第160回 スペースデブリ除去衛星で求められる材料・表面改質技術

概念図提供:EPFL スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のチームが、2015~2016年をめどに、ロケットや人工衛星の破片など地球の周りを漂う宇宙塵(スペースデブリ)の回収実験に乗り出す。

 地球を周回する人工衛星は、運用を終え、燃料が枯渇し速度が低下するとともに、地上に落ちてくる。地球の周りには現在、10cm以上のスペースデブリが約1万5000個も漂っているとされ、地上に落下する部品は年に400個に及ぶ。その多くは大気圏への再突入で焼失するが、宇宙空間に漂うデブリ同士が衝突し、さらに小さなデブリを増やす自己増殖が始まっている。高度600㎞前後にあるスペースデブリは、時速2万8000㎞で周回しているため、国際宇宙ステーション(ISS)などへのニアミスも起きている。これは東京-大阪間を1分間で移動するのに等しい速さで、一方、破局的衝突に必要なエネルギーを示す平均衝突強度は、アメリカ航空宇宙局(NASA)の一連の衝突実験から、1gあたり40Jという値が得られている。太陽電池パネルを破壊させるのに十分なインパクトを持つ。

 これに対し、EPFLでは2015~2016年をめどに、UFOキャチャーのように4指のロボットアクチュエータでスペースデブリをつかむ回収装置を備えた人工衛星を打ち上げ、高度630~750㎞にある直径10㎝四方のデブリを捕獲、回収する計画を進めている。アクチュエータ駆動用には、真空用の超小型モータを開発した。アクチュエータで把持したデブリを大気圏まで運び落として焼却するが、デブリだけ切り離して衛星は再利用するか、衛星ごと燃やすかは今後、検討していくとしている。

 一方、日本でもすでに、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で「お掃除ロボット衛星」を用いて、スペースデブリを大気圏まで運ぶ研究を進めている。

 大型デブリについては、除去衛星を打ち上げて、ロボットアームや伸展式のブームなどでデブリを捕獲して、導電性テザーなどで減速させ、大気圏に再突入させて燃やす方法を検討しているほか、除去衛星よりも大きいデブリについては、除去衛星から投網のような物を投げて捕獲するというアイデアもある。
おそうじロボット衛星のイメージおそうじロボット衛星のイメージ。ターゲットとなるデブリにアームを延ばしてしがみついて、デザーをのばし、大気圏に一緒に突入する。(提供:JAXA)
 このうち、現在活発に開発が進んでいるのが、導電性テザーという長い紐を使った除去衛星(お掃除ロボ衛星)。目標のデブリに近づき、お掃除ロボ衛星から捕獲用のアームを伸ばしてしがみついた後、導電性テザーという長いひもを数km伸ばしてデブリに取り付ける。電気的な力で自動的にデブリにブレーキをかけデブリの速度を落とすことで、衛星とお掃除ロボ衛星が徐々に高度を下げ、大気圏に落としていく。
導電性テザーの構成導電性テザーの構成
 導電性(ベア)テザーは、重量、強度、電気抵抗、熱光学特性、電子収集特性、柔軟性、テザー繰り出し時の摩擦特性などを考慮して構成が決定、軽量化のため導体はアルミニウムとし、高強度のステンレス繊維と編むことにより強度・剛性とも向上させている。またテザー形状については、ミリサイズのデブリが衝突してもテザーが切断されないように、ブレーディング、網などの長寿命テザー構成を検討し、合金の種類や太さ、強度繊維などを変更して数種類の試作を行われている。

 この導電性テザーは、結び目なしに編み上げる丈夫な 無結節網の製造機を世界で初めて発明した漁網メーカーの日東製網が開発を進めている。髪の毛くらいの細さの繊維を撚り合わせた直径約1㎜の紐3本が網状に編まれている。小さなスペースデブリと衝突して1本が切れても、残り2本で耐え、網の機能が保てるものができているが、さらに強度や宇宙空間での摩擦特性を向上させるため、導電性テザーへの固体潤滑材のショットピーニングなど各種の表面改質技術が検討されている。

 JAXAでは、2020年度までに、まず運用を終了した衛星の除去を目的とした小型衛星で技術実証を行い、次いで大型衛星による実用化を目指している。使用済み衛星やロケットを年間5基ずつ除去できれば現状の環境をほぼ維持でき、それ以上のペースで除去できれば危険回避に向け改善されていく可能性があると考えている。

 現在新たに打ち上げられる衛星では、運用を終えた後に軌道を意図的に下げて大気圏に安全に落下させるシステムが取られているが、スペースデブリ化した場合の責任の所在は明らかになっておらず、我が国も参加して、衛星などがスペースデブリ化しないようにするための国際指針の策定が、国連で進められている。引き続き、運用を終えた衛星が確実に大気圏で焼却されるシステムを徹底化させるとともに、スペースデブリ化した衛星の掃除が確実に行われるよう、各国でのお掃除ロボット衛星の技術開発の進展に期待したい。