モータースポーツで奮闘する“隠れた”表面処理技術

モータースポーツで奮闘する“隠れた”表面処理技術

 8月30日、大分県オートポリスで開催されたフォーミュラ・ニッポン(Fポン)第7戦決勝。元F1レーサー中島悟氏が率いる「NAKAJIMA RACING」の小暮卓史選手が優勝、チームのチャンピオンシップ獲得も決まった。コースレコード1'32.556をたたき出した小暮選手のスウィフト・017.n FN09がゴールした瞬間、そのマシンのサイドミラーにある、「WPC」のロゴが大きく映し出された。

サイドミラーの「WPC」ロゴ このアルファベット3文字は、チームをスポンサードする不二WPCの社名の一部であり、同社独自の表面処理技術の名称でもある。ゴールの瞬間に多くの人が目にした華やかな「WPC」という文字とは対照的に、技術そのものはエンジンの中に“隠れた”一部に過ぎない。しかし、その一部技術が時に大きな役割を果たすことがある。今回の優勝は、エンジンの焼付きで頭を悩ませていたチームに解決策をもたらしたことで、WPCの性能が過酷な環境下で充分に通用することを裏付けた結果でもある。では、WPCとは何なのか?その技術の概要と現状について取材を行った。

疲労強度を上げ、油膜を保持するWPC

 WPC(Wonder Process Craft)処理とは、金属材料に20~200μmの微粒子を毎秒100m以上の高速でぶつけることで、金属の内部圧縮応力を高め疲労強度を上げるほか、金属表面にマイクロディンプル(MD)=オイル溜まりを作り潤滑性能やなじみ性を向上させる。二硫化モリブデン(Mos2)の微細粉をぶつけた(モリブデンショット)場合には、高純度のMoS2膜が金属最表面に形成されるため、著しいフリクション低減効果を示す。

 WPC処理では1997年から不二WPCが独占的に事業を開始、当初は疲労強度を高める効果から自動車生産ラインで使用する工具や金型工具で採用されていたが、市場の広がりが緩やかなことからアプローチしたのが、モータースポーツの世界だった。

 エンジンパーツでは、高速回転・高出力の過酷な状況で油膜切れが起こりやすい。また駆動系パーツには、エンジンのパワーアップやクラッチの伝達容量アップなどに伴い、大きな繰返し荷重が加わる。これに対しWPC処理は、低フリクション化でパワーロスを低減、表面の疲労強度を上げ油膜を保持して、異常摩耗やクラックを防ぐ。ル・マン用レースカーへの採用を皮切りにパーツ強化手法として知られるようになり、今ではチューニングカーから、FポンやGT選手権用のマシン、さらにはF1マシンにまで採用されている。

 過酷なマシンで磨かれた技術は市販車にも転用されていく。ピストンスカートとトップリングにMD処理したHondaシビックでは、焼付き荷重・耐摩耗性の向上と油膜保持によるフリクション低減が、ピストンスカート部にモリブデンショットしたHondaフィットでは、大幅なフリクション低減効果の持続による燃費向上が実現している。

 今年8月には、NAKAJIMA RACINGのチームスポンサーを引き受けた。チームの勝敗を左右するマシンの性能アップに貢献しながら、データを積み上げ、WPC技術にフィードバックしていく考えだ。
WPC処理

DLCとの組み合わせを産学公共同研究で推進

WPC+DLCの複合処理をしたピストンWPC+DLCの複合処理をしたピストン 不二WPCではモータースポーツや工具・金型での実証データをフィードバックして技術を磨くとともに、WPC処理の有効性や有用性を科学的見地から実証するため、研究機関への実験協力を積極的に進めている。

 たとえば自動車では軽量化からピストンのアルミ化が進んでいるが、摩擦・耐摩耗特性に優れるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を処理しようとしても、アルミ部材への密着性は低い。そこでアルミ部材にWPC処理を施し表面改質層を生成した後、DLCを施しその密着性を上げようと、神奈川県産業技術センターらと研究を進めている。この研究は「環境負荷低減に向けた微粒子投射法とDLCを組み合わせた自動車用アルミ部材の開発」として、平成21~23年度のNEDOイノベーション推進事業に採択された。

 同社ではこのほか、ハイサイクル成形のための金型・成形技術や医療機器向けチタン材料の改質技術など、幅広い産学公共同研究開発により蓄積したデータをフィードバックし、常に技術の追求を続けている。

コストよりも品質、性能の向上

 モータースポーツなど過酷な環境での耐久性を上げる技術の開発、そしてその技術を理論面から強化する共同研究といった研究開発の姿勢に加えて、社是としていることがある。

 それは、ユーザーに最高で安定した品質の製品を供給すること。そのために品質マネージメントの国際規格ISO9001を認証取得、全従業員が一丸となって品質管理に取り組む。「だから量産はやらない」下平英二社長はそう断言する。「量産品の話になると、品質や性能よりもコストが優先されがち。当社では品質が最優先。いいものを作って売って、それによってユーザーがいい結果を出して、我々もその対価をいただき、さらにいいものを作る。そういうWin-Winの発展的なサイクルで事業を進めたい」と決意を語る。

 11月には本社工場を相模原市に移転、WPC処理装置を30台に倍増し受注拡大に対応した。また、DLC処理装置を1台導入しWPC/DLC複合処理を始めるが、WPCがDLC膜の信頼性を向上させることを売り込むねらいだ。今後もFポンなどを通じWPCの露出度をさらに高めつつ、WPCを核に部材の機能性アップに挑む。
WPC処理が行われたマシンと下平社長WPC処理が行われたマシンと下平社長

株式会社不二WPC( http://www.fujiwpc.co.jp
【創立】平成9年
【事業内容】 WPC処理の受託加工、WPC処理装置の販売、その他装置の販売
【主要取引先】自動車メーカー、事務機器メーカーなど