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 本作は、ギュンター・グラス原作、フォルカー・シュレンドルフ監督による、1979年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品。

 舞台は第1次大戦と第2次大戦の間のダンツィヒ。カシュバイの荒野で芋を焼いていたアンナ(ティーナ・エンゲル)が放火魔コリャイチェク(ローラント・トイプナー)をスカートの中に匿うという出会いから誕生したアグネス(アンゲラ・ヴィンクラー)は、成長してドイツ人の夫を持つが、従兄のポーランド人ヤン(ダニエル・オルブリフスキ)と愛し合いオスカル(エンゲル・ベネント)を生む。しかしそのオスカルは3歳の誕生日、大人たちの狂態に耐え切れず、自ら階段から落ちて成長を止めてしまうのである。ナチスが台頭していくドイツでヒットラーをはじめとする大人たちの繰り広げる不条理から1cmすらも成長を拒むオスカルの目指すところは…。

 さて、成長を止めたオスカルには、同時にある種の超能力が備わることとなる。彼が太鼓を叩きながら叫び声を上げると、ガラスがき裂し、ひいては粉々に砕けるのである。同じく成長を止めた慰問団のヒロイン、ロスヴィーダ(マリエラ・オリヴェリ)と出会いその能力を披露する際、彼は奇声を発してワイングラスにハートのマークを刻んでいく。これは、まさにガラス彫刻である。サンドブラストに似ている。サンドブラストとはコンプレッサーで圧縮した空気で金剛砂などの研磨剤をガラス表面に吹き付け彫り込んでいく。同じ手法で加工材をガラスでなく金属として粒子を、その表面にぶつけて残留圧縮応力を付与することでギヤなどの疲労強度向上、耐応力腐食割れ向上などに用いることをショットピーニングという。微粒子をぶつける場合はWPC処理になる。ところでサンドブラストでは吹き付ける強さをコントロールすることでデリケートな表現からダイナミックな深彫りまで多彩な表現が可能となる。オスカルの場合は奇声とともに、階段から落ちた際に砕けたモース硬度7くらいの歯か何かのアブレッシブなものをぶつけて、モース硬度5,5程度のガラスを削っているのではないだろうか?

 本作はドイツ第三帝国が蹂躙していくダンツィヒの町で、大人たちが蹂躙していくオスカルの心を、悲惨で混迷した中に恋心やユーモアも交えて綴る異色の大作である。