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第205回 FOOMA JAPAN 2017にみる食品機械の生産性・安全性向上

会場
 FOOMA JAPAN 2017(国際食品工業展)が6月13日~16日、東京ビッグサイトで開催された。ここでは、同展にみる、食品機械における生産性向上と、安全衛生面の向上の取組みを紹介したい。

潤滑技術が、どう使い分けられているか?


 近年、異物混入事件などに伴い「食の安全」が声高に叫ばれる中で、食品機械には異物混入を防ぐことや、菌の繁殖を抑えることが強く求められている。一方で食品機械は、食品加工業者にとって生産性、つまりはコストにかかわる生産機械のため、突発故障に伴う稼働休止(ダウンタイム)のロスを最小限に抑える目的で、保守管理、特に軸受・潤滑管理が重要になる。

 食品機械において、コンベアなどに運ばれて食品が通過する製品ゾーン(プロダクトゾーン)の真上などに駆動機器がある場合には、使われるベアリングなど部品は腐食に強いステンレス製とするとともに、近年は、ベアリングに封入されたグリースが漏れ出て食品に混入したとしても人体に害を及ぼさない組成の「NSF H1規格」登録のグリースが推奨されている。

 食品機械用潤滑剤を使用する必要性は、食品工場向けロボットを含めて、食品機械の種別を問わず浸透してきているようだ。しかし、すべての可動部に食品機械用潤滑剤を適用するわけではなく、細かく使い分けられている。
安川電機 可動部にNSF H1グリースを使用した「トッピングロボットシステム」安川電機 可動部にNSF H1グリースを使用した「トッピングロボットシステム」

 たとえばフライヤーは調理油に浸漬された状態でエビなどを載せた下側コンベアが稼働し、その下方に配置されたランプヒータなどの熱源により油温が上げられて揚げ作業が行われる。この時に食材の上方に設置された押えコンベアが同期して稼働している。この押さえコンベアは食品の上方にあって食品と接するため、コンベアの軸受グリースには食品機械用グリースが用いられている。しかし、調理油の中で稼働する下側コンベアの軸受には高温に耐えるグリースがないとの認識からか、ベース金属中に固体潤滑剤を均一に分散させた金属系無給油すべり軸受(大同メタル工業の「サーマロイ」など)が使われているという。プロダクトゾーンから分離されたカス取り装置の軸受などには、一般的な鉱油系グリースを使っている。

 また、前川製作所では冷やした空気を吹き込むことで、冷凍庫内の温度を下げ冷凍を行う「エアーブラスト方式」(空気凍結)と庫内に設置されたスリットからの噴流を効率よく食品にあて、表面に膜を作り水分の蒸散を防ぎながら急速に凍結する「衝突噴流方式」を加えることで、凍結(冷却時間)を1/2~2/3に短縮したストレート型連続式急速凍結装置「Thermo-Jack Freezer」などを展示していた。食材を搬送するコンベアには食品機械用グリースが封入された軸受が用いられるか、仕様によっては半割の無潤滑樹脂軸受などが使用される。冷却空気を循環させるファンは、食品が搬送されるコンベアの上に配置されるものの、極低温下での高速回転が求められることから、無給油の軸受が検討、磁気軸受を採用するケースもあるという。
前川製作所「Thermo-Jack Freezer」前川製作所「Thermo-Jack Freezer」

 サタケの、多彩なセンサで機械の稼働状態をモニターできる製粉機「HS Rollermill」では、粉砕ロールの両端の軸受に集中給油装置によって適量の食品機械用グリースが給脂される。しかし、同社の主力製品である精米機では、米が洗われて食される性質から、かつては食品機械用潤滑剤を使用するという認識は少なく、比較的近年になってから採用され始めたそうだ。
サタケ「HS Rollermill」サタケ「HS Rollermill」

食品加工では離型油も使われる

 食品機械用潤滑油剤の規格としては、食品が付着するのを防止するために、接触する硬い表面に使用できる離型油の規格「NSF 3H」というものもある。食品加工には、製パン機のように捏ねて成形する際に生地がくっつかないようにしたり、どら焼きのように銅板の上で押圧して焼く際に焦げ付かないようにする工程がいくつもあるためだ。

 たとえばマスダックの「全自動どら焼き機」は、コンベアで送られる焼成部の銅板の上に皮の生地を落として下から焼き、さらに上からも赤外線ヒーターで効率的に焼くことができる機械だが、どら焼きと接する焼成部の銅板にはNSF 3H規格登録品の離型油がリューベ製などの給油装置で供給。毛細管現象で銅板表面に離型のための油膜を形成している。
マスダック「全自動どら焼き機」の銅板にはNSF 3H離型油が給油マスダック「全自動どら焼き機」の銅板にはNSF 3H離型油が給油

駆動部を分離する

 駆動部がプロダクトゾーンから分離される機構も採り入れられている。ソディックの「麺帯連続圧延切出機DDMシリーズ」では、ダイレクトドライブ(DDM) 方式により、ロール・切刃回転軸に中空軸モータが直結。雄、雌ロールのかみ合いギヤは、装置下部に設けたオイルバス密封パッケージで潤滑されるため、グリースレスで、歯の減りや摩耗粉の発生、混入の心配もないという。オイルバスは下部に隔離してあるため一般のギヤ油が使用されている。

水環境下での潤滑をいかに確保するか?

 食品機械は製パン機など水を噴霧する機構が多く、また作業後の洗浄工程が不可欠のため、水環境下での潤滑をいかに確保するかは大きな課題だ。

 これに対し、BPジャパン カストロールインダストリアル事業本部では、水に流されにくいPAOを基油としたNSF H1登録の合成系チェーンオイル「オプチレブCH」を紹介したが、潤滑剤を用いずに材料の自己潤滑性や耐摩耗性を利用したアプローチもある。

 イグスでは、自己潤滑性があり耐摩耗性がある材質のすべり軸受「イグリデュール」や球面ベアリング(イグボール)、リニアガイド(ドライリン)といった高性能ベアリングや、ケーブル保護管「エナジーチェーン」などを組み合わせて、水中において無潤滑にメンテナンスフリーで稼働できるデモ機を展示。腐食対策や潤滑管理が要らず安全に使用できることをアピールした。
イグス 水中で無潤滑・メンテナンスフリーで稼働できるポリマー製品で構成したデモ機イグス 水中で無潤滑・メンテナンスフリーで稼働できるポリマー製品で構成したデモ機

 今回の展示会をのぞいて感じたことは、食品機械における潤滑技術の適用はまだまだ模索の途上にあるということだ。潤滑油剤メーカーや材料メーカー、機械要素メーカー、食品機械メーカー、食品加工業者などが一体となって生産性が高く、安全衛生が徹底的に確保された、食品機械に最適な潤滑手法が確立されることを期待したい。