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第05回『007私を愛したスパイ』

 スイスのリンスピード社が、水陸両用車のコンセプトモデル「sQuba」を開発した。水上走行に加え、水深10mまで潜水走行できるらしい。路上では電気モータで走行し、水上では二つのプロペラで、水中では二つのジェット口からの水の噴射で推進するとか。どこかで見たようなと思っていたら、映画『007私を愛したスパイ』の水陸両用ボンドカー「ロータス・エスプリ・サブマリン」がモデルとのことである。

 『私を愛したスパイ』は、007シリーズの10作目である。英国とロシアの原子力潜水艦がシージャックされ、英国からボンド、ロシアからアーニャ(トリプルX)の二人のスパイが諜報活動に送られる。黒幕は、地上の都市を核攻撃して壊滅させ海底都市を築こうとする海運王ストロンバーグ。計画を阻止しようとするボンドたちをマシンガンつきのヘリコプターや爆弾装備付きサイドカー「カワサキ2900」などが追撃し、そのチェイスのなか、ボンドカーは追跡を逃れ、潜水モードで水中へ…。ホイールがボディーに収納されハブ部分はシールドされ、側面から出された四つの水中翼で運行する。小型魚雷や地対空ミサイル、セメント散布装置(これはかなり環境に悪そう)などの武器を積載しているのだが、不思議なことにボンドガールであるロシアの女スパイ、アーニャがこのボンドカーの武器を操作する。

 「なぜ扱い方を知ってる?」と聞くボンドに、「2年前にこの車の設計図を盗んだから」とにっこり答えるアーニャ。なんともエスプリのきいたセリフである。しかし、この映画が1977年製作で、ロシア(当時ソビエト連邦)が新冷戦時代に突入する直前のデタント時代(1969年?1979年)末期であることを考えると、妙な真実味もある。

 さて、開発された「sQuba」だが、今のところ水圧の問題をクリアできずオープンカーで、酸素ボンベとマウスピースをつけて乗り込んで何とか2時間の潜水走行が可能なうえ、地上走行の最高速度120km/hに対し、水上走行で6km/h、潜水走行は3km/hとのこと。これでは時速4kmで泳ぐウナギにも追いつかれてしまう。水陸両用ボンドカーの実現は、まだまだ難しそうである。