第162回 自動車部品のボリュームゾーン攻略で求められる材料・設計技術

 高密封性ハブユニット軸受(日本精工)高密封性ハブユニット軸受(日本精工)日本自動車部品工業会では先ごろ、2010年現在での会員企業を対象に海外生産に関する調査を実施、2010年の海外の生産法人数は2009年に比べ47社増(2.9%増)の1645社となり、2年連続で前年を上回った。1645社のうち中国を筆頭にアジアが65%(1068社)を、北米が16%(268社)を、欧州が11%(182社)を占めた。部品メーカーの中国を中心とした海外シフトが加速している状況が浮き彫りになった。部品メーカーの中国シフトはもちろん、一昔前のようにローコスト生産を目的としたものではなく、自動車メーカーと同様、現地での需要獲得を狙ったものだ。

新興国での使用を想定した製品・要素技術の開発を

日本企業の製品ポートフォリオ
 景気が減速したとはいえ、中国の2011年の自動車販売台数は1850 万台にのぼり、3年連続で世界一を記録している。日本の産業界ではこれまで、先進国向けを中心として高機能・高品質で高収益が得られるハイエンド商品を供給してきたが、中国を中心とするボリュームゾーンを攻略するには、コモディティ化したミドルレンジおよびローエンド商品で世界と戦わなくてはならない。ローエンド商品は価格を重視したもので、ミドルレンジ商品は価格と性能のバランスが求められる。ハイエンド商品を手掛けてきた我が国がローエンド商品で戦っても勝ち目はない。価格と性能をバランスさせたミドルレンジで一定の利益を確保しながら、量を追求すべきであろう。そこではもちろん、既存のハイエンド商品の単純な型落ちや機能省略による低価格化では現地ニーズに対応できず、需要を獲得できない。そこで新興国での使用環境を考慮した製品開発が進んできている。

高密封性ハブユニット軸受の構造(日本精工)高密封性ハブユニット軸受の構造(日本精工) 日本精工では、新興国に多く見られる未舗装路や冠水路、あるいは寒冷地域での積雪路など、泥、砂利、水という過酷な環境に曝されるハブユニット軸受において、高い信頼性と摩擦損失の低減を両立した「高密封性ハブユニット軸受」を開発した。ハブユニット軸受は車輪の中心にあって車体を支える重要な基幹部品のため、非常に高い信頼性が求められる。また、CO2排出量削減要求やガソリン価格高騰からクルマでは燃費改善が急務で、対応策の一つとしてエンジンからタイヤまでの全ての回転部分の摩擦(フリクション)を低減し、走行抵抗を低減することが求められている。外部からの異物混入を防止する手段としては、軸受の車体内側と車体外側にシールを装着することが広く用いられているが、シールの摩擦によるフリクションが課題となっていた。軸受の車体内側に金属性のキャップを嵌合する形式も用いられているが、十分な密封性を確保することが困難で、また車輪速センサと磁気エンコーダの間に金属性のキャップが介在することで、正確な車輪速の測定が困難になっていた。これに対し日本精工では、ゴムを加硫接着した非磁性体の金属キャップを新開発し、高い密封性による信頼性確保と低摩擦損失を両立させた「高密封性ハブユニット軸受」を開発した。

 また、NTNが開発した「過酷環境対応ハブベアリング」は、荷重・衝撃、泥水、低温フレッティングという3つの課題に着目した。荷重・衝撃には、ハブベアリングの内部設計を最適化したことで、軌道面の圧痕深さを従来の1/4に低減、耐荷重性能を向上させた。また、耐泥水にはシールのハブベアリング接触部形状を最適化し、泥水浸入を低減、耐泥水寿命を2倍以上に伸ばした。さらに、車を販売店へ届ける手段として、貨車による長距離輸送が増加、特に寒冷地では貨車走行時のレール間継ぎ目から発生する振動がハブベアリングの軌道面にフレッティング摩耗を発生させることがあったが、特殊グリースの採用により金属接触を防止し、特に低温時の耐フレッティング摩耗を従来の1/10以下に向上させた。密封設計に加えて、潤滑性能の向上で過酷環境でのベアリングの耐久性を高めている。

課題は現地での材料・設計技術

 繰り返すが、ミドルレンジ商品は価格と性能のバランスが求められる。つまり、上述のような現地の使用条件を考慮した製品を、コストを抑え開発し供給しなくてはならない。

 「現地・現物・現人」を掲げるNTNでは、早くから現地の軸受鋼を調査、「中国製の材料も日本製と同等の寿命を実現し始めている」(『日経Automotive Technology』2010年11月号、p.58)としつつも、すべての軸受鋼で安定した品質・清浄度を得られるわけではないことを踏まえ、“汎用材料を使いながらいかに要求する軸受機能を発揮できるものにするかが、今後の軸受メーカーの材料技術者の使命で、材料、熱処理・加工・粉体技術・コーティングなどの表面改質、潤滑技術などの要素技術の高度化や、個々の技術の複合化・コラボレーションが従来以上に重要” (NTN TECHNICAL REVIEW No.76(2008))と述べている。

 特に中国市場を見ると、将来的にはボリュームゾーンが富裕層市場へと移行する兆候がうかがえる。その局面では、日本企業が培ってきたハイエンド商品分野での強みが生かされる場面も増えてくるであろう。しかし、そのときになってもまだ、現地において日本と同等のハイエンド向けの材料が安定的に入手できるとは限らない。新興国でのミドルレンジからハイエンドへの市場移行を見据えて、材料技術をカバーする表面改質技術、ハブベアリングに見たような密封技術など設計技術を含むトータルなアプローチが、ますます求められている。