第149回 海洋汚染を防ぐ密封技術で、北極圏油田の開発促進を!

北極圏における未発見石油資源量図北極圏における未発見石油資源量図 デンマーク領グリーンランド沖の海底油田の開発に向けて、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(旧・石油開発公団)や国際石油開発帝石、出光興産、住友商事などが出資・設立した「グリーンランド石油開発」が入札に参加する。グリーンランド沖合に埋蔵されている石油は100億バレル以上と推定されるほか、北極圏に埋蔵されている石油は900億バレルに及ぶという(米国地質調査所推定)。地球温暖化に伴う海水の減少で新航路が生まれていることもあって、北極圏油田を巡る石油獲得競争が活発化してきている。

 さて、海底油田の開発にあたっては、2010年に起こったBP社の掘削機爆発によるメキシコ湾原油流出事故などはもってのほかで、開発のために航路を行き来する船舶による汚染さえ、非常に厳しく取り締まられている。特に問題視されているのが、プロペラ軸が船内から船外に貫通する船尾管という部位での油漏れである。
船尾管の軸系装置の構造船尾管の軸系装置の構造
 船尾管は、プロペラ軸を支える船尾管軸受と、軸受を潤滑する流体を密封する船尾管シールから構成される。タンカーやコンテナ船などの外航の中大型商船にはホワイトメタル軸受が使われ、油で潤滑されている。この油を密封船外への油漏れ防止の機能を受け持つ。しかし船では嵐や振動などの外乱が大きいため、完全に油を密封するのが難しく、船尾管からの油漏れが大きな環境問題となってきているのである。

 大型タンカーの座礁などによる大規模な油流出事故をきっかけに、1983年にIMO(国際海事機構)の海洋汚染防止条約が発効、この条約を受けて各国で油漏れに対する規制が設けられている。米国では2009年に環境保護庁のVGP法が発効、船尾管などすべての推進装置について、シールの保守の義務付け、生分解性の潤滑油の使用を推奨している。

 問題の北極海域では、資源開発の本格化を受けて、DNV(ノルウェー船級協会)が極地船規則で、船尾管と可変ピッチプロペラについて生分解性潤滑油の使用を義務付けている。

 生分解性潤滑油としてはベースオイルにエステル系、ポリグリコール系を使ったものの大別して2種類がある。いずれの生分解性潤滑油もシール材質のフッ素ゴム(FKM)を劣化させ密封機能を低下させるおそれがある。

 ポリグリコール系潤滑油はFKMを膨潤させるため、FKMよりも耐薬品性の優れた四フッ化エチレン-プロピレン系フッ素ゴム(FEPM)などがポリグリコール系油対応の船尾管シール材として開発されている。

 また、エステル系油はFKMの主材は膨潤させないが、一部の配合剤との相性が良くないため、配合剤の工夫がなされている。

 上述の通り船尾管シールでは油の漏えいを防止するだけでなく、海水が潤滑油に侵入することによる焼付きなど軸受損傷を防ぐことが要求される。これに対し、KEMEL社では、無公害タイプのエアシールを開発、中・大型商船に採用されている。エアシールでは、船内からシールリング側に空気を供給して2本の海水側シールを背面から押し広げ、空気を海水側に吹き出させる。これにより船の喫水の変化を探知し、それに応じた適切な圧力を各部に付加することで、船尾管に海水が浸入するのを防ぐとともに、各シールリングにかかる負荷も小さくしている。また、空気室から供給された空気のうち少量をドレンタンクに戻すことにより、万が一空気室に潤滑油が漏れ出た場合でも、潤滑油をドレンタンクに回収できるようにしている。
船尾管シール(無公害エアシール)の構造船尾管シール(無公害エアシール)の構造
 海洋汚染防止では生分解性潤滑油を使用し、対応する船尾管シールを組み入れたシステムのほか、水潤滑での取組みも進められているという。そこでは、水という潤滑油よりも低粘度の流体を密封するシーリングや水潤滑下で焼付きなどの損傷を引き起こさない軸受の技術開発も求められている。省エネで生態系・環境にやさしい海底油田開発を推進する上では、航路を行く船舶から石油掘削機までの密封技術の改善・向上がますます求められている。