかかるという。

 すり板から摩耗粉として排出される鉛は線路に撒かれる程度と判断されていたのかどうかは分からないが、これまで騒がれてこなかったのが、近年の環境保全の高まりから風雨などで沿線周辺の環境汚染を招くとして鉛フリー化が避けられなくなったものと見られる。

鉛に代わる固体潤滑システムとは

 しかしながら前述のとおり、鉛は新幹線線の集電系の耐久信頼性を確保する上で、重要な役割を担う潤滑材である。代替となる固体潤滑システムを構築する必要がある。

 新幹線用焼結合金すり板の鉛フリー化では以下の点が考慮された。

  1. すり板の耐摩耗性・耐アーク性を保持するための硬質金属粒子の種類と添加量
  2. 潤滑性を保持するための潤滑成分の種類と添加量
  3. トロリー線への影響を考慮した硬さの上限
  4. 車両集電部品として必要な導電性と機械的強度

 繰り返しになるが、このうち優先されるのは2の潤滑性である。

graph提供:鉄道総合技術研究所 現用材は鉄(Fe)の素地に硬質成分としてチタン(Ti)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)などを、潤滑成分として鉛を用いている。これに対し開発材では、潤滑成分として使われていた鉛を使わない新幹線用焼結合金すり板として、鉄の素地に耐摩耗成分としてCrやクロム・バナジウム(Cr-V)を、潤滑成分として二硫化モリブデン(MoS2)を用いた材料と、耐摩耗成分としてCrを、潤滑成分としてMoS2とボロンナイトライド(BN)、ビスマス(Bi)を用いた材料を開発、定置摩耗試験、現車試験によって鉛含有の現用材と摩耗特性、トロリー線への影響が同程度であることが確認した後、現在では東北・上越・長野・山形・秋田新幹線前線で開発材2種の導入が完了しているという。

 高速で大量輸送を実現する新幹線の安定走行を支えているすり板技術は、耐久信頼性の確保とともに、今や環境保全をも実現している。新幹線利用の際に、さらなるグリーン化を目指している鉄道開発者・技術者の活躍を思い出していただければ幸いである。