第86回 風力発電の市場変化で求められる潤滑油技術

三菱提供:三菱重工業 世界風力エネルギー会議(GWEC)が発表した2009年末の風力発電導入量は世界全体で昨年度比約31%増の1億5,790万kWとなり、1年間の増加量では、1位が風力発電を環境対応型エネルギーの柱に位置づける中国の1,300万kW(2008年比207%)、2位がグリーンニューディール計画を掲げる米国の1,000万kW(2008年比140%)となった。日本は18位となる18万kWで、本欄で何度も訴えているとおり、引き続き政策も含めた今後の導入促進が期待される。

 この傾向に見られるように、デンマークのヴェスタスを筆頭に一時は約7割のシェアを占めていた欧州勢は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)、印スズロンエナジー、中国シノベルなどの追撃により、2008年度にはシェアを4割程度まで落としてきている。特に市場が一様にピークアウトを迎え、また金融危機の影響でプロジェクトファイナンスを組むことが難しい欧州に対し、中国やインドなどの新興国は建設のキャパシティーが巨大な市場としても成長してきている。こうした市場を中心に風力発電機の定格出力は、主流が2MW級以上と大型化が進んできている。一方で、極地に近い地点やこれまで以上に温度変化が厳しい場所に立地せざるを得ない状況が増えてきており、こうしたニーズに対応して機械を正常に稼働・維持する各種機械要素とその潤滑油技術の高性能化がますます求められてきている。

nedo提供:NEDO 風力発電機では、ブレード(羽根)で風を受けてロータを介して主軸が回転、その10~30rpmの回転速度を増速機により発電可能な1,200~1,800rpmという回転速度まで増やし、発電機により発電する。これら機械要素に対応する風力発電機用潤滑油としては主に、主軸軸受のグリース、増速機のギヤ油、発電機軸受のグリースがあり、増速機や発電機を収納するナセルが地上数十mという高さに設置されメンテナンスが容易でないことから、共通してロングライフ化(メンテナンスフリー)が求められる。風力発電機が新設されて5年以内に部品交換が必要となる風車は10~20%に上るといわれるが、特に増速機やベアリングのトラブルが多く、上述の装置の大型化や厳しい温度条件での使用という傾向もあって、増速機用潤滑油のさらなる性能向上が求められている。

 大型化し風車の出力が2倍になると主軸トルクは2.8倍になると言われ、増速機のギヤや軸受に多大な応力がかかるようになってきているため、風力発電機増速機用ギヤ油では、歯面の損傷防止(摩耗や焼付きの防止)の機能、つまり耐摩耗性がますます重要になってきている。そこで潤滑油には極圧添加剤が用いられることになるが、風車においてはこの極圧添加剤が歯面のマイクロピッチングや軸受の疲労損傷を招くことがあるほか、酸化劣化を受けてスラッジ(夾雑物)を生成することもあるという。スラッジはフィルターを詰まらせ潤滑機能を低下させるばかりでなく、フィルターの交換という保全作業も発生させる。これに加えシベリアなどの極地に設置される局面も出てきたことから、-45℃といった極低温からの温度領域でも粘度特性を低下させず潤滑し続けることが求められている。

 そこで適当な極圧添加剤や酸化防止剤などを選定し歯車の焼付き防止やスラッジ防止に有効な配合にするほか、低温から高温までの粘度特性に優れた高粘度指数(高VI)のベースオイル、特にポリアルファオレフィン(PAO)が基材として必須となってきている。

 この風力発電機用潤滑油は、発電機の市場を牽引するのが欧米勢であることから英国BPや米エクソンモービルなど欧米のメジャー系が高いシェアを占める。某メジャー系によれば、「風力発電機増速機用ギヤ油の規格を見ても、欧州メーカーのインハウス規格が採り入れられたものが多く、一つの試験をクリアするのに数千万円の試験機が必要になるなど莫大な初期投資がかかることから、なかなか後発のメーカーには入りにくい市場」という。確かにある種の潤滑油添加剤が軸受の疲労損傷を招くことから、独FAG(現シェフラー)やスウェーデンSKFといった軸受大手が軸受の性能を保証すべくギヤ油に関しての自社規格を発行、風力発電機トップのヴェスタスがFAG規格に合格した潤滑油を採用することを決め、風力発電機他社もこれにならっている。

 そのため欧米の発電機が市場の多くを押さえる国内でもまた、メジャー勢の潤滑油が多く流通している状況が続いているが、近年は三菱重工業を筆頭に国内風力発電機メーカーも開発を加速、国内でも出光興産など石油元売りや協同油脂などグリース専業メーカーを中心に風力発電機用潤滑油剤の開発が進んできている。使用条件が過酷化する風力発電機の性能、耐久信頼性を発現する潤滑油の国産化をベースに、わが国の風力発電ビジネスの活性化に拍車がかかっていくことを期待したい。