フェローテック、ペルチェ素子・磁性流体の自動車分野での応用を加速

 フェローテックホールディングス( http://www.ferrotec.co.jp/ )傘下のフェローテック( http://www.ferrotec.jp/ )は2018年1月に「オートモーティブプロジェクト」を立ち上げた。すでに自動車用温度調節シート向けで多くの採用実績を持つ「サーモモジュール(ペルチェ素子)」、さらには同社創業の技術であり、車載スピーカーで実績のある「磁性流体」などを中心に、自動車市場の攻略に取り組んでいる。オートモーティブプロジェクトでは、グローバルでの自動車分野でのニーズを収集、燃費向上につながる自動車の軽量化や、電動化、自動運転化などに取り組む自動車業界に対し、サーモモジュールや磁性流体の新しい適用を提案している。

 ここでは、同社TE営業部長 八田 貴幸氏、FF営業部 部長 廣田 泰丈 氏、オートモーティブプロジェクト 課長 二ノ瀬 悟 氏に、本年1月16日~18日に東京都江東区の東京ビッグサイトで開催された「第11回オートモーティブワールド」で披露した、ペルチェ素子および磁性流体の自動車分野での応用技術を中心に、同社の自動車分野での取組みについて話を聞いた。

kat19051601左から廣田 氏、二ノ瀬 氏、八田 氏

自動車分野でのペルチェ素子の適用とメリット

 ペルチェ素子(サーモモジュール)は、対象物を温めたり冷やしたりする半導体冷熱素子のことで、N型とP型という異なる性質を持った半導体素子を組み合わせたモジュールに、直流の電気を流すと熱が移動し、一方の面が吸熱(冷却)し、反対の面が放熱(加熱)するというペルチェ効果を応用したもの。電源の極性を逆にすると、吸熱と放熱を簡単に切り替えることができる。

 ペルチェ素子のこうした特性を活かし自動車分野では温調シートで多数の実績を持つが、今回の展示会では温調シート以外の適用を拡大すべく、以下のような提案と適用によるメリットを打ち出した。

kat19051608ペルチェ素子の新提案とメリットについて語る八田 氏

◆車載用カップホルダー
 フェローテックのペルチェ素子を用いた車載用カップホルダーはすでに、同社のペルチェ素子を利用した自動車用温度調節シートを自動車OEMに納入している業者を通じて、海外の自動車OEMで採用実績がある。

 ドリンクを冷えたままに、あるいは温かいままに保つカップホルダーを車載する車両では、HVACユニット (Heating Ventilation Air Conditioning unit:暖房・換気・空調ユニット)が採用されるケースが多い。つまりエアコンの風を利用して冷却・加熱がなされているのだが、この方式は冷却・加熱効率が悪く、また電力消費もばかにならない。これに対してペルチェ素子は小型・軽量・省電力のシステムで、カップホルダーへの加熱・冷却の切り替えはモード切り替えスイッチによって直流電流の極性を反転するだけで行え、冷却・加熱機能を0.1℃単位で設定することができる。

 このペルチェ素子を利用した省電力で積極的に温度制御が可能なカップホルダーに対し、国内の自動車OEMも関心を示していることから、同社ではプロトタイプを製作・提出し、OEMで評価してもらう予定だ。まずはHVAC方式を採用している車両を対象に、ペルチェ式カップホルダーの採用を促していく考えだ。

kat19051602ペルチェ式カップホルダー

◆バッテリーの温度コントロール
 電気自動車(EV)のバッテリーとなるリチウムイオン電池は温度にセンシティブで、高温の場合、常温に比べ内部抵抗が上がり劣化が促進しやすく、低温の場合パフォーマンスが低下して、航続距離に影響を及ぼす。例えば急速充電を繰り返すとバッテリーの過熱劣化が起こり、それを防ぐフェールセーフ機能によって充電速度を低下させる制御が入る。それを防ぐにはバッテリーの発熱をコントロールする必要があるが、ラジエーターを用いた水冷などの自然冷却では細やかな温度制御ができない。

 これに対しペルチェ素子は微妙な温度制御が可能で、バッテリーを最適な温度に保つことが可能なため充分な充電が可能になる。さらにEVでは重量の増加も電力消費の増大、航続距離の低下につながることから、軽量の温調システムとしてもペルチェ素子が貢献できると見ている。

◆キャビンの温度コントロール
 これまでの抵抗式ヒーターはジュール効果によって発生する熱エネルギー(ジュール熱)を利用したもので、発熱効率(COP)が80~90%程度にとどまっている。

 これに対しペルチェ素子ヒートポンプによる熱移動を利用したヒーターでは、放熱される熱量がジュール熱と、大気の熱量(環境温度が0℃以下の場合でも大気から熱を吸収)との総和となるため、COP100%超を実現できる。つまり、抵抗式ヒーターに比べて小さな電気で大きな加熱ができ、EV用バッテリーの電力消費を大きく削減でき、EVの航続距離延長に寄与することが可能となる。

 ペルチェ素子を用いた自動車車室内の暖房および冷房(キャビンヒーターおよびキャビンクーラー)は軽量・コンパクトで済むため、冷暖房のない超小型EVなどで快適な車室空間を実現できるとして、OEMでの検討が進んでいる。

kat19051603バッテリーおよびキャビンの温度コントロールのモックアップ

◆ADAS向けCMOSイメージセンサ用クーラー
 先進運転支援システム(ADAS)では、全周囲の距離や画像認識を行い、死角を少なくして安全性を確保するために、1台当たり20個程度のカメラが搭載されると予測され、その機能を担うCMOSイメージセンサ (相補性金属酸化膜半導体を用いた固体撮像素子)の市場拡大が見込まれている。

 このセンサは熱に敏感で、熱によって引き起こされるダークショットノイズ(暗電流)は、発熱量とともに増大して画像の精細さを欠く結果となる。これに対して車載カメラのCMOSイメージセンサに冷却用ペルチェ素子を装着することで高精細な画像を得ることを可能にしている。OEMでの具体的な検討が始まってきている。

kat19051604CMOSイメージセンサ用クーラー

自動車での磁性流体の適用とメリット

 磁性流体は、流体でありながら外部磁場によって磁性を帯び、磁石に吸い寄せられる機能性材料で、磁性微粒子、界面活性剤、キャリアとなるベース液(潤滑油)からなる。直径約10nmの極小の酸化鉄粒子が、凝集を防ぐ界面活性剤で被膜され、安定的に分散したコロイド状の液体となっている。

 自動車分野ではすでに磁性流体の放熱効果やダンピング効果などによる高音質化や小型化などからスピーカーに採用されているが、今回の展示会でフェローテックは、以下のような新提案を行った。

kat19051609磁性流体の新提案と現状について語る廣田 氏

◆振動制御用磁性流体
 欧米においては、足回りの振動を抑制する「アクティブダンパー」に磁気粘性流体(MRF)が採用された実績があるが、粒子が均一に分散せずに沈殿してしまう、磁気応答性が良くないといった課題がある。これに対し同社では、磁気応答性や印加磁場によるせん断力(粘性)変化、分散性、潤滑・摩耗特性などで優位性のある「MCF(Magnetic Compound Fluid:磁気混合流体)」を開発し、アクティブダンパーへの応用を提案している。

 新開発のMCFは、磁性流体よりも大きい磁性粒子を主成分とすることで、印加磁場によって磁性粒子の配列を制御し、アクティブダンパーや様々な振動吸収に適用できる。市場にあるMRFはおしなべて粒子が均一に分散せず沈殿してしまう。これに対し、新開発のMCFは分散性が良好で1ヵ月以上経過しても沈殿することがない。

 自動車には足回りの振動やエンジン回りの振動のほか、あらゆる振動系が組み込まれている。たとえば車室内における振動・騒音などを解消できれば、ドライバーの快適性を実現できる。同社ではMCFの優れた分散性と耐摩耗性能で差別化を図り、採用を促していく考えだ。

kat19051605MCFを封入したアクティブダンパーのデモ機

kat19051606MCFの優位性の例:良好な分散性

◆磁性流体コンポジット材料
 直径約10nmの磁性流体をベースとして、高い周波数領域でも磁気応答性が優れ磁気ヒステリシスが極めてゼロに近い磁性コア材料「Hzero®コンポジット」は、各種樹脂材料に磁性流体を均一に分散させて練り込むことで、ゴムやゲル、スポンジ材料、接着剤のような液体といった形で提供できる。たとえばゴム状にしたものでは静音性を高めるのに効果があると見られる。新開発のMCFを分散させたHzero®コンポジットであれば、制振ダンパーとしても利用できる。自動車部品メーカーや先進開発のOEMなどが興味を示している。

◆感温性磁性流体を用いた熱輸送システム
 EVではバッテリーなど発熱を伴う機器の冷却が重要だが、ループ循環系の熱輸送システムを構築するには一般的に流体を循環させるためのポンプなど機械的駆動力が必要となり、バッテリーを消費させることになる。

 これに対しフェローテックでは、温度に反応して磁化が大きく変化する「感温性磁性流体」を用いたループ状の流路を持つ熱輸送システムを提案している。感温性磁性流体を用いた熱輸送システムでは、流路の高温側と低温側の間に磁石を設置。ペルチェ素子で加熱された磁性流体は温度上昇に伴い磁化の大きさが減少し磁石にあまり反応しないが、低温側の磁性流体では磁化の大きさが上昇し、磁石に強く引き寄せられる。これによって低温側から高温側へと、感温度磁性流体の流れ(駆動力)が発生し、この流れにより熱を輸送できる。

 つまり、機械的な動力なしに流体の自己循環が可能となる。採用には時間がかかると見込まれるが、自動車メーカーに訴求して部品メーカーでの適用を促していく考えだ。

kat19051607感温性磁性流体を用いた熱輸送システムのデモ機

今後の展開

 フェローテックでは、上述したような技術の市場参入の難易度などを勘案して、短期(1~4年)、中期(2~6年)、長期(4~8年)の計画をもって提案を進めていく。

kat19051610オートモーティブプロジェクトの短期~長期計画について語る二ノ瀬氏

 いずれも自動車分野で近い将来問題となる諸課題へのソリューションだと考えられるが、早い時期に提供が可能な技術から、時間をかけて実用的なものに仕上げていく必要がある技術までを、それぞれ時系列でプロットしている。

 短期的には実績のあるシートの温調としてのペルチェ素子やスピーカー向け磁性流体のビジネスを拡大するとともに、海外で実績のあるカップホルダーや、CMOSイメージセンサ用クーラーなど、技術としてイメージがしやすく検討が始まっている案件に向けて、ペルチェ素子をいかに作るかを考えていく。

 中期的には、超常磁性を有する固体材料Hzero®を磁性コアとした「高精度直流測定センサ」やヘッドアップディスプレイ(HUD)向けペルチェ素子などを、長期的にはキャビンやバッテリーの温調向けのペルチェ素子や、MCFを用いたダンパー、感温性磁性流体を用いた熱輸送システムなどを、その時々のユーザーニーズをとらえながら技術をブラッシュアップして、実用化していく意向だ。

 自動車分野では前述の技術課題のほか量産キャパシティーやコストなどへの対応が求められるが、フェローテックではペルチェ素子および磁性流体のNo.1サプライヤーとして量産やコストへの対応が可能と自負する。同社では今後の需要に対応できる体制を強化しつつ、一点集中ではなく、全方位にリソースを最適配分しつつ、各種技術課題を解決するための最適なソリューションを提供していく考えだ。

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