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フェローテック、自動車におけるサーモモジュール・磁性流体の適用を拡大

 フェローテックホールディングス( http://www.ferrotec.co.jp/ )傘下のフェローテック( http://www.ferrotec.jp/ )は2018年1月に「オートモーティブ プロジェクト」を立ち上げた。すでに自動車用温度調節シート向けで多くの採用実績を持つ「サーモモジュール(ペルチェ素子)」、さらには同社創業の技術であり、車載スピーカーで実績のある「磁性流体」などを中心に、自動車市場の攻略に取り組んでいる。

 オートモーティブプロジェクトでは、グローバルでの自動車分野でのニーズを収集、燃費向上につながる自動車の軽量化や、電動化、自動運転化などに取り組む自動車業界に対し、サーモモジュールや磁性流体の新しい適用を提案、電気自動車(EV)用途を中心に、すでに市場から多くの反響を得ている。

 ここでは、フェローテック TE営業部 部長 八田貴幸氏と同社 FF営業部 部長 廣田泰丈氏、同社 オートモーティブプロジェクト 課長 二ノ瀬 悟氏に、自動車分野における同社サーモモジュールおよび磁性流体の現状の適用と今後の展開について話を聞いた。

左から八田 氏、二ノ瀬 氏、廣田 氏左から八田 氏、二ノ瀬 氏、廣田 氏

サーモモジュールの適用

 サーモモジュール(ペルチェ素子)は、対象物を温めたり冷やしたりする半導体冷熱素子のことで、N型とP型という異なる性質を持った半導体素子を組み合わせたモジュールに、直流の電気を流すと熱が移動し、一方の面が吸熱(冷却)し、反対の面が放熱(加熱)するというペルチェ効果を応用したもの。電源の極性を逆にすると、吸熱と放熱を簡単に切り替えることができる。

 こうした特性を活かして同社では、サーモモジュールの自動車分野での適用としては、実績のある温調シート以外の適用を拡大すべく、EVなど電動化へのソリューションを中心に、大別して以下の五つのアイテムで事業展開していくことを決めた。

キャビンのヒーター
 これまでの抵抗式ヒーターはジュール効果によって発生する熱エネルギー(ジュール熱)を利用したもので発熱効率(COP)が80~90%程度にとどまっている。

 これに対しサーモモジュールを利用したヒーターでは、放熱される熱量(Qh)が、熱量(Qc)と総消費電力(VI=ジュール熱)との総和となるため、抵抗式に比べ小さな電気で大きな加熱ができる省エネヒーターを構成できCOP100%超を実現でき、EVの航続距離延長に貢献できる。

 同社では現在、サーモモジュール製キャビンヒーターのモックアップ品を作り、評価を進めているところだ。

バッテリーヒーター
 電気自動車(EV)などのバッテリーとなるリチウムイオン電池は温度にセンシティブで、高温の場合、常温に比べ内部抵抗が上がり劣化が促進しやすく、低温の場合パフォーマンスが低下して、航続距離に影響を及ぼす。

 ラジエーターを用いた水冷などの自然冷却では細やかな温度制御ができず、微妙な温度制御が可能でバッテリーを最適な温度に保つことが可能なサーモモジュールが有効と見られる。EVでは重量の増加も電力消費の増大、航続距離の低下につながることから、軽量の温調システムとしてもサーモモジュールが貢献できる。

 現時点でバッテリーヒーターを採用しているEVのメーカーは1社のみのため、今後の採用が期待される。

ADAS向けCMOSイメージセンサ用クーラー
 先進運転支援システム(ADAS)では、全周囲の距離や画像認識を行い、死角を少なくして安全性を確保するために、1台当たり20個程度のカメラが搭載されると予測され、その機能を担うCMOSイメージセンサ (相補性金属酸化膜半導体を用いた固体撮像素子)の市場拡大が見込まれている。

 このセンサは熱に敏感で、熱によって引き起こされるダークショットノイズ (暗電流)は、発熱量とともに増大して画像の精細さを欠く結果となる。これに対して高精細な画像を得るのに寄与できる、冷却用のサーモモジュールへの期待が高まっている。

ADASカメラ用GPU
 GPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)は画像処理用に特化して開発されCPUよりも効率的な画像処理が可能な半導体チップだが、発熱が大きく熱によって処理周波数の低下もしくは処理の停止等の処置を講じる必要がある。

 このことから、ADASで安全性を担保するカメラの撮像の高応答・高速処理を行う上では、サーモモジュールを用いてGPU冷却アッセンブリーを構築、GPUの高応答・高速処理実現に寄与できることを提案していく。

その他の温調用途
 同社のサーモモジュール製品は、売上の30%が自動車向けで、そのメインが温調シート向けのため、温調用途の拡大として、飲み物の温度を最適に保つ温調カップホルダーや、冬場/夏場に冷たくなったり熱くなりすぎたりしないようにサーモモジュールを組み込んだ「温調ステアリング」も提案を進めている。

 また、LEDヘッドライトや、より遠方の照射を可能にするレーザーヘッドライトなどでも、高出力化に伴う発熱を抑制する温度制御が必要になる。同社では、自動運転システムのセンサなどで採用が有力なレーザー光を使ったレーダー「LiDAR(ライダー)システム」でも、発熱によるレーザーの波長安定性の劣化を回避するために、サーモモジュールの技術が有用と考えている。

サーモモジュールの応用例サーモモジュールの応用例

磁性流体の適用

 磁性流体は、流体でありながら外部磁場によって磁性を帯び、磁石に吸い寄せられる機能性材料である。基本成分は、磁性微粒子、界面活性剤、キャリアとなるベース液(潤滑油)であるが、直径約10nm(ナノメートル)の極小の酸化鉄粒子が、凝集を防ぐ界面活性剤で被膜され、安定的に分散したコロイド状の液体となっている。

 自動車分野ではすでに磁性流体の放熱効果やダンピング効果などによる高音質化や小型化などからスピーカーに採用されているが、今後は以下のとおり五つの分野に注力し、ドライビングフィール向上や電動化対応などで適用拡大を狙う。

ハプティックデバイス
 リニア振動デバイスを活用した磁性流体の粘性のアクティブ制御によって、「ヘッドアップディスプレイ(HUD)などのタッチスクリーンパネル用の触覚デバイス(ハプティックデバイス)などの制振(ダンピング)に適用できる。

ハプティックデバイスハプティックデバイス

磁性流体コンポジット材料
 磁性流体のナノ技術をベースとして、高い周波数領域でも磁気応答性が優れ、磁気ヒステリシスが極めてゼロに近い当社の磁性コア材料「Hzero®コンポジット」は、各種樹脂材料に磁性流体を均一に分散させて練り込むことで、固形物、ゴム、ゲル、スポンジ材料から、接着剤といった形で提供できる。

 たとえば、磁気ヒステリシスがない磁性樹脂(接着剤・シーラント)として、磁場による誘導によって、クラックの検出や補修、漏洩磁束の抑制などで、エネルギー効率を改善できる。モーターの使用がますます増えていく自動車業界において、Hzero®コンポジットによる漏洩磁束の改善により、省エネ、バッテリー寿命延長に貢献できるほか、将来的にはEVの非接触充電のための材料としても期待されている。

漏洩磁束の改善イメージ漏洩磁束の改善イメージ

高精度直流電流測定センサ
 磁性流体は磁界を作用させることで磁化するが、磁界を取り除くとすぐに磁化が消失する、いわゆる「超常磁性」を示す。

 磁性流体をベースにした、超常磁性を有する固体材料Hzero®を磁性コアとした「高精度直流測定センサ」は、ゼロ点まで精度良く測定できるものである。リチウムイオン電池では、過放電と過充電を避けるために安全マージンをかなり大きくとっているが、より精度良く充電レベル(SOC)を推定できるようになることで、車載バッテリーの利用効率の向上、電気自動車(EV)の走行距離延長につながる。すでに自動車メーカーや自動車部品メーカーから具体的な要求を突き付けられており、トライアルを進めている。

 
SOC監視用 高精度直流測定センサSOC監視用 高精度直流測定センサ

振動制御用磁性流体
 アクティブに振動を抑制する「アクティブダンパー」への適用を検討しており、同用途において市場で流通している磁気粘性流体(MRF)に比べ、磁気応答性、印加磁場によるせん断力(粘性)変化、分散性、潤滑・摩耗特性などで優位性のある「MCF(Magnetic Compound Fluid:磁気混合流体)」を開発した。

 MCFは、磁性流体よりも大きい磁性粒子からなり、印加磁場によって磁性粒子の配列を制御し、アクティブダンパーや様々な振動吸収に適用できると見られている。

 米欧のメーカーではMRFの粒子が均一に分散せず沈殿しまっても、ダンパー内で攪拌されて何とか機能できるとして分散の不均一性を許容しているが、性能の長期保証を重視する日本のメーカーには、同社の磁性流体ノウハウを生かした長所を訴求できると考えており、同社では各々の特徴を活かせる応用を提案し、採用につなげていく。

新MCFについての分散性(左)と摩耗性能(右)についての優位性の例新MCFについての分散性(左)と摩耗性能(右)についての優位性の例

熱輸送システム
 EVでは発熱を伴う機器の冷却が重要だが、ループ循環系の熱輸送システムを構築するには一般的に流体を循環させるためのポンプなど機械的駆動力が必要となる。これに対し、温度上昇に伴い磁化が著しく減少する性質をもつ感温性磁性流体を用いることで、機械的な動力なしに流体の自己循環可能となることから、大学と共同で、長時間にわたり安定した連続運転が可能な感温磁性流体を用いた熱輸送システムを構築している。

感温性磁性流体を用いた熱輸送システム概念図感温性磁性流体を用いた熱輸送システム概念図

今後の展開

 サーモモジュールは、コンプレッサーなどの外部装置を必要とせず小型・軽量で、低消費電力、低コストで、フロンを必要とせず環境負荷のない温度制御が実現できる。こうしたサーモモジュールの長所をアピールしながら、自動運転を見据えた各種システムについても、提案を進めていく。

 磁性流体は、紹介した熱輸送システムのように機械的駆動力を必要とせずに自己循環が可能など、軽量でコンパクトなシステムが組めることから、上述したテーマ以外でも、自動車で適用できるアプリケーションは少なくないと見ている。特に磁性流体はリニア振動デバイスへの適用実績が可増えてきていることから、今後タッチパネルが多用されるであろう自動車においてはリニア振動デバイスを活用したハプティクスデバイスとしての適用も期待している。

 フェローテックでは、ここで紹介したサーモモジュールや磁性流体のほか、DCB基板(セラミックス基板に銅板を直接接合した絶縁放熱製品)を中心とした、独自技術のアプリケーションの拡大によって、自動車分野向けのビジネスを強化していく考えだ。

 本年1月16日~18日に東京都江東区の東京ビッグサイトで開催される「第11回オートモーティブワールド」のフェローテックブースでは、今回紹介したような自動車向けのサーモモジュールおよび磁性流体の新技術を動態展示も含めて紹介する。1月18日12:20 ~13:20には東-C セミナー会場で「磁性流体・熱電材料技術と次世代自動車課題への応用」と題して技術セミナーを開催( https://jan2019.tems-system.com/Content/eguidebook/images/dl_logo_s/EV_… )。磁気ヒステリシスのない新材料Hzero®®を用いた高精度直流センサ、熱電素子を用いた各種車載向け熱対策アセンブリ製品によるソリューションについて述べる予定だ。

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