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 一時期、大人になりきれない若者を「ピーター・パン・シンドローム」と称したことがある。近年のニートとかフリーターとかにあたるのだろうか。本作は、スティーブン・スピルバーグ監督によるファンタジー・アドベンチャーで、バリー作『ピーター・パン』の続編みたいなストーリーだ。

 ピーター・パンはロンドン・ケンジントン公園で乳母車から落ちて迷子となったことから年を取らなくなり、海賊のフック船長らが住むネバーランドで妖精・ティンカーベルらと冒険の日々を送る。宿敵フックをチクタクワニ(どこかで時計を食べたせいで、お腹から時計の音がする)が待ちかまえる海に蹴り落としたピーターの勝利で、物語は終わったはずだが…。

 映画では、ネバーランドを出て40歳となったピーター(ロビン・ウイリアムズ)の二人の子供たちがフック船長に連れ去られる。ピーターは現世で某社社長であり、自分がピーター・パンだと言われてもまったく信じないまま、妖精・ティンカーベル(ジュリア・ロバーツ)に連れられてネバーランドへ。子供たちを救い出すため、宿敵フック船長(ダスティン・ホフマン)との対決が始まる。

 チクタクワニに食べられたフック船長の右手はアタッチメント式の鉤手(つまりフック。タイトルからして、しゃれである)となっている。ネバーランドのシーンの冒頭で、召使いがこの超硬合金(!?)の鉤手をグラインダーで磨き、フック船長に届ける場面がある。ピーターへの憎悪を日々新たにしているようである。アタッチメント式なので、たまに鉤手でなくフェンシングのフルーレのようなものも付ける。さらった子どもたちを見方につけようと黒板を使い話し聞かせるときにはフルーレの先にチョークを突き刺している。でもやっぱり鉤手がマッチしているようで、ピーターとの剣での決闘の中で、グラインダーで削りながら鋭さを増した鉤手で襲いかかる。研削盤でいうところのグラインディングである。常に工具の目立てをして、切れ味を整えている。ところで、フック船長はチクタクワニを連想させる機械式時計を極度に恐れている。ピーターと一緒に戦う迷子たちがカラクリ時計をいっせいにフック船長に突きつけて脅かす場面も登場する。

 ピーター・パンの作者バリーは大人になりきれないピーターを批判的に、紳士的なフック船長を好意的に描いたといわれる。監督スピルバーグも、ピーターに対しては憎しみを抱えながらも子供たちには純粋な愛すべきキャラクターとしてフック船長を描いている。名優ダスティン・ホフマンをフック役に抜擢したのも、その意図の表れだろうか。